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新たな場所で~石津大介の挑戦

140810_0903 新たな場所で~石津大介の挑戦
【中倉一志=取材・文・写真】
小学校の時に父親に連れられてスタジアムに来たのが、石津大介とアビスパの初めての関わり。その時から、博多の森にあるスタジアムで歓声を浴びてプレーすることを夢見て、ただひたすらにサッカーボールを追いかけてきた。その夢を実現させたいま、「自分のプレーで、見ている人たちに元気を与えられるような、サッカーの楽しさを伝えられるような、そんな選手になりたい」という想いを胸にピッチの上を走り続けてきた。彼にとってアビスパと、レベルファイブスタジアムは特別な場所だ。

その石津が神戸への移籍を決断した。クラブを通して発表されたコメントからも、大きな葛藤があったことが手に取るように分かる。移籍する選手としては異例とも言える長いコメント。言葉の端端に溢れる福岡への想い。そしてプロ選手として少しでも高い位置へ登ろうとする意欲。その真摯なコメントは、いかにも彼らしい。何も言うことはない。彼がプロとして下した決断を尊重したい。そして、もっと大きな選手になってくれることを願いたい。彼と一緒の時を過ごした1人の人間として心の底からそう思う。

あまり記憶が定かではないが、初めて彼を見たのは5年前の夏頃だったように思う。「随分と日本人離れをした顔だなあ」というのが第一印象。当時は大学サッカーの取材をしていなかったこともあり、彼の名前を知らなかったが、一緒に練習試合を見ていたサポーターが「ウエンツ瑛士に似てないですか?」と話しかけてきたことから、しばらくの間、仲間内では「ウエンツ」と呼んでいた。

また、いつも怒ったような表情で、ほとんど笑顔を見せることもなかったため、随分と気が強そうで、生意気そうな選手だなという印象も持っていた。先日、当時の事を話す機会に恵まれた時に「ひとつ、ひとつの練習に対してミスしてはいけないと集中するので精一杯で、周りに気を使う余裕もなく、アビスパに対する印象すら覚えていないほどテンパッていました」と話してくれたが、いかにも生真面目な石津らしいエピソードだ。

ただ、プレーは当時から光るものを見せていた。特にペナルティエリア付近でのゴールに対する嗅覚が鋭く、練習試合では、何かと言えばゴールを決めていたことを思い出す。プロの選手に対する遠慮もあったのだろう。当時からドリブルが得意だったとは言え、今のようにボールを長く持つことは少なかったが、ペナルティエリアに飛び込んでは、クロスボールに抜群のタイミングで合わせていた。

プロ初ゴールは2012年8月22日のJ2第30節の富山戦。1-2のビハインドの状況で79分にピッチに登場すると、その直後の82分、自らのシュートのこぼれ球に左足を一閃。見事にゴールを捉えた。さらに89分にも左足を豪快に振り抜いてゴールネットを揺らし福岡に勝利をもたらした。石津本人も、サポーターも待ち望んでいたゴール。チームに逆転勝利をもたらした2つのゴールは、その豪快さと合わせて、いまでもサポーターの心に焼き付いている。

記憶に残るゴールと言えば、2013年5月12日、J2第14節のG大阪戦のゴールも忘れることはできない。0-3とリードされて迎えた70分、ゴールまで約20メートルの所から右足を豪快に振り抜いて、ここしかないというところに突き刺した。さらに82分にはゴール前中央から対峙するDFの股の間を通すシュートを放って2点目を叩きだす。富山戦のゴールも、G大阪戦のゴールも石津のパンチ力を活かした完璧なゴール。今でも脳裏に鮮やかに蘇ってくる。

その風貌とは裏腹に(失礼)、非常に真面目な選手でもあった。どんな時でも不平不満を口に出さず、どんなに悔しい時でもメディアの取材には嫌な顔ひとつ見せずに真摯に応えてきた。もちろん、悔しい時も、やりきれない想いで一杯のときもあっただろう。それでも、自分に言い聞かせるように言葉を口にした。その姿勢が今の石津を作っている。また、後輩の面倒を積極的に見ていたのも印象深い。男気のある性格なのだろう。1年目のシーズン終了後に入籍をしたが、その時に彼が口にした言葉は今も忘れない。「2年目は絶対に活躍します。結婚して1年目の成績を下回ったら嫁が悪く言われる。それだけは絶対にさせません」

そして2014シーズン。石津は覚醒の予感を漂わせながらプレーを続けていた。高い位置からボールを追って守備に貢献することから始まって、間、間でボールを受けて攻撃の起点を作り、前を向いて積極的に仕掛けるだけではなく、非凡なパスセンスも披露。第25節の愛媛戦では、少し下がったところでボールを捌いてゲームを作った。チーム事情もあり、必ずしも、そのすべてが数字に結びついたわけではないが、大きく花開こうとしていることは、多くの人たちが知っていた。それは、彼がボールを持った時に起こる大歓声が証明している。

「常に成長し続けたいという気持ちを持ってやっています。いくら点を取ろうが、いくら試合に出ようが、上を見れば、果てしなく上はいるわけですから」
様々な取材を通して多くの事を話してきたが、この言葉が特に強く私の心に残る。その想いを胸に石津は神戸でプレーする。成功を祈っている。


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