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ハーフタイムの暗転。浦和、ホーム開幕戦を落とす。

取材・文/西森彰

■Bクラス転落の屈辱を晴らすために

連覇を目指した昨季の浦和レッズレディースは、不本意な成績に終わった。開幕2連敗で苦しくなったレギュラーシリーズでは、吉田靖監督も当たりくじを引こうとするかのように、日替わりで多くの選手にチャンスを与えた。だが、チーム状況を好転させるジョーカーがなかなか出てこない。結局、レギュラーシリーズ終盤は1部残留=上位リーグ進出を最優先する。ラスト5試合を2勝3分けで目標達成。その内訳は得点4、失点1だった。

守備重視で臨めば、上位チームにも点を与えない反面、自軍のゴールも遠い。エキサイティングシリーズでは、逆転優勝を目指して攻撃重視で臨んだ。すると得点もついてくるが、一方で失点を減らせない。猶本光は一番、印象に残った試合に、エキサイティングシリーズのジェフユナイテッド千葉レディース戦を挙げた。

「リーグ戦では結局、1得点しか取れなかったのですが、その試合。チームとしては4点取れたんですが、守備では4失点してしまった。そのゲームが印象に残っています」

2点のリードを奪いながら、後半、11分間で立て続けの4失点。残り10分を切ってから、猶本の得点などで追いつき、ドロー。このゲームを含めてエキサイティングシリーズは5試合で、得点8に対して失点は13。最後まで攻守のジレンマが解消することなく、浦和の2015シーズンは終わった。

突破を図る猶本光。前半のプレーは躍動感一杯だった
突破を図る猶本光。前半のプレーは躍動感一杯だった。

巻き返しを図る2016シーズン。昨季のリーグ女王、日テレ・ベレーザと引き分けた浦和は、第2節、駒場スタジアムにアルビレックス新潟レディースを迎えた。昨季のリーグ戦で3戦して3敗のアルビレックス新潟レディース。今季の開幕前にも練習試合で3回当たり、その時は浦和が優勢を保っていたという。

新潟Lの地政学的不利は、以前から囁かれている。雪でピッチ練習の時期が相対的に遅くなり、結果、開幕時点で仕上がりの差から苦戦を強いられる。昨年限りで退任した能仲太司前監督もこの点を認めていた。今季から指揮をとる辛島啓珠監督は「新潟も最近は雪が少なくなったから関係ない」と気にしていなかった。

それでも、レギュラーの半数近くを入れ替え、前任者とは起用法が変わった選手もいる。一般的に体制変更後のチームは、序盤はもたつき、時間の経過と共に、成績が上がっていく。浦和からすれば、どんな角度から見ても、この時期に新潟Lと対戦できるのは恵まれていたはずだった。



■前半の優勢を活かせなかった浦和。ハーフタイムで潮目が変わる。

実際、前半は浦和がペースを掴んだ。巧みな体の使い方で相手のプレスを交わし、猶本が中盤で躍動する。今季から相方を務める栗島朱里と共に、SHの柴田華絵、筏井りさを使いながら、後藤三知、吉良知夏の2トップにもスルーパスを通す。チーム全体でうまく相手を押し込み、SBの乗松瑠華、北川ひかるも攻撃に加わり、サイドからクロスを入れていった。

「自分たちがボールを握って動かせている場面が多かった。逆サイドに展開したり、広いスペースを使うようにしたり、みんなが意識してポジションをとれれば、さらに良いサッカーができるようになると思う」と猶本。どちらにも得点チャンスがあったが、浦和のほうがやりたいことができている印象が強かった。「チャンスはあったのですが、私たちがそれを得点に結びつけることができなかった」とキャプテンの後藤三知。これが、致命傷になった。

キャプテン後藤三知も好機を逸した部分を悔やむ
キャプテン後藤三知も好機を逸した部分を悔やむ。

ハーフタイムを挟んで、浦和ペースで進んでいた試合は、一気に雲行きが怪しくなる。ひとつのきっかけになったのが、新潟Lの選手起用だった。辛島監督は「前半はやや高橋悠が元気なかったので、それならボランチの山田頌子を本来のポジションで使おうと」(辛島監督)右SHの山田と中央の高橋を入れ替えた。これが当たる。

「やや距離を開けてしまってSBの攻め上がりを許してしまったところもありました」という山田の後を受けた高橋が、浦和SBの攻撃参加を厳しく咎め始めた。山田も「相手の2トップにボールが収まって、そこを起点に攻められていた。後半は相手FWへのプレスバックを意識しました」。セカンドボールを奪う回数が増えるとともに、徐々に新潟の守備が落ち着き始める。

逆に、浦和はビルドアップができなくなっていった。新潟Lの大石沙耶香と久保田麻友の2トップが執拗にボールホルダーを追い回し、攻撃時には最終ラインの裏を狙い始めたからだ。「開幕戦で守備がうまく行ったのは、日テレがつなぎに徹した分、自信を持って寄せていけたから。新潟Lは、こちらが寄せていくとタテに蹴ってくる。裏を取られるのが怖いから、なかなか思い切って前に出ていけない」(吉田監督)。迫力に気圧されて、ズルズルとラインが下がり始める。

攻撃戦術の見直しも裏目に出た。ゴリゴリとした力攻めから、当初のゲームプランに沿って、サイドチェンジを多用すべく、筏井と柴田の両SHが左右に大きく開いた。そのため、ダブルボランチとの距離が開きすぎ、中盤の攻防で劣勢に陥り始める。「前半は中のポジションをとってくれていたのですが、ワイドなポジションを取りに行って、中に戻ってくるのが遅くなってしまいました。(相手の戦術変更よりも)自分たちが変えてうまくいかなかった」と猶本。



■新潟Lの波状攻撃に、2失点で万事休す。

寄せては返す波のような新潟Lの攻撃に、浦和の最終ラインが苦しみ出す。時間の経過と共に、自軍ペナルティエリア付近で「与えないように注意していた」(吉田監督)ファールを重ねるようになった。新潟のキッカーは正確な左足を持つ、上尾野辺めぐみ。何本か蹴るチャンスを与えれば、確実に決定機を作れる選手だ。64分、上尾野辺のキックからニアで長身の左山桃子が触ってこぼれたボールを、ファーに流れていった大石が押し込む。ペースを掴んだ新潟は、きっちりとゴールにつなげた。

先制点を決める大石。新潟は勢いに乗じて、ゴールを奪った
先制点を決める大石。新潟は勢いに乗じて、ゴールを奪った。

失点した浦和は、ボールを動かせる長野風花を投入し、反撃を試みるが、使われるべき周囲の選手は、守備に奔走させられ、運動量が落ちていた。「ゴール前を固めてきた時に、サイドチェンジをして攻撃をする時間帯を増やさなければいけなかった。ボールを失ってもサイドであれば、そこから守備ができる。相手コートでのプレーを続けていける」(後藤三知)。皮肉にも、この浦和が狙っていたプレーを、新潟Lが忠実に実行した。

中に絞った浦和と入れ替わるように、新潟のSHがタッチライン沿いへ出ていき、ここを拠点にする。攻撃面で良さを持っている浦和・北川の右サイドは徹底的に狙われた。新潟Lは右SBの小島美玖が前半とは逆に、高い位置まで攻めあがる。そして84分、大石のパスを受けた小島がドリブルから強烈なシュート。これが浦和DFのクリアミスを誘って決定的な2点目を奪った。

攻守に働いた小島美玖。記録上はOGだが、2点目は、ほぼ彼女のゴールだ
攻守に働いた小島美玖。記録上はOGだが、2点目は、ほぼ彼女のゴールだ。

浦和は終盤、セットプレーから連続してシュートを狙ったが、最後まで得点が遠かった。「あれだけ攻めていても、守備のところで2失点。1点も取れていない。まずはしっかりと失点をしないこと。最後はちょっと球際が弱くなっている部分があったので、そういうあたりを修正したい」と猶本は振り返る。



■完全復活は、時間との勝負になりそうだ。

浦和の塩越は、日テレ戦に続いて途中出場の機会を得た。U-20日本女子代表=ヤングなでしこ候補選手の一員だ。劣勢を挽回しようと、吉田監督は筏井に代えて「前節の日テレ戦で良い動きをしていた」ユース昇格組の塩越柚歩を左SHに入れる。「ユース時代の仲間がピッチの脇にいたので」笑顔でピッチに入っていく度胸の良さを見せた塩越だったが、自軍にペースを手繰り寄せるだけの働きはできなかった。

前節に続いて起用された塩越柚歩だが、劣勢を覆すには至らず
前節に続いて起用された塩越柚歩だが、劣勢を覆すには至らず。

初めて彼女のプレーを見たのが、ユース時代。一昨季の皇后杯・ASハリマアルビオン戦だった。いかにも浦和らしい、しっかりした技術で、一世代上の選手を翻弄した。いっぽうで上のカテゴリーで戦う選手に、経験の差を突かれた。球際の厳しさやルーズボールの処理など、細かい部分を締めてかかるAハリマの抵抗の前に決定機を幾度も作りながら、無得点でPK負け。サッカーで勝って勝負に負けた。

この日も女子の国内トップリーグで戦ってきた選手たちのしたたかさに苦しんだ。前節より早い時間帯での投入で、対戦相手のスタミナも十分。新潟のスピード溢れる寄せに戸惑った。「相手のペースに自分も含めて飲まれていた。ひとつひとつのプレー、例えば球際の強さも、ピッチの外で見ているのとは違うし、自分のいいプレーも全然出せなかった」と塩越。特徴を出す前にプレーを消された。

2016シーズンを迎えるにあたって、吉田監督がひとつのカギと見ていたのが、選手層の変化だ。リーグ戦全試合に出場していた岸川奈津希ら主力も含めて幾人かがチームを去り、ユースからの昇格組が増えた。レギュラーと同レベルの力がある選手たちの退団は、チーム内の競争力低下=チーム力の低下にもつながる恐れがある。実際、続く第3節のAC長野パルセイロレディース戦も落としてしまう。昨年末の皇后杯では格の違いを見せつけて圧勝した相手だ。

3戦終えて勝ち点1。チームが置かれた状況は生易しいものではない。それでも、吉田監督は躊躇うことなく、タイスコアやビハインドの場面でも、次世代の選手を投入し続けている。長野戦で追撃のゴールを挙げたのは、筑波大から特別指定選手として加入した山守杏奈。こうした若手が、なでしこリーグのレベルに慣れ、力を発揮するまでどれだけかかるか。浦和の復活は、時間との勝負にもなってきそうだ。

ホーム開幕戦に詰めかけた多くの浦和サポーターへ、勝利は届けられなかった
ホーム開幕戦に詰めかけた多くの浦和サポーターへ、勝利は届けられなかった。
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