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十文字を破ったバニーズ、なでしこ2部との昇降格プレーオフへ

西森彰=取材・文

プレナスチャレンジリーグ・1~4位の順位決定戦は、9月30日(土)、最後に残った1試合が行われた。京都サンガのホームゲーム終了後、西京極総合運動公園陸上競技場のピッチに、なでしこリーグ2部9位チームとの入れ替え戦への出場権を賭けるのは、バニーズ京都SCとFC十文字VENTUSの2チーム。WEST、EASTの1位チームだ。

本来、このゲームは、前々週の9月16日に行われる予定だったが、台風接近による悪天候で、試合開催が順延になっていた。同日、予定通りに行われた、もう1試合で、首位の静岡産業大学磐田ボニータが、大和シルフィードを破って3連勝。なでしこリーグ2部への自動昇格を決めていた。チャレンジリーグWESTの序盤は世代交代もあって低調な戦いで、一時は昇格どころか最下位争いにまで巻き込まれていた静産磐田。リーグの折り返し地点を過ぎて最下位を経験したチームが昇格したのは、史上初めての快挙だ。



バニーズ、十文字ともに、この試合に勝つだけでは足りない。翌週に行われる、吉備国際大学シャルムと岡山湯郷Belleの岡山ダービーを制したチームとの入れ替え戦に勝つ必要がある。だが、まず目の前のこのゲームを勝たなければ、そこに立つ権利も得られない。

キックオフから、イニシアチブを握ったのはバニーズ。4-2-3-1の陣形から、トップの西川樹、両ウイングの吉田早紀、佐藤莉奈がラインの裏を狙い、十文字のゴールを脅かす。「ウチは前の3枚次第。そこで勝っていれば、どんどん勝負してもらい、勝てないようであれば後ろから作っていきます」と澤田由佳。23分には、狙っていたスルーパスから西川のシュートを引き出す。

「相手のセンターバックとこちらの3枚を比べた時に、『スピードでは分があるんじゃないか』と思っていました」と千本監督。ショートパスをつないでいくだけでなく、割り切って裏にも蹴る。出足のいい寄せもあって、十文字に十分な体勢でのビルドアップを許さない。43分にゴール前の守備ブロックを、楔のパスに林咲希が絡んで、さらに吉田へ。シュートは枠を外れたが、バニーズらしい攻撃だった。

さらに、前半終了直前、西川がペナルティエリア右外でファールを受けて、FKをもらう。キッカーは酒井望。千本監督の目には、力が入り過ぎているのがありありと見えたという。押し気味に進めているゲームで無得点。もちろん、ゴールが欲しい局面だったが、千本監督は「たぶん、フカすだろうな」と感じながらも、口をつぐんだ。

蹴る直前にベンチから「リラックスしろ!」と言っても、集中している選手のメンタルを乱すことになり、選手も失敗の原因をそちらに求めてしまう。それよりは、頭が冷静なところで指摘するほうがいい。

指揮官が感じたとおりに、酒井のキックはゴールを大きく外した。ハーフタイムに戻ってきた酒井に、千本監督は伝えた。「こんな重要な試合だから、いつもよりアドレナリンが出ている。いつもよりもキックが強くなっているぞ」。これが後半にモノを言う。

51分、バニーズは再び、右コーナーキックのチャンスを得る。キッカーは酒井。今度のキックは、十文字のGK・高橋純佳が出られない、ファーサイドの絶妙のポイントへ落ちる。セットプレーで上がってきていたDFの草野詩帆が詰めて、待望の先制点が生まれた。65分にバーを直撃する決定機も、そして試合を決める澤田の追加点も、酒井のコーナーキックからだ。「そういう意味では、いい仕事をしましたね(笑)」と自画自賛した千本監督。選手の心理まで考えた、采配が当たった。



十文字の柴山桂監督にしてみれば、前半を耐えて無失点で乗り切ったのだから、思い描いたプランから、そう遠くない展開だったはず。後半開始時点から右サイドに蔵田あかりを投入し、勝負をかけたが実らなかった。たいていの初顔合わせのチームにとって、蔵田のスピードはやっかいなものだが、バニーズのイレブンはそこまで慌てなかった。

「相手のベンチに高校生選手がいる。後半からピッチに出てくるだろう。そして、たぶん、この位置でこういう選手起用になるだろう。そうしたところまで、選手には伝えていました。蔵田選手については、おそらくサイドで出てくるということで、その特徴をウチのサイドバックに伝えていました」(千本監督)

この1~4位決定戦進出が濃厚になった段階から、バニーズの戦いは始まっていた。十文字のリーグ終盤戦には、越智健一郎ゼネラルマネージャーが「チームでいちばん下っ端なので(笑)」と自ら足を運び、その戦いぶりをビデオ撮影した。これをもとにして、千本監督が解析したデータを選手に伝えた。

「手数をかけてつなぐ」チームのイメージからはやや遠い、ライン裏に走る西川らをターゲットにしたロングフィードも「西川と相手CBのスピード差を考えて」のもの。さらに、守備では「トップ下の位置まで落ちてきた小林(一歩)選手が前を向いて、そこから斜めのパスで蔵田選手を走らせる。これがいちばん、嫌な形」ということで、センターバックの前に置かれた澤田も、いつも以上に、守備へ意識を置いてプレーした。

もちろん、試合前にいくら準備していても、実際にできるかどうかは別問題だ。「実戦の中で、試合前に指示されたとおり、プレーするのは、決して簡単じゃないんです。モニターに映る映像と、ピッチ内では視野も変わってきますし、感覚も違いますから。それをやりきった選手をほめてほしいです」と指揮官は選手を称えた。



2年前までは、パスはつなげるけれども、それを封じられたときに次の選択肢がなかった。それが、対戦相手の特徴を見極めて、自分たちの有利な局面で戦えるチームになった。「上のカテゴリーから来た、特徴のある選手たちが増えてきました」(澤田)。プレー面だけでなく、戦術理解度ひとつとっても、成長の度合いが見て取れる。

この日のスタンドには、堺でデーゲームを戦った吉備国大、翌日に試合を控える湯郷ベルの関係者も、姿を見せていた。10月7日(土)の岡山ダービーで敗れたチームが、バニーズとの昇降格プレーオフを戦う。スカウティングをしながら彼らの目に、この日のバニーズはどう映っただろうか。

「なでしこリーグ2部には、自分たちのようにつなぐスタイルのチームは少ないはず。相手が腹を立てるくらいにボールを回したい」(澤田)

そのコメントは奇しくも、数分前に千本監督が口にしたものとほぼ同じ。チームとしてプレーオフへ臨む姿勢は固まっている。最後の戦いでも、バニーズの持ち味を発揮できれば、なでしこリーグ返り咲きの可能性は大きくなるはずだ。
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