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最大のライバルを撃破したリトルなでしこ、全チーム中唯一の3連勝を飾る。

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西森彰=取材・文・写真

苦しい状況からの復元力が足りなかったチームが、精神的に大きく成長していることは、試合前開始の30分前から見て取れた。

自軍ベンチ付近で円陣を組んだ日本チームから、大きな掛け声が上がった。それは逆サイドにいた北朝鮮の選手までがびっくりして顔を見合わせ、笑いの渦を起こすほどの大声だった。宮本ともみコーチが指示するウォーミングアップメニューが始まってからも、日本の選手からは明るい声が絶えない。

東西に分かれた1次合宿に始まり、中国遠征を消化したあとの御前崎合宿に至っても、チームはシャイな集団だった。練習終了時の挨拶も、周囲に促された選手が、聞き取れるかどうかの小さな声で行う。チームを率いる楠瀬直木監督は、彼女たちのサッカー選手としての素質、将来性よりも、おとなしすぎる気性を気にかけていた。

「『チームで声を出そう』というのは、監督からも言われ続けていますし、自分たちでも『もっと声をださなければいけない』と話し合っていました」(木下桃香)

若いチームは変われば、変わる。いや、大化けするということか。



U-16日本女子代表=リトルなでしこの、グループB1位抜けを賭けた戦いは、立ち上がりから相手のプレッシャーに苦しんだ。フィジカルに優れた選手が多い北朝鮮は、キックの質もパワフルそのもの。6分、日本の横パスをカットして左に展開、KIM YUN OKがオープニングシュートを放つと、その後も、強烈なキック力を武器に日本を揺さぶる。

「相手は強いので、計算をせずにやってみよう。私たち日本の現在地がどうなのか。ひょっとしたら3点差をつけられるかも知れないけれど、とにかくやってみようという感じでした。もちろん、勝利を狙ってはいましたが、私が思っていたよりも、相手が強かった。外から見ているより、実際にやってみたほうがずっと強かった」(楠瀬直木監督)

劣勢の中、何とかボールを保持していられるのは、富岡千宙、伊藤彩羅、ボランチに入った松田紫野の3枚が絡む左サイドだけだ。このエリアで2、3本パスをつないで落ち着きを取り戻し、耐えるのがやっと。相手の速い寄せに対抗しようと木下桃香が強いパスを供給しても、守備にエネルギーを奪われている選手が多く、ボールロストにつながってしまう。

「前半は、相手の勢いに押されていたので、なかなか後ろでボールを回せなくて、どうしても前に、前にと行ってしまった。チーム全体でここは耐えようと話し合っていました」(木下)

北朝鮮のシュートを浴び続けた日本は、18分、こぼれ球への出足で負けてKIM RYU SONGのクロスを許し、最後はKIM KYONに決められて、ついに失点する。それでもピッチ内の選手は「ルーズボールを相手に拾われてクロスを上げられ、シュートにつなげられてしまっていた。でも、『ここを乗り越えたら自分たちのペースができる。必ず点は取れる』と」(松田)プレーを続けた。我慢の時間帯で、負担を強いられたのはCBの後藤若葉、渋谷巴菜、そして誰よりもGKの大場朱羽だった。

「自分の力だけではなく、前にいる選手たちが連携しながら、体を張ってプレーしてくれていたので、コースが限定されていました。完全にフリーで打たれるようなシーンはほとんどありませんでした」(大場)

大場は、度重なるピンチで好セーブを連発し、追加点を許さない。守護神がしっかりと自分の役割を果たしたことが、逆転劇への布石となった。



ハーフタイムのロッカールームで、楠瀬監督は選手に、前向きな言葉をかけた。「もっと自信を持ってボールを回していこう。後半は自分たちのサッカーをしよう」。さらに選手同士の距離感など、具体的な指示を加えて、チームの体勢を立て直した。

相手FWの圧力によって高さを保てなかった最終ラインを、木下がアンカーの位置まで下りて助ける。後方からのビルドアップができるようになり、背後を気にしてラインの押上げが遅れていた右SBの善積わらいも積極的にオーバーラップ。これに呼応して山本柚月も仕掛ける。その他の選手も、細かく動いてポジションを取り直し、相手と相手の間でボールを受ける。前半とは段違いにパスが回り始めた。

「前半は、DPRコリアの勢いに押されてしまうような形になってしまい、自分のサイドでほとんどチャンスを作ることができませんでした。ハーフタイムに監督からの指示もあって、後半はスペースを使うことができたのでよかったと思います」(山本)

ブロックを作って自陣を固め出した北朝鮮。そのガードの隙間を縫うように、日本の選手がアタッキングエリアへと侵入していく。

「ハーフタイムに楠瀬監督から『自分たちのサッカーをしよう』という話がありました。後半は相手の勢いが弱まってきて、前半、できなかった縦パスの狙いが生まれていました」(木下)

59分、北朝鮮が次戦以降を考えたか、エースのKIM RYU SONGを下げる。その3分後、日本が疲れの見え始めた瀧澤千聖を田中智子に交代、キャプテンの松田をボランチから最終ラインに下げて、木下の横に中尾萌々を投入する。この2回の交代で、攻める日本と守る北朝鮮の流れはさらに鮮明になった。



そして76分、コーナーキックからの混戦で、ことごとく日本の選手が先に反応。こぼれ球をシュートに結びつけていく。3連続シュートのトリを飾ったのは木下。チーム最年少のシュートが北朝鮮のゴールネットを揺らして追いつく。大会前に指揮官が「育成年代の選手にこういうことはあまり言わないのですが、将来的には、なでしこジャパンで阪口夢穂の後継者として活躍してほしい選手」と指名されていた17番だ。

「年上とか年下とかは関係ないと思いますし、自分の良さを出していきたい。この年代の代表活動で点をとれたり、チームに貢献出来たりするのは嬉しいことですし、だからこそもっと上のカテゴリーに行っても、チームの中心であり続けたいと思います」(木下)

「相手に楽をさせるな、ここがチャンスだ」という指揮官の檄に応え、日本の選手は同点にもひと息入れることなく、北朝鮮を消耗戦に引きずり込んでいく。「自分が苦しい時は、相手も苦しい」というのが勝負の鉄則。楠瀬監督がローテーションで選手起用する日本に対して、3試合の先発がほぼ同じ顔ぶれの北朝鮮は、より疲労の色が濃い。赤いユニフォームの寄せはワンテンポずつ遅れて、いつカードが出てもおかしくない苦し紛れのアフターチャージが増えてきた。

試合も終盤の残り5分というタイミングで、楠瀬監督は大澤春花に代えて加藤ももを3枚目のカードとして投入する。その直後だった。蘇生した日本の右サイドから北朝鮮ゴール前にクロスが入る。ふたりのアタッカーがこれに飛び込み、その動きに幻惑された北朝鮮GKの手をすり抜け、ボールがゴールへ吸い込まれる。試合後に「シュートではなくパスでした」とはにかんだ山本のキックは、値千金の決勝点となった。



試合終了のホイッスルと共に「うっし!」と力強い声を上げ、右手でガッツポーズを3回繰り返した楠瀬監督。

「中国も韓国もいいチームだし、次にあたるのがどちらでもいいと思っていました。グループで2位だったぶんだけ、私たちのほうが意地のようなものがあったのかも知れません。正直、今の彼女たちにとっては、満点(のデキ)だと思います。これだけ強い北朝鮮を相手にして、耐えて、我々のスタイルで勝てたのですから。北朝鮮に勝ったのは大きな自信になります。これを続けていくことが重要だと思います」(楠瀬監督)

前回のチームから数えて、公式戦4度目の対戦で初めて北朝鮮から白星を挙げた指揮官も、選手たちに負けず劣らず、意地があったのだろう。勝利をひとまず喜んだ楠瀬監督だが、ウルグアイ行きのチケットを勝ち取る上で、この勝利が何かを約束してくれるわけではないことも、重々承知している。

「後半は相手の足が止まっていました。実際のところはわかりませんが、向こうが準決勝以降のことを考えた部分があったのかも知れません。今日はグループ1位と2位を決める以外に何かがかかったゲームではありませんし。(北朝鮮は)本当はもうひとつ、ふたつ上の力を持っているでしょうから、これで浮かれることなく、次の試合に臨んで、決勝でまた本気の相手に勝てるよう、頑張りたいと思います」(楠瀬監督)

それは、選手も同じ。「まだ決定力が課題。練習からゴールへの執着心をもって取り組んでいきたい」と山本が言えば、木下も「今日の試合の疲れをしっかりとって、次の準決勝に備える。もっとコミュニケーションをとっていきたいと思います」と視線は準決勝に向いている。



その準決勝は、今日、9月20日(水)。グループAの中国、韓国の試合間隔が中3日あるのに対して、グループBの日本、北朝鮮は中2日と1日分のハンデがある。北朝鮮は、自軍同様に固定メンバーで戦い続ける中国と夕方16時(日本時間18時)からのゲーム。日本は、ラオス戦で一息入れた韓国と19時半(日本時間21時半)からのナイトマッチ。どちらが当たりくじだったのかは、神のみぞ知るところだ。

「前回はワールドカップには行けましたけれど、決勝で負けてしまっていたので、今回は最後まで勝ち切って本大会に行きたい」(大場)

現時点で言えるのは「全勝優勝の可能性があるのは日本だけ」という事実である。


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