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日テレ、I神戸との秋田決戦を制して、首位に立つ。

取材・文/西森彰

■なでしこ首位決戦の地は東北・秋田

開幕から3戦全勝のINAC神戸レオネッサと、2戦1分けでこれを追う日テレ・ベレーザ。新旧女王の首位決戦は4月16日(土)、秋田市八橋運動公園球技場=あきぎんスタジアムで行われた。

日テレイレブンは、試合終了まで秋田のピッチを走り切った。
日テレイレブンは、試合終了まで秋田のピッチを走り切った。

秋田県サッカー協会は、このゲームを迎えるにあたって、青森、山形など隣県のサッカー協会の協力を要請して、開催告知を進めた。また、スタジアム横のグラウンドでは、少年サッカー大会を開催した。こうした集客活動が実を結んだ結果、あきぎんスタジアムに足を運んだ観客の数は3,133名に達した。

「私自身は秋田に来るのが初めてで非常に楽しみにしていました。正直なところ、秋田でサッカーがどれくらい浸透しているかがわからなかったので、なでしこリーグに興味を示してもらえるのか心配だったのですが、これだけ大勢の方に来ていただけました。特にお子さんの姿が多かったのが印象的で、これからの秋田のサッカーにとっても大事なことではないかと思いました」(川澄奈穂美・I神戸)

秋田開催を楽しみにしていた川澄奈穂美が、クロスのタイミングを計る。
秋田開催を楽しみにしていた川澄奈穂美が、クロスのタイミングを計る。

「今日、試合を見に来てくださった方々には感謝しています。みなさんが来てくださることで、私たち選手は頑張れます。また、たくさん来ていただいた方々の前でつまらない試合、だらしない試合をしてはいけないと思っています」(大野忍・I神戸)

「バックスタンドをはじめ、小さなサッカー少年、少女がたくさん来てくれましたし、多くのお客さんの前で試合ができるのは、プレーしている私たちにとっても気持ちがいいものです。こうやって女子サッカーを見に来てくれる人たちが、続いてくれればいいと思います」(岩清水梓・日テレ)

スタンドを埋める観客から背中を押されるように、両チームは、見ごたえあるゲームを展開した。


■チームに溶け込んだ、2年目の杉田妃和

昨季のレギュラーシリーズ後半戦では、堅い守備ブロックを敷いた日テレが、I神戸の攻撃を耐え凌ぎ、相手の足が止まったところで攻勢に出て、鮮やかに勝利を飾った。森栄次監督のゲームプランが見事に嵌った感があったが、このカードは、対戦相手の出方を読むのが大変らしい。

「今日はINACが前から来るのか、引くのかわからなかったが、試合が始まったら、前に出てきた」(森監督)。まずは、これに対応しようと阪口夢穂、中里優のダブルボランチが低い位置に構える。それもあってか、序盤、ペースを掴んだのはI神戸。開始早々の2分、髙瀬愛実のシュートが山下杏也加を脅かし、4分にも鮫島彩のミドルシュートが放たれる。

「(チーム全体として」ゲームの入りはすごくよかったので『あそこで1点こちらにくれば……』というのはありましたが、奪ったボールをうまく相手に奪い返されていたシーンも多かった。あそこを打開できていれば、また違った展開になった」(松田岳夫監督・I神戸)。

指示を出す松田岳夫監督。両軍指揮官の采配も見どころのひとつ。
指示を出す松田岳夫監督。両軍指揮官の采配も見どころのひとつ。


このI神戸の組み立てに、中盤で絡んでいたのが、なでしこリーグ2年目を迎えた杉田妃和だ。澤穂希の引退、伊藤美紀の負傷もあって、今季は開幕戦から先発出場を続けている。オフ・ザ・ボールの質に指揮官は物足りなさを感じているようだが、それも期待の裏返し。試合経験を積みながら、ゲームの流れを乱すことなく、ボールに絡めるようになってきている。

「松田監督にも『受けたいという意志を出せ』と言われていましたし、それは大事。やっぱり、出してもらうのではなく、自分から出させるくらいのプレーを出したい」と杉田。この日は、綺羅星のようにピッチに散りばめられた代表選手たちに、自分から身振りと言葉で、激しくボールを要求していた。

アウトサイドで右に捌く杉田妃和。2年目で主力のひとりに。
アウトサイドで右に捌く杉田妃和。2年目で主力のひとりに。


攻撃的なボランチとしては、アタッキングサードでの仕事も課題。チームが攻勢をゴールに結び付けられなかった点について、杉田も「前に出ていった時に、自分の良さを出せていない。そこが毎回の課題になってしまう」と反省しきり。年代別代表でたびたび見せる決定機の演出は、この日のアディショナルタイムでも見せた。この特徴を、なでしこリーグを戦う中でコンスタントに出せていければ、さらなる成長が期待できる。



■田中美南、ひとり二役の奮戦で突破口開く

日テレも、I神戸に一方的にペースを握られていたわけではない。5分を過ぎたあたりから、混戦から長谷川唯のシュート、田中美南のPK獲得とも思われたドリブル突破など、チャンスが生まれ始めた。12分にも、籾木結花のクロスであわやのシーンを演出。

その直後に、大野と川澄のパス交換から最後は髙瀬にフリーでシュートを浴び、ヒヤリとしたが、その後は危険なシーンが減っていく。これまでの試合に比べて、自陣内でのプレー時間が長くなるのは織り込み済み。東北出身者の岩清水梓と、ラ・マンガ遠征を無失点に終えて自信をつけた村松智子を中心にして、I神戸の攻撃を抑え込んだ。

ボランチの中里優がプレスバックして、岩清水梓らと、髙瀬愛実を包囲。
ボランチの中里優がプレスバックして、岩清水梓らと、髙瀬愛実を包囲。

ベレーザは、好守の切り替えも、今季一番といっていいデキだった。「ウチの選手は、みな若い子たちだし、運動量もある。前線の高い位置からプレッシャーをかけて、それでボールがとれれば一番いいというスタンスでやっています」と森監督。CB、GKへのプレッシャーを強めれば、それだけ、ビルドアップの位置が低くなる。攻撃面で高い能力を秘める鮫島彩、近賀ゆかりの攻撃参加を防げる。

逆に前線からの守備がルーズになれば、後顧の憂いなく攻めあがる両SBに、深い位置からえぐられてしまう。こうなると試合全体が厳しくなる。I神戸の三宅史織、田中明日菜を相手に、数的不利な状況に置かれる日テレの田中美南が、どこまで戦えるか。ここが最大のポイントだった。

大一番のカギを握ることになった田中美は、期待に応えた。「もともとベレーザは技術的にうまいチームだと思われますが、(チームとして)前線の守備から入ろうというスタンスでやっています」(田中美)。両CBだけでなく、GK・武仲麗依へのバックパスへも、全力疾走で追いかける。

これがI神戸の守備陣に負担をかけて、ラインが落ちた。杉田、チョ・ヒョンソクの両ボランチと、最終ラインの距離が間延びする。するとライン裏を狙っていた田中は、この間延びしたスペースを、シャドーの籾木と活用しながら、カウンターを見舞い始めた。

田中美南は、I神戸の最終ラインを翻弄し、先制点も奪った。
田中美南は、I神戸の最終ラインを翻弄し、先制点も奪った。

「トップ下の位置で籾木、田中美奈に入るかどうかがビルドアップのカギ。あとは裏への飛び出しを狙うように言いました。狙い通り、何本か通ったようなシーンもありました」(森監督・日テレ)。自軍の攻撃を組み立てながら、守備面でも汗をかき続けた田中美に、36分、報酬がもたらされる。バックパスの処理を誤った武仲からボールを奪ってシュート。大きな先制点を奪った。

「ウチのCBは2枚で、相手のFWは1枚。そこで起点を作られたというのは改善しなければいけない。本当に今日はあそこでやられたなというイメージはありますね。ひとりで裏も狙える、足下でも受けられる。そういう良さを出した田中選手のプレーは、純粋に認めなければいけないし、ウチが見習わなければいけない部分」(松田監督・I神戸)



■森監督の我慢に応えた、日テレイレブン

籾木の支援は受けながら、田中美はボールを引き出す動きを見せ、チームを引っ張った。前線から最終ラインまで、日テレは、I神戸よりも一歩ずつ早い反応で上回り、優勢を保つ。「高い位置で限定してコースを狭めて、縦に蹴らせる。ただし、このやり方は体力的に厳しい。最後まで続くかなとは思っていた」。

森監督の懸念通り、後半に入ると、少しずつ、日テレの動きが落ち始め、余裕を取り戻したI神戸が分厚い攻撃を始めた。「自分たちが攻めるようになった後半は、相手が引いて自分たちのタイミングで出ていけたし、ああいうふうに積極的に出ていくのが自分たちの流れを作ることにもなるかなと思いました」と杉田。最終ラインの攻撃参加で間延びしていた陣形がコンパクトになり、波状攻撃から大野の同点ゴールが生まれた。

「勝負所は最後の20分。そこまで持っていけるか」森監督は悩んだという。ただ、両チームとも、ピッチにいるイレブンの闘争心は沸点に達している。「ああいった場面では交代したところで、後から入る選手も試合の流れに乗るのが厳しい部分があるんです。代えようかとも思いましたが、もう一度踏ん張らせてみようと」(森監督)。

熱戦の行方を決めたのは、阪口夢穂。
熱戦の行方を決めたのは、阪口夢穂。

やれるかやれないか。その最終決断をしようとピッチ内の選手に「声をかけたら、エンジンがもう一度かかったような気がした」。首位チームは驚異的な復元力を見せて、追いつくまでに足を使っていたI神戸をもう一度、競り落とす。勝ち越しゴールを奪ったのは、今季、何度もチームを救っている阪口。

あとは、ディフェンス陣が締めるだけ。「ディフェンスはハードワークをいつもどおり。相手のクロスはわかっていたので、それをどうやって防ぐのが課題でした。落とせない試合でしたし、苦しい試合でしたが勝ち点3を獲れてよかったと思います」と岩清水。



■首位決戦にふさわしい、見応えあるゲームだった

最終スコアは2対1。日テレがI神戸を破って、首位に立った。試合内容もスコアに準じており、この結果は妥当なところだろう。それにしても、なでしこリーグをけん引する2チームにふさわしい、好ゲームだった。

同点ゴールを奪った大野忍。試合後は、敗戦に言葉少な。
同点ゴールを奪った大野忍。試合後は、敗戦に言葉少な。

一度は試合を振り出しに戻した大野は「何もないです。自分たちのミスで負けただけ。切り替えてやるだけだと思います」と口数が少なかった。ただ、客観的に振り返れば「試合に負けてしまったので、チームとしてはその結果が残念ですが、なでしこリーグとしては、白熱した戦いを見せられたのではないかなと」いう川澄の総括が、より真実に近いだろう。

「動き出しの部分で相手に劣っていたと思います。ただ、打開できないプレッシャーじゃないし、流れの良い時間帯は、打開できていました。これは、メンタルの問題。相手が来るから何とかしようという意識が強すぎて、ボールを持っていない選手の意識を変えないとなかなか打開できない。スペースと人に対しての意識、周囲との連携を高めなければいけません」

これが、敗軍の将となった松田監督の弁。百戦錬磨のI神戸イレブンが視野狭窄に陥るほどのプレッシャーをかけ続けた、日テレの選手たちの出足が勝ち点3を手繰り寄せた。

我慢の采配で勝利を手繰り寄せた森栄次監督。
我慢の采配で勝利を手繰り寄せた森栄次監督。

「向こうには代表選手もいるし、強さ、上手さがある。リーグ戦のほとんどの試合は、相手の守備を崩すにはどうすればいいかというのを考えながらやっているが、INACが相手の時は、守備を考えなければいけないし、そこは強調して、今週の練習をやってきた。これは、向こうもそうだと思うし、お互いにリスペクトしながらやっています」(森監督)

互いを最強のライバルと認めあう両チームは、今後もよきライバルとして、なでしこリーグを盛り上げていってくれることだろう。
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