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AC長野、コノミヤから5得点を奪い、なでしこリーグ1部初勝利。

取材・文/西森彰

■オレンジに染まるスタンド

ゴール裏はオレンジ一色。この日は2,500人を超える観客が足を運んだ
ゴール裏はオレンジ一色。この日は2,500人を超える観客が足を運んだ。

昨年、南長野運動公園総合球技場が生まれ変わった。なでしこジャパンの女子ワールドカップ壮行試合(イタリア戦)も行われた、このスタジアムの収容人員は約15,000人。新設されたスタンドは2階建てで、メインスタンド、バックスタンドには屋根がかかり、観戦環境は非常にいい。この日、2階席は閉鎖されていたが、1階席はメインスタンドの真ん中からホームゴール裏、そしてバックスタンドの真ん中まで、グルリとオレンジの服を身につけたサポーターが入っている。

数年前、改修前のスタジアムに来たことがあり、きれいな芝のピッチと小さな観戦スタンドが記憶に残っている。そんな思い出を伝えると「ほとんどが芝生席でしたし、テントを立てて記者席にしたりしていましたから」と、AC長野パルセイロの広報担当者は当時を振り返ってくれた。

試合開始直前、勢いよくスプリンクラーでピッチへの散水が行われた。正午過ぎと言う時間帯もあったか、ピッチ上の日当たりも良好。テレビ中継も入り、AC長野パルセイロレディースのなでしこリーグ1部ホーム開幕戦の舞台は整った。


■オープンゲームで激しい点の取り合いに

この日のコノミヤ・スペランツァ大阪高槻戦は、試合内容だけをとれば、大味なゲームになった。互いが勝ち点3にこだわればこうなるとは想定していた。AC長野は、最終ラインにFW出身のキャプテン・矢島由希がSBに置かれている。日テレ・ベレーザでなでしこ1部での試合経験も豊富な木下栞がCBに入ってはいるが、前節のベガルタ仙台レディース戦で3失点。守備にやや不安が残り、できるだけ相手陣内で試合を進めたい。

となると、昨年、2部で連勝街道をやってきた時に本田監督が苦笑交じりに呟いた「見てくれはあまりよろしくない、たいしたことのないサッカー」を選択せざるを得ない。横山久美と泊志穂、そして齊藤あかねにボールを預けて、この3人の突破力に頼る。

これをアウェーのコノミヤがどう受けるかがひとつのポイントだった。3バック、4バックの両方ができるコノミヤだが、本並健治監督は3-4-3の布陣を選んだ。WBに北川和香菜、巴月優希を置いて、ここから相手ゴール前にクロスを打ち込み、サラ・グレゴリアス、丸山桂里奈、倉員史帆の3トップと成宮唯に狙わせる。

AC長野のエース・横山久美。この日は2得点1アシストの活躍を見せた
AC長野のエース・横山久美。この日は2得点1アシストの活躍を見せた。

両軍陣地をロングボールが飛び交い、FWとDFの勝負が続く。中盤にこぼれるセカンドボールの奪い合いも、ほぼ互角。どちらに転んでもおかしくない状況で、エースの横山久美が先制点を挙げる。さらに「あの1点が向こうに行っていたら、どうなったかわからない」という2点目も奪い、これでシーズン3ゴール目。さらにどちらも疲労の色が見え始めた前半終了間際、横山のアシストで大宮玲央奈がゴール。「運動量でチームに貢献しようと思っていた」と大宮。大勢を決した。

コノミヤは、蹴り合いに持ち込むよりも、成宮を中心にボールを落ち着かせ、丁寧な戦いを選択したほうが良かったように思えた。それも全て終わってからの結果論だろうか。後半、齊藤に4点目を奪われた後、4-4-2にフォーメーションを組み替えた。71分に亀岡夏美、試合終了直前、最前線にポジションを変えていたCBの佐藤楓と2点を返したが時すでに遅し。

シュート数は15対12で大差なく、内容も五分か、ややAC長野が上回ったくらい。本田監督自身が「前半3-0でしたが、逆に1-3でもおかしくなかった」と振り返るほど、決定機の数も互角に近かった。横山の先制点後、再三のピンチに池ヶ谷夏美が立ち塞がらなかったら。あるいは指揮官がMVPに挙げたボランチの國澤志乃ら、中盤の選手が足を止めていたら……。

指揮官がMVPに挙げたのは國澤志乃。運動量と気の利いたフォローが光った
指揮官がMVPに挙げたのは國澤志乃。運動量と気の利いたフォローが光った。

それでも、最終スコアは、後半、角度のない場所から決めた泊のゴールを含めて5対2に開いた。「(数は同じくらいでも)ひとつひとつの決定機を比べれば、ウチのほうが、より得点をとれそうな形になっていたと思います」と横山。いくつかの分水嶺を越えて、AC長野は、ホーム開幕戦の大勝にたどり着いた。


■難しいのは勝つことよりも、観客を増やすこと

シーズン最終順位6位を目指すAC長野。目標から逆算した場合、2試合を終えて勝ち点3、得失点差+2は悪くないスタートだ。1部経験者は少なくないが、チームとしては初めて上がったステージで、1シーズン戦えそうな手ごたえをそれぞれ得ただろう。

そしてそれ以上に大きいのは、サポーターの熱気を保ったままシーズンインできたことだ。試合前、ピッチ横からオレンジ色に染まったスタンドを眺めていると、直前練習で入ってきた本田監督が、やや誇らしげに声をかけてきた。

「どう? 3年間で『なかなかやるじゃん!』っていうところまで来たでしょ(笑)」

一昨年、佐久で行われたホーム開幕戦は、有料試合に切り替わった初年度でもあり、観客は500人にも満たなかったと記憶している。それが昨年、完成した新スタジアムを一度見ようと、近隣から足を延ばす人が増えた。これで翌年はプラス千人。なでしこジャパンの試合で女子サッカーに興味を持つ人もでてきた。そうした一見客の前で、勝利を積み重ね、そして昇格という結果を残すことで、ファン、サポーターを獲得してきた。さらにプラス千人。こうして、ホーム開幕戦の観客数は、一年に約千人ずつ増えて、今年は2,554人を記録した。今年は、ただのプラス千人ではない。なでしこジャパンがリオ五輪の出場権を失い、各クラブとも戦々恐々としながら迎えたシーズンでのプラス千人である。

本田美登里監督は、チームを強化しながら、観客も増やしている
本田美登里監督は、チームを強化しながら、観客も増やしている。

1部リーグで勝てるチームと、2,500人の観客を呼べるチーム。作るのが難しいのはどちらか、本田監督に尋ねた。

「うーん、どちらでしょう……。2500人入れるほうが大変だと思います。5点取りましたが、選手に伝えているのは難しいことではなく、まずゴールを目指して、ゴールを目指せなかった時にボールを動かそうということ。ウチにも横山や齊藤のような選手がいますが、他のチームにも、もっと素晴らしい選手がいる。(それでもなかなか観客数が伸びないのだから)2,500人入れるほうが難しいと思います」

この観客数を維持し、サポーターの熱気を増していく上でも、今はなりふり構わず、結果を残していくしかない。大勝の勢いを駆って、次節、優勝候補の一角、浦和レッズレディースとのゲームに向かう。
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