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リトルなでしこ、3位決定戦を制して、ウルグアイへの道を切り拓く。

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西森彰=取材・文・写真


U-16女子アジア選手権の最終日は、チョンブリスタジアムでのダブルヘッダー開催。アジアチャンピオンを決める決勝戦と、アジア発ウルグアイ行きの最終切符がかかる3位決定戦である。

韓国との準決勝でPK負けを喫した日本は、決勝戦の3時間前に行われる3位決定戦に出場する。優勢に進めていたゲームでリードを追いつかれ、延長戦なし、即ABBA方式によるPK戦というレギュレーションも不利に働いた敗戦だった。そのショックが、小さいはずがない。しかし、準決勝から中2日で行われるスケジュールが、気持ちを立て直す時間も十分に与えてくれない。

さらに、バックスタンドの左側を赤く塗りつぶし、横断幕も張り出した中国サポーターの集団から、心理的な圧力がかかる。太鼓に合わせた手拍子と「加油! 加油!」「勝利! 勝利!」の大合唱は、見ていてもなかなかの迫力だった。それでも、今回のチームの一員でもある、宮本ともみコーチを初め、青いユニフォームに袖を通した先輩たちは、どんな状況下でも自分たちの力を遺憾なく発揮してきた。

そうした強さは、今回のリトルなでしこにも求められる。幸い、選手たちの精神面の成長は著しかった。アウェームードが漂うピッチで、木下桃香と後藤若葉が互いの背中に気合を入れ合う。その光景を見た周囲の選手からも、笑顔がこぼれていた。

「(韓国戦のPK負けから)気持ちを切り替えるのにはすごく時間がかかったのですが、チーム全員で声を掛け合って、この2日間を乗り切りました。韓国戦の次の日からは、チームとしても切り替えて練習することができました」(木下桃香)。

リトルなでしこは、鮮やかに蘇生していた。



世界大会のチケットがかかった大一番。楠瀬監督は、守備陣に北朝鮮戦の後半と同じメンバーを起用してきた。キャンプでのトレーニングマッチも含めたCBの起用を見ていくと、指揮官の優先順位はキャプテンの松田紫野が最上位。そのパートナーとしてストッパータイプの長江伊吹、またはビルドアップに長じた渋谷巴菜のどちらかで、松田を中盤に上げた時は長江と渋谷のコンビというケースが多かった。

「センターバックでは後藤の他に、長江、渋谷らもいるのですが、人に強いという部分とコンディションがいいということで、起用しました」(楠瀬監督)

中国には、北朝鮮以上とも思われる筋肉質な、アスリート体系の選手が多い。中でも、FWのTANG HANは、上背があるだけでなく、走力にも優れた、中国最大の得点源。これを封じるには、対峙するDFに、心身両面での充実が求められる。

長江、渋谷は、韓国戦、北朝鮮戦で自分が絡んだプレーで失点をしている。韓国戦が終わった日は、食事ものどを通らなかった選手もいたほどだから、この3位決定戦ではよりプレッシャーがかかってしまうだろう。北朝鮮の強力2トップを相手に渡り合って自信をつけ、韓国戦をパスしていた後藤が、このゲームについてはベストの選択だった。

最終日まで残った他の3チームは、完全に主力を固めて、大会に臨んでいた。日本の相手になる中国は、フィールドプレーヤーの10人が5試合続けての先発だ。固定メンバーで戦っているアドバンテージとして、試合の中でのスムーズな陣形変更などはある。ただし、その先発する10人が全て。試合前の練習を見ていても、サブメンバーには年代別とは言え、代表クラスにしてはかなり危なっかしいレベルが多かった。

心身のコンディションを見極めて選手を起用できるのは、他のチームと比べて、日本の選手層が厚かったこと。また、グループリーグから、選手をローテーションしていたからだ。これは楠瀬監督に言わせると、単純に疲労の蓄積を避けるだけでなく、選手のポテンシャルを見極める狙いもあった。

「出場時間が少なかった選手もいたし、それはかわいそうなのですが、真剣勝負ですから、(パフォーマンスが)ボーダーラインを超えないと試合に出られない。温存しているとか、次の試合を計算しているということではなく、ある一定のラインを超えている選手に経験させるためにやっています」(楠瀬監督)



中国のキックオフで試合が始まる。右SBの善積わらいが高い位置で攻撃に加わるなど、最初の10分は、日本のペースで推移した。いくつかのフォーメーションを持つ中国は、9番のSHEN MENGYUをアンカーに置いた4-1-4-1を選択。体力面で不安があったのだろう。序盤はブロックを作った消極的なスタートだった。それが、日本にミスが続いた10分過ぎから、徐々に牙をむき始める。

4-2-3-1へ陣形を変えて最終ラインの前にダブルボランチで網を張った中国は、日本のパスを引っ掛けて、トップ下に入ったコントロールタワー、8番の。広い視野でパスコースを見つけ出し、加速すると自分で持ち上がってシュートを放つ。さらに、瀧澤千聖、善積と攻撃的選手が揃った日本の右サイドに、中国のZHAN LIN YANが侵入していく。

日本は、北朝鮮戦同様に厳しい時間帯を、大場朱羽が中心になって防戦。スタメンに抜擢されていた後藤も、TANG HANに自由を許さない。そして、伊藤彩羅、富岡千宙の左サイドとボランチで辛抱強く、組み立て直そうとしていく。北朝鮮戦に続いて、ビルドアップの重要な経由地となった伊藤は言う。

「DPRコリアとの試合は、自分のところで詰まってしまって、良い店舗を作ることができなかった。今日の中国戦は、きついパスがきても、自分が回避できたので、チームを助けられたかと思います。自分は、人が密集しているところが好きで、相手が来ているくらいのほうが好き。相手が私のサイドの守備に重心をかけてきているのはわかっていたので、それを剥がせればチームを楽にできると思っていました」

伊藤は、ボランチの木下桃香、中尾萌々と連携をとったかと思うと、パスコースを切ろうとする相手の裏をかいて自分で持ち上がる。さらに、減速してマッチアップしている相手の足を止めると、その横を攻めあがる富岡に預ける。プレスをかけようとする中国の選手は翻弄され、ただでさえ残り少なくなっているスタミナを消耗した。

「味方が近くにいればそこを使って、詰まっているところを自分のところで回避できたら、と。ボランチも落ちてきてくれているし、そのあたりをうまく使って、さらに自分でも前を向こうと意識していました。サイドバックが詰まった時にどれだけ助けてあげられるかが重要だし、逆サイドにボールがある時にはそこの絞りも怠ってはいけない。だから走力が必要になるんですが、ボールも集まるし、楽しいポジションだと思います」



左サイドに相手が引きつけられると、右サイドも活性化する。35分、素晴らしい出足で相手のパスをカットした善積から、瀧澤へ。大きく広がり始めたスペースをドリブルで切り裂いた瀧澤はそのままシュート。さらに3分後にも中尾萌々、田中智子、善積とつないで、大澤春花がシュート。ゴールには至らないが、主導権を奪い返す。

前半最大の決定機はハーフタイム直前に訪れた。左CKの場面で中国の守備体系が整っていないと見た伊藤が、キックのために駆け寄ってきた富岡へショートコーナーの格好でパス。リターンを受けるとファーサイドにクロスを送る。ボールをコントロールしようとする大澤春花を中国のDFが倒してPKを獲得したのだ。

PKを得た大澤が、そのままペナルティスポットへ進み出る。しかし、何とこのキックはゴールの右外へ逸れてしまう。大きなショックを受けたのではないかと思われるハーフタイム。楠瀬監督は、選手にこう声をかけた。

「PKには縁がないんだな。切り替えて、ちゃんとやろう」

15分間で気持ちの切り替えを終えたのだろう。PK失敗のダメージなど微塵も感じさせず、後半もリトルなでしこが優勢を保った。逆に燃料切れを起こした中国の選手は、気の毒なほどに動けなくなっていた。教科書通りのパス交換、そしてドリブルで仕掛けていく。「立ち木を交わすように」という表現がピッタリだ。決勝点が生まれたのは55分。田中と大澤のふたりで作ったゴール前のチャンスを、中尾萌々がきちんと決めた。

その直後、失点でスイッチの入った中国に左サイドから攻撃を許し、中央に入れられたボールのクリアが、TANG HANの前にこぼれる。シュート。しかし、ここもまたGKの大場が止める。大きなセーブだった。

キャプテンの松田は「今日は、みんなが強い気持ちを持って戦ってくれて『自分もしっかりやらないと』と思いました。先制点は嬉しかったのですが、まだ残り時間があったので『切り替えてやらないと』と思いました。焦りはあったんですが『みんなで落ち着いてやろう』と」気合を入れ直す。中国の抵抗も終焉に近づいていた。

前半も、途中で足の痛みを訴えていた中国のCB、HUANG XIAOXUが、再びピッチに倒れ込んでしまう。しばらく状況を見守ったGAO HONG監督も、さすがに諦めて、ZHOU MENGQINGを送り込んだ。彼女は最初のプレーで、ほとんどプレッシャーのない状態から、GKへのバックパスを選択してしまう。大きすぎる先発と控えの力量差。ここで事実上、勝負は決した。



「厳しい戦いだったので、もうちょっと最後の精度を決めたり、チャンスをものにできたら、もう少し楽にできたのでしょうが、中国の固いディフェンスとカウンターに苦しめられました。それでも何とかやってくれた選手たちをほめたいと思います」(楠瀬監督)

アディショナルタイムに何本かセットプレーを与えて肝を冷やしはしたものの、スコア以上の完勝。リトルなでしこは、ウルグアイへ向かうアジアの3枠に滑り込んだ。最大目標のアジア制覇は果たせなかったが、この結果を楠瀬監督は「順当」と評価している。

「まだ、日本には優勝する力がなかった。韓国戦でPK戦にもつれこんだのも、今日の中国戦で2、3点目をとれなかったのも、日本の力だと思います」(楠瀬監督)

グループリーグのバングラデシュ戦もそうだったし、この中国戦の後半も、実に多くのチャンスを作りながら、その都度、これを外した。決定力不足についての認識点は、選手も同じだ。

「今大会、W杯出場を決めることはできましたが、個人として結果を残すことができなかったので、これから1年間、自チームに戻って日々精進していきたい。W杯ではもっと自分がチームを勝たせられる選手、点を決められる選手になりたいと思います」(伊藤)

決勝点を挙げた中尾も「得点は素直にうれしいですが、その前の韓国戦などで決めるべきところで決めておかないといけないと思いました」。喜びも半ばといったコメントを残している。

では、今大会で得た収穫は何か。

「準決勝を終えてからの、この2日間、本当に苦しい2日間だったと思うのですが、その時間ですね。落ち込みはすごく大きかったのですが、そこからしっかりと立ち直って、最後の試合を失点ゼロで終わった。チームのやるべき仕事をしっかりと話していましたし、最後の2日間の成長は大きかったと思います」

世界で戦えるだけのハートは備わった。後はチームの様々な部分を今以上に磨き上げ、選手個々がベースアップを図り、来年のウルグアイでなでしこの花を咲かせてほしい。

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