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今週日曜、2016年度チャレンジリーグが開幕。

取材・文/西森彰


■チャレンジリーグは3カ月半の短期決戦

 一足先に開幕したなでしこリーグから遅れること2週間、今週末からチャレンジリーグが始まる。まず、東日本のEAST、西日本のWESTに6チームずつ分かれての3回戦総当たりのリーグ戦。今季は4月10日に始まり、7月24日に終わる3カ月半の短期決戦だ。

 リーグ戦終了後、EAST、WESTの各上位2チームずつ、合計4チームが1回戦総当たりの順位決定プレーオフに進み、昇格を争う(中位2チームずつは5~8位決定戦に、下位2チームずつは降格がかかる9~12位決定戦にそれぞれ進む)。なでしこリーグガイドライン認定チームの中でプレーオフ成績最上位チームが2部に昇格。次位のチームは入れ替え戦に進む。

連覇に挑む、常盤木学園の阿部由晴監督。なでしこジャパンに選手を送り出している名将だ
連覇に挑む、常盤木学園の阿部由晴監督。なでしこジャパンに多くの選手を送り出している名将だ。

■サッカーのレベル、運営力は、ともに右肩上がり

 なでしこリーグ2部の新設で、事実上3部リーグ格に位置付けられ、地盤沈下が噂されたチャレンジリーグだったが、昨季を見る限り、杞憂に終わった。セレッソ大阪堺レディースらとのプレーオフを制し、優勝した常盤木学園の成績からもわかる。チャレンジリーグEASTでは15試合で9勝4敗2分けの勝率6割で2位。プレーオフでも2勝1分けと全勝はならなかった。

 3年前の2013シーズンも常盤木はチャレンジリーグを制しているが、この時の2位チームは昇格後、すぐに1部で8位になったASエルフェン狭山FC(現・ちふれASエルフェン埼玉)。これら骨っぽいチームを相手に22試合で20勝2敗、勝率は9割を超えていた。常盤木は高校生のチームだから、年によってレベル差があることを考慮しても、リーグ全体の地力強化は明白。2004年の「第1次なでしこブーム」から10年を経て、女子サッカーのレベル、選手の技術が上がってきた。

試合後、観客をチーム全員で感謝の見送り。チャレンジリーグでもこうしたチームが増えてきた
試合後、観客をチーム全員で感謝の見送り。なでしこリーグに限らず、チャレンジリーグでもこうしたチームが増えてきた。

 また、チャレンジリーグの各クラブは、試合の運営面でも力をつけてきている。昨季、昇格したC大阪堺らJクラブの下部組織、提携クラブだけでなく、そのほかのチームも(契約金額の多寡はあれ)ユニフォームの胸には、スポンサーロゴが入ってきた。常盤木のような学校組織まで「萩の月」のような胸スポンサーを獲得している(高校体育連盟の大会にはロゴなしユニフォームで参加)。

 静岡産業大学磐田ボニータは、ゆめりあでのナイトマッチ開催時に、磐田駅から直通のシャトルバスを走らせた。車で来れない遠方からのファンや、未成年者にとってはありがたい処置だ。バニーズ京都SCも7月12日のNGU名古屋FCレディース戦で、スポンサーからの協賛金、提供品を資本とした、魅力的な賞品が当たる抽選会を実施。チャレンジリーグとしては異例の来場者1,216人を記録した。

 女子サッカーが文化として定着するには、トップリーグの盛り上がりだけでなく、下位リーグのプレー環境が担保されていることも必要不可欠。そうしたことを考えると、日本の女子サッカーは最高の環境とは口が裂けても言えないが、サッカー少女がプレーを続けるのを躊躇ってしまうほど悪くもなくなってきている。


■大人のチームを相手に連覇目指す、常盤木学園

 昨季のチャンピオン・常盤木は、なでしこリーグガイドラインを満たしていないため、今季もチャレンジリーグで戦う。近年、高体連のタイトルに手が届いていないが、大人のチームを相手に45分ハーフで勝つ底力はさすが。阿部由晴監督の指導の下、なでしこジャパンを輩出してきた底力は健在だ。得点王、MVPの個人タイトル二冠に輝いた小林里歌子(⇒日テレ・ベレーザ)や、リトルなでしこ=U-19日本女子代表でも同僚の市瀬菜々(⇒ベガルタ仙台レディース)らの活躍が光った。

 プレーオフ2位でなでしこリーグ2部に自動昇格した(常盤木はなでしこリーグの加盟資格を満たしていないため)C大阪Lにも西田明華や松原志歩など、U-17女子ワールドカップ優勝メンバーや、年代別代表、その候補生が多数所属している。なでしこジャパンの一員としてオリンピックや女子ワールドカップを戦った選手が所属するクラブもある。

 大和シルフィードの小野寺志保は、長く日テレ・ベレーザ、なでしこジャパンで活躍。引退後、GKコーチとして請われていった大和SにGKがおらず、再び現役することになった。横浜FCシーガルズ(現・ニッパツ横浜FCシーガルズ)を、なでしこリーグ2部に導いた山本絵美もアテネ五輪出場時の主力。「おかげさまで、まだ何とかやっていけてます(笑)」とおどけてみせるが、正確無比なキックは健在。なでしこリーグ・チャレンジリーグ入れ替え戦では、チームを昇格に導くFKを決めた(記録上はオウンゴール)。

山本絵美のこのFKでチャレンジリーグEAST首位の横浜FC(現・ニッパツ)は入替戦に勝利。今季は、なでしこ2部で戦う
山本絵美のこのFKでチャレンジリーグEAST首位の横浜FC(現・ニッパツ)は入替戦に勝利。今季は、なでしこ2部で戦う。

 世界を相手に戦ってきた選手が、各チームに揃えば、当然、試合も白熱してくる。

 チャレンジリーグのEAST、プレーオフに次いで、皇后杯で5度目の公式戦を迎えた横浜FC(現略称・ニッパツ)と常盤木のゲームもそのひとつだ。横浜FCは、山本が豊富な経験を活かして若い選手をけん引。前線へ早めにボールを入れてくる常盤木の攻撃を、強固な守備ブロックを作って受け止め、そこからカウンターを繰り出した。そしてタイトな守備から攻撃という、中村宏紀監督の立てたゲームプランどおり、先制に成功する。

 エースの小林(里)を負傷で欠く常盤木は、市瀬が「チーム全体でタテに急ぎ過ぎている」ことを試合途中に自覚。一本の横パスで相手ブロックを揺さぶり、ペースを自軍に手繰り寄せたが、間に合わなかった。「前半のうちに気付かなければいけませんでした」と、遅すぎた反攻を悔やんだ。相手のストロングポイントを潰し、策で上回ろうとする両チームの戦いは、実に見ごたえがあった。

 そして、こうしたゲームを披露したのは、常盤木、横浜FCのような優勝争いをするチームに限ったことではなかった。


■指揮官の采配、各チームのスタイルにも要注目

 例えば、チャレンジリーグWESTでプレーオフ進出を目指した、静産磐田とバニーズの3ゲームがそうだ。

 4月12日の初戦は、打ち合いを演じて3-3のドロー。6月20日の2戦目はアウェーのバニーズが0-3で勝利した。スタッツを見るとシュート数が静産磐田の19に対してバニーズが7。決定機を比べても静産磐田のほうが多かった。それでもバニーズが勝てたのは、1点をリードした前半、守備を固めるだけでなく、しっかりとボールを動かし、相手に足を使わせた。後半、静産磐田のシュートがバー、ポストを2度、3度と叩いたが、シュートの精度を少しずつ欠いたのは、彼女たちの足が疲労で潰されていたからだった。

 昨季から、京都精華高校を率いる越智健一郎監督が、バニーズのGMに就任。采配を託されたのが千本哲也監督だ。「結果がついてこない序盤戦は『女性がこれだけ厳しい顔でにらむんだ』と怯えるくらいの視線で睨まれた」と、ユーモアたっぷりに語る新指揮官は、一途にポゼッションスタイルを貫いた。松田望、澤田由佳らなでしこ1部の経験者を軸に「人間の走りっこで負けるから、ボールを走らせる」サッカーが浸透した結果だった。

 この敗戦を受けて「してやられた」と素直に兜を脱いだ静産磐田・村松大介監督が、8月8日の最終戦で、リベンジに燃える。このシーズン、バニーズは益城ルネサンス熊本フットボールクラブに1勝2敗と負け越した。徹底的にリトリートする戦術を採っていた八木邦靖監督(当時)のチームを脳裏に思い浮かべ、バニーズ対策を練る。そして「相手に合わせるやり方は、めったにしないんですけれど」(村松監督)戦い方を変えた。

 攻撃的な3バックから、3ラインでしっかりと守備を固める4-4-2へのフォーメーション転換。「メンバー表を見た時点で『ひょっとして4バック?』と」(千本監督)意表を突かれたバニーズは、静産磐田の防御壁を乗り越えることができない。そして雷中断明けの後半、前に力をかけるバニーズに、静産磐田が鮮やかなカウンターパンチを合わせた。借りを返す0-2。前回、ホームで泣いた静産磐田イレブンと村松監督が、今度はアウェーで笑った。

昨季、3回死闘を繰り広げた静産磐田とバニーズ。2016年度の開幕戦はどんな戦いになるか
昨季、3回死闘を繰り広げた静産磐田とバニーズ。2016年度の開幕戦はどんな戦いになるか?

 今週の日曜日、EAST、WESTの開幕戦を迎えるチャレンジリーグ。昨季のチャンピオン・常盤木は、今季もチャレンジリーグEASTに参戦。つくばFCレディースを宮城県サッカー場Aグラウンドで迎え撃つ。プレーオフで敗退した静産磐田も、チャレンジリーグWESTで引き続きプレー。開幕戦はJリーグも行われる小笠山総合運動公園エコパスタジアムでのホーム開催。その対戦相手は、なでしこ1部の浦和レッズレディースなどから選手を大量補強したバニーズだ。

 今週、日曜日の開幕戦は、なでしこリーグのゲームと(おそらく意図的に)開催地域の競合が避けられている。日進月歩で進化するチャレンジリーグの戦いにも、ぜひ足を運んでいただきたい。
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