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さあ、ベスト8。待ち受ける敵はアジアのライバル、オーストラリア。

文/西森彰

 なでしこジャパンは、オランダの抵抗も退けてベスト16を突破。アディショナルタイムに海堀あゆみのエラーはあったものの、まずは危なげない戦いで、ベスト8へ歩を進めた。日本時間の明朝5時、4強進出を賭けて戦う相手は、ブラジルを破ったオーストラリアである。



 オーストラリアは、昨夏、ベトナムで行われたAFC女子アジアカップで2度対戦。グループリーグ初戦では、ビハインドを背負った日本が、大儀見優季の投入で流れを変えてドロー。再戦となった決勝では1-0で勝っている。

 チームのシステムは4-3-3。オーストラリアの3トップも高さと速さがあり、決定力がある分、ベスト16で当たったオランダ以上に厄介だ。CFにヘイマン(またはサイモン)が入り、その両脇をケールとデ・バンナが固める。特にデ・バンナは、卓越したスピードとテクニックを兼ね備えたアタッカーで、スイスのFWバッハマン同様、日本の守備陣を手こずらせるだろう。

 ただし、ボールの出どころはそれほど多くない。左右にボールを散らし、正確にゲームメークできるのは、日本でもプレーしたケロンド・ナイトくらい。アジアカップ対戦時には佐々木則夫監督が、これを見抜き、宮間あやを1.5列目に置くことで最終ラインからケロンド・ナイトへのパスコースを寸断。ロングボール一辺倒の単調な攻撃にシフトしたオーストラリアから優勝カップを奪い取った。

 いつもなら、世界大会での再戦に備えて相手のウィークポイントを見過ごしておく佐々木監督が、アジアカップ初優勝を目の前にして、「ここがあなたたちの弱点ですよ」とオーストラリアのスタイッチ監督に教えた。それが不安と言えば不安。それでも、アジアカップ当時、AFCの不手際でほとんど招集が叶わなかった海外組が、今回は全て顔を揃えている。また前回とは別のアプローチを試みても、崩せるだろう。



 日本の予想フォーメーションは4-2-3-1。2トップで大儀見のパートナー、恐らくは好調な大野忍が、ケロンド・ナイトへプレッシャーをかけ続けるだろう。SHは宮間と、スタミナ、スピードに長けた川澄奈穂美。阪口夢穂の負担を軽くするためにも、澤穂希あるいは川村優理ら、オーストラリアと対戦経験があり、かつ守備力に長けた選手をボランチに置きたい。CBは岩清水梓と熊谷紗希で固定し、SBは実際にオーストラリアを抑えた有吉佐織、宇津木瑠美のふたりか。

 最大のカギになるのはGK。海堀に名誉挽回のチャンスを与えるか。それとも、裏への飛び出しに備えてアジアカップで勝っている福元美穂か。それとも高さを買って、ケガ明けとは言え、山根恵里奈か。三者三様、それぞれに特徴がある。それぞれのGKの特徴に合わせてプレーできるDFが揃っているのは、長く同じメンバーでやってきた日本の強みだ。

 日程面で中3日対中5日というのは確かに不利だが、経験値がモノを言い始めるベスト8で、メダル獲得経験のあるブラジルを相手にするよりは、はるかにマシ。大きなくくりではチームカラーが似ている対戦国との連戦は、まったく別の準備作業をする必要がなく、戦術面での確認をショートカットできる。簡単なゲームではないが、日本チーム全員が自分の仕事を全うすれば、結果はおのずとついてくるだろう。

なでしこジャパン、いよいよノックアウトラウンドへ。

文/西森彰

 女子ワールドカップを戦うなでしこジャパンは、グループリーグ最終戦も1点差勝ち。2試合連続で大敗を喫していたエクアドルが相手ということもあり、ゴールラッシュを期待されたが、大儀見優季の1ゴールにとどまった。得点力不足というネガティブな面がクローズアップされがちだが、ポジティブに見れば3試合続けて緊張感のある局面で(安藤梢の負傷離脱というアクシデントこそあったが)、全選手を起用できた。これはノックアウトラウンドに入ってからのスケジュールを考えると、大きなアドバンテージになる。

 今大会の変則日程により、グループCの日本は中6日の間隔を空けて、ベスト16の戦いに挑むが、対戦相手のオランダはグループリーグ最終戦から中7日。ベスト8でも中3日対中5日の不利を背負う。試合間隔が常に中3日(準決勝に負けると3位決定戦までは中2日)。ほとんどのゲームで対戦相手より疲労回復の時間が短い。また人工芝会場では予期せぬアクシデントも多く、セオリーに反するGKの使い分けも含めて、決して理由がないわけではない。



 さて、ベスト16で顔を合わせるオランダは、ヨーロッパ予選をグループ2位同士のプレーオフに勝ち残って、ワイルドカードを手にした。グループリーグで同居していたスイス、カメルーン、エクアドル同様、女子ワールドカップ初出場国。ただ、情報の少なさ、そして大会を戦いながら成長していることを考えれば、決して侮れない。

 基本的に7枚で守って前の3枚で攻めるスタイル。長いボールを、11番のマルテンス、そして7番のメリスという左右のウイングに預ける。スピードに乗ってDFラインの裏を突いてのシュート、あるいはCFのミーデマへのクロスが怖い。中盤以下の選手は、正確さにやや欠けるものの、パスの飛距離だけは十分。自陣から前線まで一発で蹴れるキック力が、3トップの良さを引き出している。

 日本は、佐々木則夫監督の選手起用に注目が集まる。MFから前はボールをつなげる選手で構成し、相手を振り回したい。ボランチに宮間あやと阪口夢穂、右に川澄奈穂美、左に鮫島彩。FWは大儀見優季のパートナーに誰を持ってくるか。オランダの最終ラインは、混戦での反射神経が今一つ。こうした場面での得点が得意な、菅澤優衣香、大野忍、そして岩渕真奈の誰を、どの時間帯で使うかもカギを握りそうだ。

 DF面では、相手の高さを計算に入れれば、GKは山根恵里奈の起用が順当。そしてカウンターへの対応力に秀でた岩清水梓、熊谷紗希まで、ゴール前のトライアングルは間違いない。問題は、佐々木監督が、オランダの両ウイングへの対応を誰に任せるのか。近賀ゆかり、宇津木瑠美ではないかと予想するが、ここも注目のポジションだ。



 単純な力の比較では日本優位は動かない。それでも優勝候補の一角・ブラジルがオーストラリアに敗れたように、一発勝負のノックアウトラウンドは、油断大敵だ。急がば回れ。楽に試合を決めようとせず、確実に勝ち点3を優先する今大会の戦いを続けることが、ベスト8への近道になるはずだ。

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INSIDE EYE:子どもと共に、地域とともに/水谷雄一
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ライジング福岡:迷走の行方
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連勝を飾ったなでしこジャパン。“次の次の対戦相手”はまだ見えず。


後半、ドリブルで攻める大儀見

文/西森彰 写真/金子悟


なでしこジャパンのワールドカップ第2戦は、これまで世界大会で勝ち点、得点ともに挙げられていなかったカメルーンが相手。今大会の初戦でエクアドルとのワールドカップ初出場対決を制し、勢いがある。

 攻撃を最優先するカメルーンは4-3-3のシステム。キックオフから殴り合いを挑んできたが、なでしこジャパンは、オープンな打ち合いを受けて立つ。スピードで上回る相手のロングボールにも、必要以上の人数をかけず、最終ラインだけで対処。このあたりは、直前の国内合宿で繰り返していた、男子高校生相手に数的不利を想定した守備練習の賜物だろう。

 そして攻撃では、前回のゲームでベンチスタートに甘んじていた選手が活躍した。右SHで先発した川澄奈穂美のクロスを、やはり左SHで先発していた鮫島彩がきっちりと流し込んで先制した。ゴールの奪い合いを想定して起用されたであろう、ふたりの攻撃的SHが、佐々木則夫監督の先発起用に応えた。

この場面では大儀見優季の動きも目に付いた。ニアサイドでDFふたりを引きつけながら、GKを含めた迎撃態勢を確認すると、ファーの鮫島に仕事を任せた。4年前は自分の存在を認めさせようとするあまり、自分自身のゴールにこだわり過ぎていたが、今や誰が見ても、なでしこジャパンのエース。そんな周囲の信頼を感じているからこそ、すぐに鮫島を祝福に行けた。この気持ちの余裕が心強い。

「常に『自分が決めなければ試合に勝てない』という覚悟は持ってやってきたつもりで、そこにこだわってきたつもりです。ただ、振り返れば4年前は、多少、肩に力が入っていた部分もありました。今大会には平常心で臨めると思います」(大儀見)

 日本はさらに、17分にも第1戦ベンチスタート組が追加点を奪う。宮間あやがショートコーナーを挟んでファーに上げたボールを、かぶったGK越しに菅澤優衣香がヘディングシュートを突き刺し、2点目。打ち合いの展開でリードを広げ、前半を終えた。



 後半、佐々木監督は、ボランチの宮間を左に出した。鮫島が一列後ろに後退し、宇津木瑠美がボランチと時計と反対回りの配置転換だ。そして、海堀あゆみの長所である足技を使って、最終ラインでボールをキープに出た。積極的に前へボールを運ぶのではなく、雌ライオンの鼻づらでボールを動かし、これに食いつこうとする3トップのスプリント能力を奪った。

 トップ下のヌゴベレックをハーフタイムに下げていたカメルーンは、62分にヌゴノマニ、72分にはオンゲヌが交代でピッチを退く。前半から何回も日本ゴールを脅かしていた17番のエンガナムイも、試合終盤には足を攣って痛がるシーンも見受けられた。シュートらしいシュートが一本もなく、酷い数字が並ぶ後半のなでしこジャパンだが、途中までは間違いなく勝利への最短距離を進んでいた。

 暗雲が垂れ込めてきたのは、64分、阪口夢穂が退いてからだ。代わりに入った澤穂希は、相手のボールを奪ったり、得点をあげたりすることに長じた選手。チーム全体でゲームをコントロールしようという場面で使う選手ではない。佐々木監督にすれば、カメルーンの足が止まったところでもう1点奪えば楽に試合を終えられると読んでの交代だったのだろうが、ライオンはまだ闘志を失っていなかった。

 交代で入ったカメルーンの新手、ズーガ、エジャンゲ、ヌシューの3選手は、途中出場選手の鑑とも言うべきパフォーマンスを見せた。一方、カメルーンと十数分の時差を置いて、ようやく日本の選手にも疲れが見え始めた。ボールを奪っても本来、中盤でボールを散らすべき宇津木が、エンガナムイの対応に追われた前半のツケを払わされて、受け手の位置まで顔を出せない。

セカンドボールがカメルーンに奪われ、日本ゴールが脅かされる。カメルーンが幾度もゴールに迫りながら、淡白なミドルシュートで終えることが多かったのは、これも疲労によるものだろう。ヌシューのシュートで1点を返され、アディショナルタイムにはボール一個分だけ左外にズレたエンガナムイのヘディングシュートもあった。薄氷を踏むような思いをしながら、それでもなでしこジャパンはグループリーグ突破を決めるために必要な勝ち点3をその手に入れた。



 この原稿を書いている時点で、6グループ全てが2戦を終えている。16強進出を決めているのは、グループCの日本とグループEのブラジルのみ。グループBのドイツ、ノルウェーも2強2弱の構造で注文通りに引き分け、互いに勝ち抜きが決定的。混戦となっているグループA、D、Fも、既に勝ち点4を稼いで首位に立つ、カナダ、アメリカ、コロンビアが3位国の上位4カ国まで入れたラージグループには入ってくるだろう。

反対に、優勝候補で黄色信号が灯っているのは、やはり死のグループ。グループDのスウェーデンはアメリカ、ナイジェリアと引き分け、未だ勝ち点2。最終戦でオーストラリアに負けたら、ここで敗退決定。コロンビアに敗れたフランスはメキシコから、フランスに敗れたイングランドはコロンビアから、勝ち点を奪えなければ大会を後にする可能性が残る。

3位国の中で足切りの対象になりそうなのが、得失点差で大きくビハインドを背負うグループBのタイ。そしてブラジル以外のコスタリカ(勝ち点2)、スペイン、韓国(どちらも勝ち点1)がドロー地獄に嵌って、勝ち点を伸ばせていないグループEか。タイがドイツ、コスタリカがブラジルから勝ち点を奪い、スペイン、韓国の勝負が決着しない限りは、この形になる。前者の可能性は限りなくゼロに近いが、ブラジルが1位抜けを決めている後者は何かが起こる危険性はある。ベスト16からフランスやイングランドと戦いたいとは思わない。平穏無事な結果に収めてほしいが……。

 グループB、Eの3位が足切りされた場合、規定により、日本の対戦相手はグループAの3位になる。現在、グループAは開催国のカナダがプレッシャーから金縛りにあって勝ち点4。勝ち点3で並ぶオランダはカナダと最終戦を、中国は勝ち点1のニュージーランドと最終戦を戦う。カナダが3位まで落ちるとは考えにくいが、長丁場を考えてグループリーグでピークを作っていなければ、予断を許さない。



 事実上、1位抜けを決定的なものにしている日本にとって、組み合わせ面でできることはない。自分たちの都合で選手をうまくローテーションして大会で慣らし、決勝トーナメントを迎えるだけ。格下のエクアドルから流れの中で得点を奪い、自信をつけると共に、他国へのプレッシャーを積み上げたい。



日本
GK:海堀あゆみ
DF:近賀ゆかり、岩清水梓、熊谷紗希、宇津木瑠美
MF:川澄奈穂美(55分/大野忍)、阪口夢穂(64分/澤穂希)、宮間あや、鮫島彩
FW:菅澤優衣香(85分/上尾野辺めぐみ)、大儀見優季

カメルーン
GK:ヌゴヌドム
DF:チェノ、プージョウ、マニ、ルコ
MF:ヤンゴ、フェウジオ、ヌゴベレック(HT/ズーガ)
FW:エンガナムイ、ヌゴノマニ(62分/ヌシュー)、オンゲヌ(72分/エジャンゲ)

なでしこジャパン、女子ワールドカップ連覇へ白星発進。


試合終了後、相手選手と握手をかわすGK山根

文/西森彰 写真/金子悟

 なでしこジャパンが女子ワールドカップ連覇に向けて、初戦を飾った。グループリーグ最大のライバルへの勝利は、決勝まで西海岸に居座れる1位抜けに向けた大きな一歩。ノックアウトラウンド以降にも影響を与える、大きな勝ち点3だ。



 対戦相手のスイスは、ワールドカップ、オリンピックを通じて初出場の新興勢力。チームの平均年齢は25歳を下回る。2012年、U-20女子ワールドカップでは、U-20日本女子代表=ヤングなでしこに0-4と敗れている。この時、ヤングなでしこのコーチをしていたのが、現在、長野パルセイロレディースを指揮する本田美登里監督だ。当時は、対戦相手国のチームと選手のスカウティング作業をおこなっていた。

 アメリカでプレー歴のある宮間あやからも、この年代の選手の情報を集めていた。その時に「20歳以下かどうかわからないけれど」という前置きで名前が挙がったのが、スイスのラモナ・バッハマンだ。アトランタ・ビート所属時に、ルームシェアをしていたひとりで、「当時の監督からは、ふたりでワンセットのように考えられていました」(宮間)。

「向こうでは『次のマルタ』って呼ばれているらしいですよ」という本田コーチ(当時)の言葉に、こちらも慌ててプロフィールを調べた。何しろ、マルタと言えば、ブラジル女子代表のエースで、毎回、女子バロンドールの決勝に残ってくるプレーヤー。これが出られるかどうかで、状況は全く違う。調査の結果、既に年齢制限を超えており、U-20の大会には出場できないということがわかり、胸をなで下ろした。

 そのバッハマンが、3年経って、今度は逃げ場のないフル代表の対戦相手として出現した。プレーの特徴は「とにかくうまい。なでしこジャパンで言えば、ぶっちー(岩渕真奈)。自分で突破するだけでなく、周りも使える」(宮間)。映像で見たスウェーデン戦でも、ドイツ戦でも確かにその片鱗はあった。さて、どうやってバッハマンを止めるか。そこがスイス戦最大のポイントと言えた。



 他の選手からバッハマンへのパスコースを消す。ボールを持ったら、複数の選手でかかる。なでしこジャパンは、きっちりとバッハマン対策を練り上げていた。さらに前半12分、勝敗を決するプレーが出た。巧みに日本の最終ラインの裏をとったバッハマンがフリーでシュートチャンスを迎える。ここに飛び込んだのが、今大会もっともサイズの大きい選手のひとり、山根恵里奈(ジェフユナイテッド市原・千葉レディース)だった。「スーパーGKプロジェクト」という昭和の匂いを漂わせる日本サッカー協会の大型GK発掘プロジェクト出身。恵まれた体でバッハマンからシュートコースを奪い去る。

 これでバッハマンに、山根への苦手意識が刷り込まれたようだ。前半終了間際の44分、ドリブルからのシュートも枠を外す。後半に入った55分にも、日本のディフェンダーを3人立て続けに交わしながら、山根のところで引っかかる。78分に迎えたシュートチャンスも逸し、極めつけはアディショナルタイムの場面。日本DFのクリアが足下にこぼれる絶好機で、無人のゴールへのシュートを吹かしてしまった。山根を中心としてバッハマンを封じる一方、攻撃では少ないチャンスをモノにした。27分、安藤梢が負傷退場する代償を払いながら得たPKを、宮間がきっちりと沈める。

 結局、この虎の子の1点を守り切ったなでしこジャパンが、グループC事実上の決勝戦を勝ち切った。



 福元美穂、海堀あゆみの両先輩を身長で大きく上回りながら、山根は、なかなかレギュラーを確保できなかった。その理由のひとつが、飛び出しの少なさだ。所属するジェフLでは、それなりに裏のスペースもケアしているのだが、代表ではDFに任せきりになっていた。これには「ある程度までDFに任せる」という約束事もあったようなのだが、クロスへの対応を含めて消極的な印象が目立っていた。

 今季はジェフLの快進撃を支えることで自信をつけた。リーグ戦9試合でわずかに1敗。その最終戦の4失点にしても、守備を完全に崩されてのもので、明らかにGKの責任と言える失点はなかった。その自信を支えに丸亀合宿へ乗り込み、先発したニュージーランド戦でもミスはあったが「とにかくチャレンジしよう」という姿勢が、ディフェンスリーダーの岩清水梓らに「なら、こっちもやってやろう」と意気に感じさせた。

「昔は、自分のミスで失点するとすぐに泣いていた」(佐々木則夫監督)。取り返しのつかないことを気に病むあまり、その後のプレーで二次災害を引き起こしていた。代表に残り続けることで、そうしたメンタルも強化。このスイス戦でも、クロスを一度ファンブルしたが、これを引きずることなく、気持ちを切り替え、次のプレーにつなげた。

 今大会のなでしこジャパンは、丸亀合宿から4-1-4-1、5-4-1にトライしてきたが、その意識が浸透している。後半途中には疲れの見えた澤穂希から、川村優理へ交代。ボールに食いついていく澤よりも、相手の仕掛けを待てる川村のほうがブロックを作っての守備に向いている。同時にシステムはそのままに、籠城戦へ切り替え。山根の存在が相手に強引な放り込みを逡巡させ、ボール保持時間では劣ったが、ペナルティエリア内への侵入は数えるほどしか許さなかった。



 気が付けば、ニュージーランド戦からイタリア戦、そしてスイス戦と3試合連続の「ウノ、ゼロ(1-0)」。なでしこジャパンは、先行逃げ切りの形をしっかりと身につけた。グループリーグの残り2試合は、格下のカメルーン、エクアドルが相手。ここから先は、しっかりと攻撃力も披露してほしい。


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