INSIDE WEB

 

ジェフL、なでしこリーグカップを制し初タイトル

優勝し、サポーターとともに喜ぶジェフLの選手たち
優勝し、サポーターとともに喜ぶジェフLの選手たち

西森彰=文 金子悟=写真

2017なでしこリーグカップ1部は、A、Bグループを首位通過した日テレ・ベレーザ、INAC神戸レオネッサが敗退。ジェフユナイテッド市原千葉レディースがI神戸を、浦和レッズレディースが日テレを降し、決勝へ進んだ。

I神戸時代に「同一シーズン四冠」を手にした石原孝尚監督を初め、選手の多くもなでしこリーグ優勝経験がある。このリーグカップに入ってから5勝4分け(準決勝のPK勝ちを含む)と無敗。猶本光、北川ひかるら離脱していた代表組が合流し、戴冠へ向けて体勢は整っていた。

対するジェフLは、リーグカップ9試合で5勝1分け3敗。「代表選手が抜けたベレーザ(グループリーグ2節)と当たったり、組み合わせなどラッキーな部分がありました」(三上尚子監督・ジェフL)。女子トップチームは無冠(なでしこ2部での優勝経験はあり)で、昨季もリーグカップファイナルに進みながら、日テレの前に0-4の大敗を喫している。そこから菅澤優衣香ら代表クラスの選手を含めて、主力が数人抜けていた。

ジェフLの関係者でさえ、試合後に「正直、勝てないだろうと思っていた」という声をこぼしたほど。3千人を超える西が丘の観客も、大方が「浦和有利」と踏んでいただろう。そんな中で、ジェフLのキャプテン・上野紗希は確かな手ごたえを感じていた。

「リーグ戦の途中から状態が上がってきて、カップ戦に入る頃には勢いが出ていました。去年、0-4で負けたことの悔しさもあって、決勝進出が決まった時にも『今年こそ』とチームは盛り上がっていましたし、今年の勢いは本物だと思っていました」(上野)


前半、競り合うジェフL・瀬戸口(左)と浦和・猶本
前半、競り合うジェフL・瀬戸口(左)と浦和・猶本

キックオフから、浦和が安藤梢、菅澤優衣香のふたりを有効に使いながら、ジェフLのゴールへ迫っていった。特に安藤は浦和復帰後、最もコンディションが良く見えた。「カップ戦を戦って、周囲も自分のプレーを理解してくれて、フィットしてきたと思います」(安藤)。

ジェフLの選手は赤いプレッシャーへ、忍耐を強いられた。「正直、前半はどうなるかと思いました」と瀬戸口梢。ボランチを組んだ鴨川実歩とは「筏井選手が先輩、猶本選手が後輩、『筑波大対決で負けられない』と話していた」そうだが、最終ラインとともに「中をしっかりと締める」という約束事を守りながら、守備ブロックを作り、劣勢の時間帯を耐えた。一見、浦和が攻勢をとっているように見えたが、シュートコースは狭められ、ゴールを脅かす有効打が少ない。

「キックオフから『圧倒してやろう!』と入りましたが、相手のほうが良かった。この決勝の舞台でイージーなミスが多すぎて、立ち上がりから相手にリズムを作られてしまいました」(安藤)。

双方、守備の出足は良かったので、スタンドから見ている分には、パスが引っかけられるのは仕方がないと思う。だが、タイトルを前にした緊張からか、マイボールをつなぐ段階で、浦和のパスが流れるシーンは、安藤が口にしたとおり、確かに目立っていた。


前半、ボールをキープするジェフL・深澤
前半、ボールをキープするジェフL・深澤

逆に、ジェフLは、いつになく、DFラインからのボールが前線に通った。

「クリアしたボールを結局、相手に拾われて攻められる。その繰り返しが自分たちを苦しめているというのは自覚していた。だから『少しでも自分たちがボールを持つ時間を増やそう』と」(櫻本尚子・ジェフL)最終ラインの選手たちは、苦し紛れのキックを減らし、つなげるところはつないでいこうとチャレンジした。

ベテランの深澤里沙ら、攻撃陣もこの思いに答えた。「いつも守備の時間が長いので、そこで失点しないという共通意識はできている。人数はかけられませんが、そこで攻め切る形もできていた。また、いつもはバタバタして蹴っちゃうシーンが多いんですが、今日は落ち着いてつなぐところはつないでいたと思います」(深澤)。好守に走り回る背番号10。その背中に、後ろの選手も奮い立ったという。

「前線で深澤選手が走ってくれたので、自分もサボれないと思って走った。攻撃陣はボランチや後ろのサポートが少ない中で、よくやってくれたと思います」(瀬戸口)。菅澤らが抜けたことを言い訳にさせないとばかりに、今季、加入した成宮唯も、中盤で駆け回り、ボールを引き出す。少ない人数で、切れ味鋭いカウンターが繰り出される。

浦和は、水も漏らさぬ姿勢で、きちんとこれに対応した。「リスクを減らし、失点さえしなければ、最後は自力のあるこちらが勝つ」。そんな声が聞こえてきそうなゲーム回しだったが、攻撃の迫力はいくらか減じた。

「少し慎重になっていた部分と、カップ戦の決勝なので失点しないようにコントロールをして、『行け、行け』になれない部分がある。最後の部分にもう少し人数をかけていれば得点はできたと思うが、ジェフのカウンターも鋭いので、後ろの選手はそのあたりをしっかり守ってという部分もあったと思うし、仕方がない」(石原監督)

後半に入ると、気温28度、湿度67%という気候が、両軍の選手を蝕み始める。90分トータル、あるいは延長戦のプラス20分も見据える浦和に対し、どこかで勝負に出る必要があるジェフL。選手交代でも早く決着をつけたいジェフLが先手をとり、浦和は石原監督が時間と戦況を確かめながら、新しい駒を投入していく。決着はもつれてはいたが、それでも浦和に六、七分の利があるかに見えた。


後半アディショナルタイム、決勝ゴールを決めて喜ぶジェフL・瀬戸口(中央)
後半アディショナルタイム、決勝ゴールを決めて喜ぶジェフL・瀬戸口(中央)

しかし、延長戦ムードが色濃く立ち込めたアディショナルタイムに、ドラマが待っていた。

浦和の前線へのパスをインターセプトした櫻本から、センターサークルの瀬戸口へパスが渡る。先に1点決めた側がタイトルを手にする状況を、千載一遇の好機と捉えて、ジェフLの選手たちが前に出た。ゆっくりとドリブルを開始した瀬戸口とともに、何と5人もの選手がボールの受け手として走り出したのだ。これぞ「走るジェフ」の真骨頂。

それまでしっかりと網を張っていた浦和の守備陣が、それぞれのマークに散らされ、僅かにほころびを見せた。ペナルティエリア手前まで持ち込んだ瀬戸口の眼前に、シュートコースが生まれる。

「あそこまで走るのもきつかったけれど、横には上野選手が走っていたはずだし、シュートのこぼれ球に詰める準備をしてくれる選手もいた。『みんなで運んだボールだし、このボールで試合を決めたら気持ちがいいだろうな』と」瀬戸口は迷わず、左足を振り抜いた。

気持ちのこもったボールは、右ポストの内側を叩き、ゴールネットを揺らした。試合の残り時間は1分。さすがに、そこから試合をひっくり返すだけの力は、浦和に残っていなかった。


後半、ドリブルで攻める浦和・安藤
後半、ドリブルで攻める浦和・安藤

敗れた浦和の石原監督は「優勝したかった。ロスタイムにああいう形で負けたのがすごく残念。成長を見せ、最後まで走り、戦ってくれた選手には感謝しています。今年、取り組んできたことにチャレンジしてくれた。交代出場した選手も含めて、圧力をかけてくれたと思うが、結果に結びつかず残念です」と敗戦の弁を述べた。

「一年の最後に一番いいゲームをしよう」を合言葉に戦う浦和。今は、前線からがむしゃらに仕掛けていく時期を経て、試合全体をコントロールしようとする過渡期だ。この日はカップ戦で無敗を続けた、リスクヘッジを優先させる、クレバーな戦いだった。

当事者の感覚はやや違う。「個人的なコンディション、調子は良かったと思いますが、チームを勝たせなければいけない」と、自身のパフォーマンスにも厳しいジャッジをした安藤は、厳しい言葉を絞り出した。

「ピッチ上で、全力でプレーして、表現しなければいけない。こういう決勝の舞台でチャンスと思った時に、(リスクを冒して)前へ出られるかどうか。もう一歩、二歩、球際で頑張れるかどうかというのは、本当に大事だと思います。この試合を『惜しかった』とか『逃した』で終わらせたら、成長しない。『全然、足りなかったんだな』と思わなければ、先につながらない」


浦和を破り抱き合って喜ぶジェフL・櫻本(右)
浦和を破り抱き合って喜ぶジェフL・櫻本(右)

女子トップチームで初のタイトルを手にした三上監督は「90分耐えて最後に訪れたラストチャンスを、みんなで決めて勝つという試合。よく粘って勝った。あまり実感はわかないんですが、選手も自分も優勝経験がない。本当にうれしいけれど『優勝は、慣れないな』という感じです」と感想を漏らした。

今季、指揮官がチームに掲げた目標は「リーグ戦10勝」。これは「昨季のリーグ成績、5勝5分け8敗の5分けを全て勝ち切る」という意志の表れだ。実際に、リーグ戦、リーグカップで合計20試合を戦い、10勝9敗。引き分けは一つだけだ。最後の局面で、全員がメリット、デメリットを天秤にかけて、前に出られたのも、これまでの戦いで染みついていたスタイルが影響しているはずだ。

前キャプテンの櫻本は、このチームの強みとして「自分たちの弱さを自覚していた点」として挙げた。今季が始まる前に、菅澤が浦和に移籍した。「これまで彼女に頼り続けていた点を考えて、自分たちでどうにかしなければいけないという気持ちになり、しっかりと足下を見ながら取り組めました」。シーズン途中では守護神・山根恵里奈も退団したが、もう、チームはブレなかった。

「優勝してここで燃え尽きるのではなくて、リーグで粘り強くやっていかないといけないなと。勝った喜びもあるんですが、リーグ戦にどう切り替えようというのが頭の中を占めています。しっかりとプラスの方向に持っていかなくては」と三上監督。選手も「来週、すぐに試合があるし、全然、優勝したって感じじゃありません」(櫻本)。

監督も、選手も、視線は次を向いている。最初で最後のタイトルとしないために。
Comments

Body

123456789101112131415161718192021222324252627282930 09