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前半戦のサバイバルマッチは、コノミヤが浦和を降して、今季初勝利を手に入れる。

取材・文/西森彰

■今季未勝利の2チームが対戦

開幕から1分け2敗の勝ち点1と、思わぬスタートを切った浦和レッズレディース。第4節の対戦相手は、3連敗中のコノミヤ・スペランツァ大阪高槻だ。どちらも、今季昇格したばかりのAC長野パルセイロレディースに敗れるなど、不調の極み。その原因は目指すサッカーを具現化できていないところにある。

浦和は、展開力のあるボランチから両サイドにボールを散らしていこうという狙い。だが、左右に振ろうとすれば距離が開きすぎ、かといってSHが中に絞れば、ボールを失いはしなくても、相手の寄せが間に合ってしまう。前節で負傷したボランチの猶本光がメンバー外になった。猶本の代わりに起用されたのが長野風花。「(バランサーの)栗島(朱里)も考えたが、点をとらなければ勝てないから、攻撃的に行こうと」(吉田靖監督・浦和)右SHの柴田華絵が、猶本の抜けた中央に回った。

前日の試合で、勝ち点1だったジェフユナイテッド千葉レディースが今季初勝利を挙げて、勝ち点を4に伸ばしていた。そのため、この試合に敗れたほうが暫定最下位となる。「ここまで勝利がありませんでしたし、昨日、ジェフが勝っていたので、ここで離されるときつい。『絶対に勝ちに行こう』とみんなで話し合っていました」とコノミヤの成宮唯。

この日の丸山桂里奈はボランチとしてプレーした
この日の丸山桂里奈はボランチとしてプレーした。

本並健治監督は、長くなでしこジャパンのストライカーとして活躍してきた丸山桂里奈を、この日、ボランチで起用した。背水の陣はこちらも同じだ。


■ワンチャンスを活かしたコノミヤが、追い風に乗る

とにかく勝ち点3を目指すチーム同士らしく、序盤からチャンスが生まれる。キックオフから1分も経たないうちに、浦和は、北川ひかるのクロスに後藤三知がヘディングシュート。コノミヤもすかさず巴月優希からボールを託された成宮がシュートを放つ。一瞬肝を冷やした浦和だが、7分、柴田のパスから吉良知夏がシュート。3分後にも加藤千佳のクロスに吉良が頭を合わせる。

「最初のチャンス、柴田の横パスからのシュートは練習でもやっていた形。ボールの置き所がうまくいかなくて決まりませんでしたが、序盤でシュートを打てたことで自分でも流れを掴めた。その後にすぐ、加藤のクロスから決定的なチャンスも作れた。あれを決めなきゃいけない。それに尽きる」(吉良)

コイントスで風上を選び、序盤から押し気味に試合を進める浦和。だが、勝利に近づく先制点を奪えないのはここ2試合と同じ。浦和は高い位置から2トップへのクロスを狙うが、3-4-3で布陣するコノミヤのウイングバックにうまく対応された。「サイドに展開した時に、相手の守備にかかって奪われてしまう場面が何度かあった」と後藤。駒場スタジアムに、嫌なムードが垂れ込めてくる。

連敗中のコノミヤは、3-4-3での戦い方に、磨きをかけてきた。相手のサイドアタックを消す守備だけではない。「システムは守備的に見られがちなんですが、対戦相手にかなり攻められることは想定内。そこでボールを奪ってから、前の3人でどう攻めるか。お互いの距離感の調整や、決め事の確認を、この1週間、繰り返しやってきました」と成宮。ポジションを上下左右に変える3トップに、浦和はマンマーク気味な対応を強いられた。

強烈なヘディングシュートで流れを引き寄せた佐藤楓。堅守で無失点にも貢献
強烈なヘディングシュートで流れを引き寄せた佐藤楓。堅守で無失点にも貢献。

そんな中で得た20分の左コーナーキック。キャプテン・虎尾直美の蹴ったボールは、風に揺すられて絶好のスペースに落ちていく。浦和のDF陣を割るように飛び込んだ佐藤楓が、値千金の先制ヘディングシュートを決めた。「前半は向かい風でしんどかったんですが『とにかく続けろ』と監督、コーチから言われていた。佐藤が前半に1点とったのが大きかった」と丸山。コノミヤの士気は上がった。

「インスイングのボールが風に乗って、嫌な形で落ちた。ああいうところで守り切れないのが今シーズンかなと思います。失点するまではいつもいいんですが点がとれなくて、失点しまうというのが今の悪い流れ。試合全体でも、相手より先にボールに触り、そして個々の所で勝っていかないとチームとしてもよくないと感じました」(高畑志帆・浦和)

前半は、コノミヤが1点のリードで折り返した。


■成宮が獅子奮迅の活躍。2得点で試合を決める

「相手に追加点を与えてしまう前に、1点取って追いつければ勝てる可能性は高まっていた。ハーフタイムにそういう意識を高くして臨んだ」(後藤)浦和だが、今度は、前半にも増して強くなった風に苦しんだ。

「風上の時は裏に抜けるチャンスもありましたが、ピッチが試合開始前の雨でスリッピーになっていて、なかなかボールに追いつけなかった。風下になって、前半みたいなプレーをしていたら、そういうチャンスもできるという話をしていたが、それ以上にボールが前に進まなかった。ピッチの中でやっている印象では、前半みたいに蹴っても風で戻るということがあり、つないで進もうとした」(吉良)

対戦相手がリードを意識してガードを固めれば、浦和も落ち着いて攻めることができただろうが、この日のコノミヤは攻守に積極的だった。「このチームは1点のリードじゃ厳しい。2点取っても逆転されることがあったし、いかに3点目を奪って、相手を精神的に追い込めるか」(成宮)を命題に、イレブンは走り続けた。

経験の浅い浦和の若手が、コノミヤのプレッシャーに負けてしまった。ボールを受けると一刻も早く自分の足下から離そうと、精度を欠いたパスを出しては、それを奪われる。低い位置で何とかボールを奪い返し、コートの中央まで押し返しても、そこからまたコノミヤの逆襲を受ける繰り返し。完全に、悪循環に嵌ってしまった。

そして62分、コノミヤに追加点が生まれる。成宮が、まずは丸山、次いでニュージーランド女子代表のサラ・グレゴリアスと立て続けにワンツー。ゴール前に切り込み、右足でのシュートを決める。勢いに乗った成宮は、71分には左サイドの巴月に預けて、再びゴール前に侵入。リターンを受けると、再び右足で決定的な3点目を挙げた。

大勢を決する3点目を奪った成宮唯(7)をチームメートが称える
大勢を決する3点目を奪った成宮唯(7)をチームメートが称える。

「この1週間話し合っていったことが、試合でうまく嵌ってよかった。得点の場面では、うまくボールがつながってゴールまで良い形でいけた。2点目は、前半から監督にシュートの意識について言われていたので、あそこで打ちました。3点目も狙い通りでした」(成宮)

FW起用に応えた成宮だが、浦和の攻勢時にはペナルティエリア内まで戻って、守備陣を助ける活躍。マン・オブ・ザ・マッチを選ぶなら、この日は文句なしにコノミヤの7番だった。


■勝利こそが自信回復の特効薬だが……

コノミヤに0-3で敗れた浦和には、スタンドのサポーターからも厳しい声が飛んだ。開幕から4試合未勝利で、とうとう最下位に転落。僅かに見えた光明は途中出場の清家貴子、山守杏奈の強引とも思われる突破力だった。

だが、チーム全体に漂う自信の喪失は、それ以上に深刻だ。歯車が狂うと途端に「互いの距離感が遠くなっていく」というセリフを、幾たびも、選手の口から聞かされた。おそらく「これ以上、ミスをしたくない」という意識が、知らず知らずのうちに戦いの場から身を遠ざけさせているのだろう。

「もちろん『先制点をとる』という意識で練習からやっています。それがとれないのが今のチームの現状。そこで悲観的になるのではなく、もう一度、チーム全体で『先制点をとる』というところに向かって行き、守備陣は『それまで失点しない』というところを含めてやっていきたいと思います」(高畑)

現在、選手が置かれているメンタルを考えると、積極的にアクションを起こすサッカーよりも、昨季、苦境を乗り切ったリアクションサッカーで勝ち点を積むことが必要にも思われるが……。

セットプレー時には高畑志帆も攻撃参加した浦和だが、この日もゴールは遠かった
セットプレー時には高畑志帆も攻撃参加した浦和だが、この日もゴールは遠かった。

一方、今季初の白星を手に入れたコノミヤの選手からは、笑顔がこぼれた。

「素直にうれしいです。なかなか勝てない試合が3試合続いていましたが、試合内容は一戦ごとに、どんどん良くなっていました。昨年と比べて手応えも感じていましたし、まずは『失点しない』ということだけに集中していましたし、ある意味で開き直ることもできました」(成宮)

この日2得点の後輩について、丸山は「若いけれど頼もしさがある。よくチーム全体を見ていてくれるし、いろいろ教えていけたらいい」と語る。自身は、この日、ボランチでプレーしたが「相手を見てシステムも変更できたらいいと思う」と言うあたり、「やっぱり、前目でやりたい」という意識が見え隠れする。それでも、掛け値なしの笑顔をふりまくあたり「チームの勝利が最優先」ということなのだろう。

勝利という良薬を手に入れたコノミヤ。未だに特効薬を手に入れられない浦和。ミックスゾーンで見せた対照的な表情は、次の試合を終えてどう変わっているだろうか。

日テレ、I神戸との秋田決戦を制して、首位に立つ。

取材・文/西森彰

■なでしこ首位決戦の地は東北・秋田

開幕から3戦全勝のINAC神戸レオネッサと、2戦1分けでこれを追う日テレ・ベレーザ。新旧女王の首位決戦は4月16日(土)、秋田市八橋運動公園球技場=あきぎんスタジアムで行われた。

日テレイレブンは、試合終了まで秋田のピッチを走り切った。
日テレイレブンは、試合終了まで秋田のピッチを走り切った。

秋田県サッカー協会は、このゲームを迎えるにあたって、青森、山形など隣県のサッカー協会の協力を要請して、開催告知を進めた。また、スタジアム横のグラウンドでは、少年サッカー大会を開催した。こうした集客活動が実を結んだ結果、あきぎんスタジアムに足を運んだ観客の数は3,133名に達した。

「私自身は秋田に来るのが初めてで非常に楽しみにしていました。正直なところ、秋田でサッカーがどれくらい浸透しているかがわからなかったので、なでしこリーグに興味を示してもらえるのか心配だったのですが、これだけ大勢の方に来ていただけました。特にお子さんの姿が多かったのが印象的で、これからの秋田のサッカーにとっても大事なことではないかと思いました」(川澄奈穂美・I神戸)

秋田開催を楽しみにしていた川澄奈穂美が、クロスのタイミングを計る。
秋田開催を楽しみにしていた川澄奈穂美が、クロスのタイミングを計る。

「今日、試合を見に来てくださった方々には感謝しています。みなさんが来てくださることで、私たち選手は頑張れます。また、たくさん来ていただいた方々の前でつまらない試合、だらしない試合をしてはいけないと思っています」(大野忍・I神戸)

「バックスタンドをはじめ、小さなサッカー少年、少女がたくさん来てくれましたし、多くのお客さんの前で試合ができるのは、プレーしている私たちにとっても気持ちがいいものです。こうやって女子サッカーを見に来てくれる人たちが、続いてくれればいいと思います」(岩清水梓・日テレ)

スタンドを埋める観客から背中を押されるように、両チームは、見ごたえあるゲームを展開した。


■チームに溶け込んだ、2年目の杉田妃和

昨季のレギュラーシリーズ後半戦では、堅い守備ブロックを敷いた日テレが、I神戸の攻撃を耐え凌ぎ、相手の足が止まったところで攻勢に出て、鮮やかに勝利を飾った。森栄次監督のゲームプランが見事に嵌った感があったが、このカードは、対戦相手の出方を読むのが大変らしい。

「今日はINACが前から来るのか、引くのかわからなかったが、試合が始まったら、前に出てきた」(森監督)。まずは、これに対応しようと阪口夢穂、中里優のダブルボランチが低い位置に構える。それもあってか、序盤、ペースを掴んだのはI神戸。開始早々の2分、髙瀬愛実のシュートが山下杏也加を脅かし、4分にも鮫島彩のミドルシュートが放たれる。

「(チーム全体として」ゲームの入りはすごくよかったので『あそこで1点こちらにくれば……』というのはありましたが、奪ったボールをうまく相手に奪い返されていたシーンも多かった。あそこを打開できていれば、また違った展開になった」(松田岳夫監督・I神戸)。

指示を出す松田岳夫監督。両軍指揮官の采配も見どころのひとつ。
指示を出す松田岳夫監督。両軍指揮官の采配も見どころのひとつ。


このI神戸の組み立てに、中盤で絡んでいたのが、なでしこリーグ2年目を迎えた杉田妃和だ。澤穂希の引退、伊藤美紀の負傷もあって、今季は開幕戦から先発出場を続けている。オフ・ザ・ボールの質に指揮官は物足りなさを感じているようだが、それも期待の裏返し。試合経験を積みながら、ゲームの流れを乱すことなく、ボールに絡めるようになってきている。

「松田監督にも『受けたいという意志を出せ』と言われていましたし、それは大事。やっぱり、出してもらうのではなく、自分から出させるくらいのプレーを出したい」と杉田。この日は、綺羅星のようにピッチに散りばめられた代表選手たちに、自分から身振りと言葉で、激しくボールを要求していた。

アウトサイドで右に捌く杉田妃和。2年目で主力のひとりに。
アウトサイドで右に捌く杉田妃和。2年目で主力のひとりに。


攻撃的なボランチとしては、アタッキングサードでの仕事も課題。チームが攻勢をゴールに結び付けられなかった点について、杉田も「前に出ていった時に、自分の良さを出せていない。そこが毎回の課題になってしまう」と反省しきり。年代別代表でたびたび見せる決定機の演出は、この日のアディショナルタイムでも見せた。この特徴を、なでしこリーグを戦う中でコンスタントに出せていければ、さらなる成長が期待できる。



■田中美南、ひとり二役の奮戦で突破口開く

日テレも、I神戸に一方的にペースを握られていたわけではない。5分を過ぎたあたりから、混戦から長谷川唯のシュート、田中美南のPK獲得とも思われたドリブル突破など、チャンスが生まれ始めた。12分にも、籾木結花のクロスであわやのシーンを演出。

その直後に、大野と川澄のパス交換から最後は髙瀬にフリーでシュートを浴び、ヒヤリとしたが、その後は危険なシーンが減っていく。これまでの試合に比べて、自陣内でのプレー時間が長くなるのは織り込み済み。東北出身者の岩清水梓と、ラ・マンガ遠征を無失点に終えて自信をつけた村松智子を中心にして、I神戸の攻撃を抑え込んだ。

ボランチの中里優がプレスバックして、岩清水梓らと、髙瀬愛実を包囲。
ボランチの中里優がプレスバックして、岩清水梓らと、髙瀬愛実を包囲。

ベレーザは、好守の切り替えも、今季一番といっていいデキだった。「ウチの選手は、みな若い子たちだし、運動量もある。前線の高い位置からプレッシャーをかけて、それでボールがとれれば一番いいというスタンスでやっています」と森監督。CB、GKへのプレッシャーを強めれば、それだけ、ビルドアップの位置が低くなる。攻撃面で高い能力を秘める鮫島彩、近賀ゆかりの攻撃参加を防げる。

逆に前線からの守備がルーズになれば、後顧の憂いなく攻めあがる両SBに、深い位置からえぐられてしまう。こうなると試合全体が厳しくなる。I神戸の三宅史織、田中明日菜を相手に、数的不利な状況に置かれる日テレの田中美南が、どこまで戦えるか。ここが最大のポイントだった。

大一番のカギを握ることになった田中美は、期待に応えた。「もともとベレーザは技術的にうまいチームだと思われますが、(チームとして)前線の守備から入ろうというスタンスでやっています」(田中美)。両CBだけでなく、GK・武仲麗依へのバックパスへも、全力疾走で追いかける。

これがI神戸の守備陣に負担をかけて、ラインが落ちた。杉田、チョ・ヒョンソクの両ボランチと、最終ラインの距離が間延びする。するとライン裏を狙っていた田中は、この間延びしたスペースを、シャドーの籾木と活用しながら、カウンターを見舞い始めた。

田中美南は、I神戸の最終ラインを翻弄し、先制点も奪った。
田中美南は、I神戸の最終ラインを翻弄し、先制点も奪った。

「トップ下の位置で籾木、田中美奈に入るかどうかがビルドアップのカギ。あとは裏への飛び出しを狙うように言いました。狙い通り、何本か通ったようなシーンもありました」(森監督・日テレ)。自軍の攻撃を組み立てながら、守備面でも汗をかき続けた田中美に、36分、報酬がもたらされる。バックパスの処理を誤った武仲からボールを奪ってシュート。大きな先制点を奪った。

「ウチのCBは2枚で、相手のFWは1枚。そこで起点を作られたというのは改善しなければいけない。本当に今日はあそこでやられたなというイメージはありますね。ひとりで裏も狙える、足下でも受けられる。そういう良さを出した田中選手のプレーは、純粋に認めなければいけないし、ウチが見習わなければいけない部分」(松田監督・I神戸)



■森監督の我慢に応えた、日テレイレブン

籾木の支援は受けながら、田中美はボールを引き出す動きを見せ、チームを引っ張った。前線から最終ラインまで、日テレは、I神戸よりも一歩ずつ早い反応で上回り、優勢を保つ。「高い位置で限定してコースを狭めて、縦に蹴らせる。ただし、このやり方は体力的に厳しい。最後まで続くかなとは思っていた」。

森監督の懸念通り、後半に入ると、少しずつ、日テレの動きが落ち始め、余裕を取り戻したI神戸が分厚い攻撃を始めた。「自分たちが攻めるようになった後半は、相手が引いて自分たちのタイミングで出ていけたし、ああいうふうに積極的に出ていくのが自分たちの流れを作ることにもなるかなと思いました」と杉田。最終ラインの攻撃参加で間延びしていた陣形がコンパクトになり、波状攻撃から大野の同点ゴールが生まれた。

「勝負所は最後の20分。そこまで持っていけるか」森監督は悩んだという。ただ、両チームとも、ピッチにいるイレブンの闘争心は沸点に達している。「ああいった場面では交代したところで、後から入る選手も試合の流れに乗るのが厳しい部分があるんです。代えようかとも思いましたが、もう一度踏ん張らせてみようと」(森監督)。

熱戦の行方を決めたのは、阪口夢穂。
熱戦の行方を決めたのは、阪口夢穂。

やれるかやれないか。その最終決断をしようとピッチ内の選手に「声をかけたら、エンジンがもう一度かかったような気がした」。首位チームは驚異的な復元力を見せて、追いつくまでに足を使っていたI神戸をもう一度、競り落とす。勝ち越しゴールを奪ったのは、今季、何度もチームを救っている阪口。

あとは、ディフェンス陣が締めるだけ。「ディフェンスはハードワークをいつもどおり。相手のクロスはわかっていたので、それをどうやって防ぐのが課題でした。落とせない試合でしたし、苦しい試合でしたが勝ち点3を獲れてよかったと思います」と岩清水。



■首位決戦にふさわしい、見応えあるゲームだった

最終スコアは2対1。日テレがI神戸を破って、首位に立った。試合内容もスコアに準じており、この結果は妥当なところだろう。それにしても、なでしこリーグをけん引する2チームにふさわしい、好ゲームだった。

同点ゴールを奪った大野忍。試合後は、敗戦に言葉少な。
同点ゴールを奪った大野忍。試合後は、敗戦に言葉少な。

一度は試合を振り出しに戻した大野は「何もないです。自分たちのミスで負けただけ。切り替えてやるだけだと思います」と口数が少なかった。ただ、客観的に振り返れば「試合に負けてしまったので、チームとしてはその結果が残念ですが、なでしこリーグとしては、白熱した戦いを見せられたのではないかなと」いう川澄の総括が、より真実に近いだろう。

「動き出しの部分で相手に劣っていたと思います。ただ、打開できないプレッシャーじゃないし、流れの良い時間帯は、打開できていました。これは、メンタルの問題。相手が来るから何とかしようという意識が強すぎて、ボールを持っていない選手の意識を変えないとなかなか打開できない。スペースと人に対しての意識、周囲との連携を高めなければいけません」

これが、敗軍の将となった松田監督の弁。百戦錬磨のI神戸イレブンが視野狭窄に陥るほどのプレッシャーをかけ続けた、日テレの選手たちの出足が勝ち点3を手繰り寄せた。

我慢の采配で勝利を手繰り寄せた森栄次監督。
我慢の采配で勝利を手繰り寄せた森栄次監督。

「向こうには代表選手もいるし、強さ、上手さがある。リーグ戦のほとんどの試合は、相手の守備を崩すにはどうすればいいかというのを考えながらやっているが、INACが相手の時は、守備を考えなければいけないし、そこは強調して、今週の練習をやってきた。これは、向こうもそうだと思うし、お互いにリスペクトしながらやっています」(森監督)

互いを最強のライバルと認めあう両チームは、今後もよきライバルとして、なでしこリーグを盛り上げていってくれることだろう。

高いシュート意識で、日テレが岡山湯郷に大勝。

取材・文/西森彰

■対戦前の状況はイーブンだったが……

日テレ・ベレーザが岡山湯郷Belleを多摩陸上競技場に迎えた一戦。ここまで2試合を戦い、共に勝ち点4。日テレは浦和レッズレディースと引き分け、ジェフユナイテッド千葉レディースを3-1で降した。岡山湯郷はアルビレックス新潟レディースと引き分け、ベガルタ仙台レディースに2-1で競り勝った。

日テレは昨季、なでしこリーグベストイレブンに選ばれた原菜摘子が引退した。「原と阪口夢穂からの組み立てはウチのストロングポイント」(森栄次監督)が失われ、日テレは新たな形を模索している。

原のポジションに置かれたのは、同じ小兵の中里優。身長差のハンデを克服して、年代別代表でも活躍した逸材だ。森監督は「中里に原と同じことは求めない。リターンを受けるところや、ボランチの位置からゴール前にスルスルと顔を出して行って、シュートも両足で蹴れる。阪口とのアイコンタクトが出てくるようになれば、さらによくなるし、一年通してやればそこそこいいコンビネーションができる」と期待する。

この日2得点の中里優。指揮官は「これで、味をしめてくれれば」
この日2得点の中里優。指揮官は「これで、味をしめてくれれば」。

コンビを組む阪口も、中里のシュート力など彼女の長所を強調。「若い選手に気をつかってプレーされるのは嫌ですし、彼女のミスはカバーしようという気持ちでいますが、特に無理をして合わせているようなところや、やりにくさはありません」と太鼓判を押していた。

岡山湯郷もケガ人が多い。ベテラン勢の多いチームで、なでしこリーグ2年目の選手が3人も先発出場している。勝ち点も、チーム事情も似たような状況でこの試合を迎えた。


■止まらないゴールラッシュ

試合の序盤は、好調なチーム同士の対戦らしいゲームになった。ゲームを支配したのは日テレだったが、岡山湯郷も粘り強い守備で、一番警戒していたゴール正面のシュートコースは消した。「全部を防ぐことはムリだから、ブロックの外からのシュートは福元美穂に任せる。ただ1点、阪口のミドルシュートだけは警戒しようと」(宮間あや)的を絞ったベレーザ封じを試みる。

これまでベレーザが格下相手の試合で敗れる時は、あるパターンがあった。プライドにかけて崩し切ろうとするあまり、相手陣内でパスを2、3本多く使い過ぎて、ボールを引っ掛けられてそこからのカウンターで失点。追いつこうと出ていくところに、またカウンターという図式だ。それが、今季からミドルシュートの意識が高まってきた。

突破を図る長谷川唯。この日は貴重な先制点を挙げた
突破を図る長谷川唯。この日は貴重な先制点を挙げた。

「シュートの技術もそうですが、その意識が高くなっています。今までは、安全にゴール近くまで持っていこうとしていましたが、今は多少、遠目からでも入ろうと入るまいとシュートを打つっていう姿勢、意識が高まってきたんじゃないかなと思います。これまでならパスという場面でもシュートを打ったりしています」(阪口)

この積極性が、結果的に守備のリスクも減らした。攻撃がシュートで終わるので、それが枠を外れても、ゴールキックからプレーは再開する。ゆっくりと自分のポジションに戻って、相手の攻撃を待ち受けることができる。入れば儲けもの。外れてもイーブン近い条件からの再スタートだ。この試合でも、代表GK・福元の守るゴールへ、風上を利したシュートが多かった。

「前半の前半は、後ろにボールを蹴られて、間延びしてしまった。それでも、前半の途中になれば向こうもバテるんじゃないかなと思っていた。実際、そうなってから、徐々にプレスバックが利くようになった」と日テレの森監督。岡山湯郷に攻撃の起点を作らせず、シュート、ゴールキック、シュートのリズムを繰り返しながら、前半半ばには、日テレが完全なハーフコートゲームに持ち込んだ。

そして36分、この日20歳の誕生日を迎えた籾木結花が、浮き球をペナルティエリア右奥へ落とす。ここへ走り込んだ田中美南のシュートは福元にブロックされたが、このこぼれ球を拾った長谷川唯が、DFを交わしながらゴール右隅へ叩き込んだ。さらに43分にも、3列目からアタッキングポジションにスルスルと上がった中里が、長谷川のパスを受けて2点目を決める。

日テレゴールショーのトリを務めたのは阪口夢穂
日テレゴールショーのトリを務めたのは阪口夢穂

こうなると、日テレの勢いは、ハーフタイムを挟んでも変わらない。後半は、田中美、中里が得点を加えて、「試合を重ねてコンビネーションも高まってきていますし、お客さんが見ていて楽しいサッカーをしたいと思っています」という阪口が、ゴールショーのトリを務めた。最終スコアは、日テレ5-0岡山湯郷。



■美しさに加わった、力強さ

この試合のシュート数は日テレが27本、岡山湯郷が3本。試合内容もそのとおりだった。敗れた岡山湯郷・宮間は「日テレとの試合では『さすがに今のはどうやっても止められないだろう』という失点があるのですが、今日のところは、そういう組織で崩された失点はなかった。局面ごとの個の問題なので修正ができる」と振り返った。これは、日テレが美しさにこだわり過ぎる悪癖を捨てて、力強さを身につけた証左ともとれるだろう。

昨季の準得点王、田中美南もこの日スコアを積んだ
昨季の準得点王、田中美南もこの日スコアを積んだ。

試合後にシュート数の集計を聞いた日テレの森監督は「もっと入ったね、5点で止まる試合じゃなかったね」と笑顔を見せた。前述したシュートの積極性は、数字にも出ており、ここ3試合は7本、17本、27本。毎週の練習終了後に「選手たちが率先してシュート練習を行っているし、そのあたりの意識は高い」(森監督)。その成果がシュート数の増加で、これがチームに勢いをもたらしている。

「『守るよりもうちは攻める、1点取られても2点取りに行く、2点取られても3点取りに行くというスタイルを貫こうよ』と言っています。思ったよりはできていると思います。好守の切り替えについては、今日と先週のゲームを見る限りは。まだ足りないのではないかなと思います」(森監督)

昨季の女王は連勝の勢いを駆って、首位を走るINAC神戸レオネッサとの首位決戦に臨む。

ハーフタイムの暗転。浦和、ホーム開幕戦を落とす。

取材・文/西森彰

■Bクラス転落の屈辱を晴らすために

連覇を目指した昨季の浦和レッズレディースは、不本意な成績に終わった。開幕2連敗で苦しくなったレギュラーシリーズでは、吉田靖監督も当たりくじを引こうとするかのように、日替わりで多くの選手にチャンスを与えた。だが、チーム状況を好転させるジョーカーがなかなか出てこない。結局、レギュラーシリーズ終盤は1部残留=上位リーグ進出を最優先する。ラスト5試合を2勝3分けで目標達成。その内訳は得点4、失点1だった。

守備重視で臨めば、上位チームにも点を与えない反面、自軍のゴールも遠い。エキサイティングシリーズでは、逆転優勝を目指して攻撃重視で臨んだ。すると得点もついてくるが、一方で失点を減らせない。猶本光は一番、印象に残った試合に、エキサイティングシリーズのジェフユナイテッド千葉レディース戦を挙げた。

「リーグ戦では結局、1得点しか取れなかったのですが、その試合。チームとしては4点取れたんですが、守備では4失点してしまった。そのゲームが印象に残っています」

2点のリードを奪いながら、後半、11分間で立て続けの4失点。残り10分を切ってから、猶本の得点などで追いつき、ドロー。このゲームを含めてエキサイティングシリーズは5試合で、得点8に対して失点は13。最後まで攻守のジレンマが解消することなく、浦和の2015シーズンは終わった。

突破を図る猶本光。前半のプレーは躍動感一杯だった
突破を図る猶本光。前半のプレーは躍動感一杯だった。

巻き返しを図る2016シーズン。昨季のリーグ女王、日テレ・ベレーザと引き分けた浦和は、第2節、駒場スタジアムにアルビレックス新潟レディースを迎えた。昨季のリーグ戦で3戦して3敗のアルビレックス新潟レディース。今季の開幕前にも練習試合で3回当たり、その時は浦和が優勢を保っていたという。

新潟Lの地政学的不利は、以前から囁かれている。雪でピッチ練習の時期が相対的に遅くなり、結果、開幕時点で仕上がりの差から苦戦を強いられる。昨年限りで退任した能仲太司前監督もこの点を認めていた。今季から指揮をとる辛島啓珠監督は「新潟も最近は雪が少なくなったから関係ない」と気にしていなかった。

それでも、レギュラーの半数近くを入れ替え、前任者とは起用法が変わった選手もいる。一般的に体制変更後のチームは、序盤はもたつき、時間の経過と共に、成績が上がっていく。浦和からすれば、どんな角度から見ても、この時期に新潟Lと対戦できるのは恵まれていたはずだった。



■前半の優勢を活かせなかった浦和。ハーフタイムで潮目が変わる。

実際、前半は浦和がペースを掴んだ。巧みな体の使い方で相手のプレスを交わし、猶本が中盤で躍動する。今季から相方を務める栗島朱里と共に、SHの柴田華絵、筏井りさを使いながら、後藤三知、吉良知夏の2トップにもスルーパスを通す。チーム全体でうまく相手を押し込み、SBの乗松瑠華、北川ひかるも攻撃に加わり、サイドからクロスを入れていった。

「自分たちがボールを握って動かせている場面が多かった。逆サイドに展開したり、広いスペースを使うようにしたり、みんなが意識してポジションをとれれば、さらに良いサッカーができるようになると思う」と猶本。どちらにも得点チャンスがあったが、浦和のほうがやりたいことができている印象が強かった。「チャンスはあったのですが、私たちがそれを得点に結びつけることができなかった」とキャプテンの後藤三知。これが、致命傷になった。

キャプテン後藤三知も好機を逸した部分を悔やむ
キャプテン後藤三知も好機を逸した部分を悔やむ。

ハーフタイムを挟んで、浦和ペースで進んでいた試合は、一気に雲行きが怪しくなる。ひとつのきっかけになったのが、新潟Lの選手起用だった。辛島監督は「前半はやや高橋悠が元気なかったので、それならボランチの山田頌子を本来のポジションで使おうと」(辛島監督)右SHの山田と中央の高橋を入れ替えた。これが当たる。

「やや距離を開けてしまってSBの攻め上がりを許してしまったところもありました」という山田の後を受けた高橋が、浦和SBの攻撃参加を厳しく咎め始めた。山田も「相手の2トップにボールが収まって、そこを起点に攻められていた。後半は相手FWへのプレスバックを意識しました」。セカンドボールを奪う回数が増えるとともに、徐々に新潟の守備が落ち着き始める。

逆に、浦和はビルドアップができなくなっていった。新潟Lの大石沙耶香と久保田麻友の2トップが執拗にボールホルダーを追い回し、攻撃時には最終ラインの裏を狙い始めたからだ。「開幕戦で守備がうまく行ったのは、日テレがつなぎに徹した分、自信を持って寄せていけたから。新潟Lは、こちらが寄せていくとタテに蹴ってくる。裏を取られるのが怖いから、なかなか思い切って前に出ていけない」(吉田監督)。迫力に気圧されて、ズルズルとラインが下がり始める。

攻撃戦術の見直しも裏目に出た。ゴリゴリとした力攻めから、当初のゲームプランに沿って、サイドチェンジを多用すべく、筏井と柴田の両SHが左右に大きく開いた。そのため、ダブルボランチとの距離が開きすぎ、中盤の攻防で劣勢に陥り始める。「前半は中のポジションをとってくれていたのですが、ワイドなポジションを取りに行って、中に戻ってくるのが遅くなってしまいました。(相手の戦術変更よりも)自分たちが変えてうまくいかなかった」と猶本。



■新潟Lの波状攻撃に、2失点で万事休す。

寄せては返す波のような新潟Lの攻撃に、浦和の最終ラインが苦しみ出す。時間の経過と共に、自軍ペナルティエリア付近で「与えないように注意していた」(吉田監督)ファールを重ねるようになった。新潟のキッカーは正確な左足を持つ、上尾野辺めぐみ。何本か蹴るチャンスを与えれば、確実に決定機を作れる選手だ。64分、上尾野辺のキックからニアで長身の左山桃子が触ってこぼれたボールを、ファーに流れていった大石が押し込む。ペースを掴んだ新潟は、きっちりとゴールにつなげた。

先制点を決める大石。新潟は勢いに乗じて、ゴールを奪った
先制点を決める大石。新潟は勢いに乗じて、ゴールを奪った。

失点した浦和は、ボールを動かせる長野風花を投入し、反撃を試みるが、使われるべき周囲の選手は、守備に奔走させられ、運動量が落ちていた。「ゴール前を固めてきた時に、サイドチェンジをして攻撃をする時間帯を増やさなければいけなかった。ボールを失ってもサイドであれば、そこから守備ができる。相手コートでのプレーを続けていける」(後藤三知)。皮肉にも、この浦和が狙っていたプレーを、新潟Lが忠実に実行した。

中に絞った浦和と入れ替わるように、新潟のSHがタッチライン沿いへ出ていき、ここを拠点にする。攻撃面で良さを持っている浦和・北川の右サイドは徹底的に狙われた。新潟Lは右SBの小島美玖が前半とは逆に、高い位置まで攻めあがる。そして84分、大石のパスを受けた小島がドリブルから強烈なシュート。これが浦和DFのクリアミスを誘って決定的な2点目を奪った。

攻守に働いた小島美玖。記録上はOGだが、2点目は、ほぼ彼女のゴールだ
攻守に働いた小島美玖。記録上はOGだが、2点目は、ほぼ彼女のゴールだ。

浦和は終盤、セットプレーから連続してシュートを狙ったが、最後まで得点が遠かった。「あれだけ攻めていても、守備のところで2失点。1点も取れていない。まずはしっかりと失点をしないこと。最後はちょっと球際が弱くなっている部分があったので、そういうあたりを修正したい」と猶本は振り返る。



■完全復活は、時間との勝負になりそうだ。

浦和の塩越は、日テレ戦に続いて途中出場の機会を得た。U-20日本女子代表=ヤングなでしこ候補選手の一員だ。劣勢を挽回しようと、吉田監督は筏井に代えて「前節の日テレ戦で良い動きをしていた」ユース昇格組の塩越柚歩を左SHに入れる。「ユース時代の仲間がピッチの脇にいたので」笑顔でピッチに入っていく度胸の良さを見せた塩越だったが、自軍にペースを手繰り寄せるだけの働きはできなかった。

前節に続いて起用された塩越柚歩だが、劣勢を覆すには至らず
前節に続いて起用された塩越柚歩だが、劣勢を覆すには至らず。

初めて彼女のプレーを見たのが、ユース時代。一昨季の皇后杯・ASハリマアルビオン戦だった。いかにも浦和らしい、しっかりした技術で、一世代上の選手を翻弄した。いっぽうで上のカテゴリーで戦う選手に、経験の差を突かれた。球際の厳しさやルーズボールの処理など、細かい部分を締めてかかるAハリマの抵抗の前に決定機を幾度も作りながら、無得点でPK負け。サッカーで勝って勝負に負けた。

この日も女子の国内トップリーグで戦ってきた選手たちのしたたかさに苦しんだ。前節より早い時間帯での投入で、対戦相手のスタミナも十分。新潟のスピード溢れる寄せに戸惑った。「相手のペースに自分も含めて飲まれていた。ひとつひとつのプレー、例えば球際の強さも、ピッチの外で見ているのとは違うし、自分のいいプレーも全然出せなかった」と塩越。特徴を出す前にプレーを消された。

2016シーズンを迎えるにあたって、吉田監督がひとつのカギと見ていたのが、選手層の変化だ。リーグ戦全試合に出場していた岸川奈津希ら主力も含めて幾人かがチームを去り、ユースからの昇格組が増えた。レギュラーと同レベルの力がある選手たちの退団は、チーム内の競争力低下=チーム力の低下にもつながる恐れがある。実際、続く第3節のAC長野パルセイロレディース戦も落としてしまう。昨年末の皇后杯では格の違いを見せつけて圧勝した相手だ。

3戦終えて勝ち点1。チームが置かれた状況は生易しいものではない。それでも、吉田監督は躊躇うことなく、タイスコアやビハインドの場面でも、次世代の選手を投入し続けている。長野戦で追撃のゴールを挙げたのは、筑波大から特別指定選手として加入した山守杏奈。こうした若手が、なでしこリーグのレベルに慣れ、力を発揮するまでどれだけかかるか。浦和の復活は、時間との勝負にもなってきそうだ。

ホーム開幕戦に詰めかけた多くの浦和サポーターへ、勝利は届けられなかった
ホーム開幕戦に詰めかけた多くの浦和サポーターへ、勝利は届けられなかった。

今週日曜、2016年度チャレンジリーグが開幕。

取材・文/西森彰


■チャレンジリーグは3カ月半の短期決戦

 一足先に開幕したなでしこリーグから遅れること2週間、今週末からチャレンジリーグが始まる。まず、東日本のEAST、西日本のWESTに6チームずつ分かれての3回戦総当たりのリーグ戦。今季は4月10日に始まり、7月24日に終わる3カ月半の短期決戦だ。

 リーグ戦終了後、EAST、WESTの各上位2チームずつ、合計4チームが1回戦総当たりの順位決定プレーオフに進み、昇格を争う(中位2チームずつは5~8位決定戦に、下位2チームずつは降格がかかる9~12位決定戦にそれぞれ進む)。なでしこリーグガイドライン認定チームの中でプレーオフ成績最上位チームが2部に昇格。次位のチームは入れ替え戦に進む。

連覇に挑む、常盤木学園の阿部由晴監督。なでしこジャパンに選手を送り出している名将だ
連覇に挑む、常盤木学園の阿部由晴監督。なでしこジャパンに多くの選手を送り出している名将だ。

■サッカーのレベル、運営力は、ともに右肩上がり

 なでしこリーグ2部の新設で、事実上3部リーグ格に位置付けられ、地盤沈下が噂されたチャレンジリーグだったが、昨季を見る限り、杞憂に終わった。セレッソ大阪堺レディースらとのプレーオフを制し、優勝した常盤木学園の成績からもわかる。チャレンジリーグEASTでは15試合で9勝4敗2分けの勝率6割で2位。プレーオフでも2勝1分けと全勝はならなかった。

 3年前の2013シーズンも常盤木はチャレンジリーグを制しているが、この時の2位チームは昇格後、すぐに1部で8位になったASエルフェン狭山FC(現・ちふれASエルフェン埼玉)。これら骨っぽいチームを相手に22試合で20勝2敗、勝率は9割を超えていた。常盤木は高校生のチームだから、年によってレベル差があることを考慮しても、リーグ全体の地力強化は明白。2004年の「第1次なでしこブーム」から10年を経て、女子サッカーのレベル、選手の技術が上がってきた。

試合後、観客をチーム全員で感謝の見送り。チャレンジリーグでもこうしたチームが増えてきた
試合後、観客をチーム全員で感謝の見送り。なでしこリーグに限らず、チャレンジリーグでもこうしたチームが増えてきた。

 また、チャレンジリーグの各クラブは、試合の運営面でも力をつけてきている。昨季、昇格したC大阪堺らJクラブの下部組織、提携クラブだけでなく、そのほかのチームも(契約金額の多寡はあれ)ユニフォームの胸には、スポンサーロゴが入ってきた。常盤木のような学校組織まで「萩の月」のような胸スポンサーを獲得している(高校体育連盟の大会にはロゴなしユニフォームで参加)。

 静岡産業大学磐田ボニータは、ゆめりあでのナイトマッチ開催時に、磐田駅から直通のシャトルバスを走らせた。車で来れない遠方からのファンや、未成年者にとってはありがたい処置だ。バニーズ京都SCも7月12日のNGU名古屋FCレディース戦で、スポンサーからの協賛金、提供品を資本とした、魅力的な賞品が当たる抽選会を実施。チャレンジリーグとしては異例の来場者1,216人を記録した。

 女子サッカーが文化として定着するには、トップリーグの盛り上がりだけでなく、下位リーグのプレー環境が担保されていることも必要不可欠。そうしたことを考えると、日本の女子サッカーは最高の環境とは口が裂けても言えないが、サッカー少女がプレーを続けるのを躊躇ってしまうほど悪くもなくなってきている。


■大人のチームを相手に連覇目指す、常盤木学園

 昨季のチャンピオン・常盤木は、なでしこリーグガイドラインを満たしていないため、今季もチャレンジリーグで戦う。近年、高体連のタイトルに手が届いていないが、大人のチームを相手に45分ハーフで勝つ底力はさすが。阿部由晴監督の指導の下、なでしこジャパンを輩出してきた底力は健在だ。得点王、MVPの個人タイトル二冠に輝いた小林里歌子(⇒日テレ・ベレーザ)や、リトルなでしこ=U-19日本女子代表でも同僚の市瀬菜々(⇒ベガルタ仙台レディース)らの活躍が光った。

 プレーオフ2位でなでしこリーグ2部に自動昇格した(常盤木はなでしこリーグの加盟資格を満たしていないため)C大阪Lにも西田明華や松原志歩など、U-17女子ワールドカップ優勝メンバーや、年代別代表、その候補生が多数所属している。なでしこジャパンの一員としてオリンピックや女子ワールドカップを戦った選手が所属するクラブもある。

 大和シルフィードの小野寺志保は、長く日テレ・ベレーザ、なでしこジャパンで活躍。引退後、GKコーチとして請われていった大和SにGKがおらず、再び現役することになった。横浜FCシーガルズ(現・ニッパツ横浜FCシーガルズ)を、なでしこリーグ2部に導いた山本絵美もアテネ五輪出場時の主力。「おかげさまで、まだ何とかやっていけてます(笑)」とおどけてみせるが、正確無比なキックは健在。なでしこリーグ・チャレンジリーグ入れ替え戦では、チームを昇格に導くFKを決めた(記録上はオウンゴール)。

山本絵美のこのFKでチャレンジリーグEAST首位の横浜FC(現・ニッパツ)は入替戦に勝利。今季は、なでしこ2部で戦う
山本絵美のこのFKでチャレンジリーグEAST首位の横浜FC(現・ニッパツ)は入替戦に勝利。今季は、なでしこ2部で戦う。

 世界を相手に戦ってきた選手が、各チームに揃えば、当然、試合も白熱してくる。

 チャレンジリーグのEAST、プレーオフに次いで、皇后杯で5度目の公式戦を迎えた横浜FC(現略称・ニッパツ)と常盤木のゲームもそのひとつだ。横浜FCは、山本が豊富な経験を活かして若い選手をけん引。前線へ早めにボールを入れてくる常盤木の攻撃を、強固な守備ブロックを作って受け止め、そこからカウンターを繰り出した。そしてタイトな守備から攻撃という、中村宏紀監督の立てたゲームプランどおり、先制に成功する。

 エースの小林(里)を負傷で欠く常盤木は、市瀬が「チーム全体でタテに急ぎ過ぎている」ことを試合途中に自覚。一本の横パスで相手ブロックを揺さぶり、ペースを自軍に手繰り寄せたが、間に合わなかった。「前半のうちに気付かなければいけませんでした」と、遅すぎた反攻を悔やんだ。相手のストロングポイントを潰し、策で上回ろうとする両チームの戦いは、実に見ごたえがあった。

 そして、こうしたゲームを披露したのは、常盤木、横浜FCのような優勝争いをするチームに限ったことではなかった。


■指揮官の采配、各チームのスタイルにも要注目

 例えば、チャレンジリーグWESTでプレーオフ進出を目指した、静産磐田とバニーズの3ゲームがそうだ。

 4月12日の初戦は、打ち合いを演じて3-3のドロー。6月20日の2戦目はアウェーのバニーズが0-3で勝利した。スタッツを見るとシュート数が静産磐田の19に対してバニーズが7。決定機を比べても静産磐田のほうが多かった。それでもバニーズが勝てたのは、1点をリードした前半、守備を固めるだけでなく、しっかりとボールを動かし、相手に足を使わせた。後半、静産磐田のシュートがバー、ポストを2度、3度と叩いたが、シュートの精度を少しずつ欠いたのは、彼女たちの足が疲労で潰されていたからだった。

 昨季から、京都精華高校を率いる越智健一郎監督が、バニーズのGMに就任。采配を託されたのが千本哲也監督だ。「結果がついてこない序盤戦は『女性がこれだけ厳しい顔でにらむんだ』と怯えるくらいの視線で睨まれた」と、ユーモアたっぷりに語る新指揮官は、一途にポゼッションスタイルを貫いた。松田望、澤田由佳らなでしこ1部の経験者を軸に「人間の走りっこで負けるから、ボールを走らせる」サッカーが浸透した結果だった。

 この敗戦を受けて「してやられた」と素直に兜を脱いだ静産磐田・村松大介監督が、8月8日の最終戦で、リベンジに燃える。このシーズン、バニーズは益城ルネサンス熊本フットボールクラブに1勝2敗と負け越した。徹底的にリトリートする戦術を採っていた八木邦靖監督(当時)のチームを脳裏に思い浮かべ、バニーズ対策を練る。そして「相手に合わせるやり方は、めったにしないんですけれど」(村松監督)戦い方を変えた。

 攻撃的な3バックから、3ラインでしっかりと守備を固める4-4-2へのフォーメーション転換。「メンバー表を見た時点で『ひょっとして4バック?』と」(千本監督)意表を突かれたバニーズは、静産磐田の防御壁を乗り越えることができない。そして雷中断明けの後半、前に力をかけるバニーズに、静産磐田が鮮やかなカウンターパンチを合わせた。借りを返す0-2。前回、ホームで泣いた静産磐田イレブンと村松監督が、今度はアウェーで笑った。

昨季、3回死闘を繰り広げた静産磐田とバニーズ。2016年度の開幕戦はどんな戦いになるか
昨季、3回死闘を繰り広げた静産磐田とバニーズ。2016年度の開幕戦はどんな戦いになるか?

 今週の日曜日、EAST、WESTの開幕戦を迎えるチャレンジリーグ。昨季のチャンピオン・常盤木は、今季もチャレンジリーグEASTに参戦。つくばFCレディースを宮城県サッカー場Aグラウンドで迎え撃つ。プレーオフで敗退した静産磐田も、チャレンジリーグWESTで引き続きプレー。開幕戦はJリーグも行われる小笠山総合運動公園エコパスタジアムでのホーム開催。その対戦相手は、なでしこ1部の浦和レッズレディースなどから選手を大量補強したバニーズだ。

 今週、日曜日の開幕戦は、なでしこリーグのゲームと(おそらく意図的に)開催地域の競合が避けられている。日進月歩で進化するチャレンジリーグの戦いにも、ぜひ足を運んでいただきたい。

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