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新潟L、奮戦及ばず。勝負強さを発揮し、I神戸、4連覇&4冠を達成

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西森彰=取材・文 金子悟=写真
日時/12月23日(月・祝)15:01キックオフ
会場/NACK5スタジアム大宮
結果/INAC神戸レオネッサ 2-2(前半0-1、後半1-0、延長前半1-0、延長後半0-1、PK4-3) アルビレックス新潟レディース
得点者/【新潟L】マッカーティー(42分、111分)、【I神戸】近賀(65分)、チ(93分)

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 大会4連覇と2013年度4冠制覇のかかるINAC神戸レオネッサ。そして2年ぶりにタイトルへ手をかけたアルビレックス新潟レディース。この2チームが、第35回皇后杯全日本女子サッカー選手権優勝を目指す。

 12月21日(土)の準決勝から中1日で迎える決勝戦。一見すると選手層の差で、I神戸が有利なシチュエーションにも見える。だが、I神戸はmobcast cup 国際女子サッカークラブ選手権 2013で2試合を戦っている。12月4日のモブキャスト準決勝から、この試合まで20日間で6試合を戦う強行軍なのだ。しかも、ひとつ落とせばそこで終わりになるノックアウト方式のゲームばかりだ。肉体、精神の両面で疲労は計り知れない。

 これに対して新潟Lは、3回戦から準決勝までは1週間1試合の理想的なスケジュール。準決勝の試合内容を比べても、3時間の試合開始時間の差を考えても、むしろ新潟Lに味方しているように思えた。それでも、I神戸の髙瀬愛実は、準決勝終了後、エクスキューズをきっぱりと否定した。

「正直、12月に入ってから明後日の決勝戦で6試合。自分たちが不利には見えますけれども、タイトなスケジュールをこなしてきたのは、自分たちのいい経験にもなっています。この中1日という状況も自分たちにとっては有利なんじゃないかなと思っています」

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 I神戸・川澄奈穂美、新潟L・上尾野辺めぐみと、幼い頃から互いを知っている両チームのキャプテンによるコイントス。その結果、新潟Lは、地元から駆けつけたサポーターを背に陣を構え、キックオフはI神戸に。

 準決勝同様、引いて戦うと思われた新潟は、まず普通に仕掛けていった。今シーズン、この試合を前に、I神戸と新潟Lは4回対戦していた。なでしこリーグでは4-0、6-1といずれもI神戸が大勝。リーグカップではグループAで2試合を戦い、どちらもスコアレスドロー。まったく異なる結果に終わっている。「前線からプレスをかけてI神戸のミスを誘えたゲームもありましたし、逆にボールを動かされて、振り回されて、失点を重ねたゲームもありました」とは新潟Lを率いる能仲太司監督の弁。

 それらを踏まえて指揮官は「今日は、まずチャンスがあれば前からプレッシャーをかけて、それが難しいと判断した時には、自分たちの距離感を保つ。それでもダメならば、ゴール前で体を張る」と令を発した。5分にティファニー・マッカーティーがチャンスを作り、9分にも上尾野辺めぐみのFKから山崎円美がヘディングシュートでⅠ神戸のゴールを脅かす。そして、相手がボールを動かし始めると、必要以上に食いつくことなく、守備ブロックを作った。

 新潟Lの左SB・高村ちさとは、決勝戦を前に「自分の守る左サイドには川澄選手が来たり、近賀選手が来たりすると思いますが、目の前の選手に負けないということをしっかりと意識して、それが勝ちにつながれば」と抱負を口にしていた。その言葉どおり「なでしこジャパンの中心選手」という看板にひるむことなく立ち向かった。球際では厳しく、少しでもつなげるチャンスがあれば、リスクを恐れず、つなぐ。準決勝の終盤とはまるで違う、勇気溢れるプレーをみせた。

 ティファニー・マッカーティーにも、こうしたチームメートの姿から感じるところがあったのかもしれない。42分、磯金みどりがボールの処理を誤ると、これを奪う。そのままペナルティエリアに入ると、甲斐潤子、海堀あゆみのブロックをすり抜けて、ゴールへ流し込む。新潟へ望外の1点が転がり込んだ。

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 1点をリードして迎えたハーフタイム、新潟Lのロッカールームは「まだ自分たちのサッカーをもっと出せるだろう」という話し合いになった。そして、後半、立ち上がりから決定機を作る。49分、相手DFを交わした山崎のシュート。54分、上尾野辺のカットからマッカーティーが迎えた決定機。さらに上尾野辺、マッカーティー、山崎とつないでポストを叩いたシュート。このどれかが決まっていれば、その先の展開も違ってきたはずだ。

「前半はI神戸のボールをなかなか奪うことができずに、チャンスを作り出すことができなかったのですが、キャプテンを中心に話し合って臨んだ後半は、気持ちを込めたダイナミックなプレー、攻撃ができた。そこに選手の成長を感じています」(能仲監督・新潟L)

 60分過ぎまでは完全に新潟Lペースだった。サッカーが難しいのは、チャンスが多くなったからといって勝てるものではないところだ。前半で得た自信を武器に、より積極的なプレーが出始めた新潟Lを見ながら、川澄は「前半は新潟の守備にやられていましたが、後半は相手の隙みたいなものが見えて『いけそうだな』と感じていました」。澤穂希も「前のほうに得点をとれる選手がいるから、心配はしていませんでした」。

 ふたりの言葉どおり、I神戸が一瞬の隙を突く。際どいジャッジでもらったFKをチ・ソヨンが壁の裏に落とす。そこに走り込んだのが近賀ゆかり。攻め続けられた15分あまりで追加点を許さず、たったワンチャンスで試合を振り出しに戻す。さらに、延長に入った93分、セットプレーからのこぼれ球をチが決めて勝ち越し。今シーズンすべてのタイトルを手にしてきたⅠ神戸の勝負強さが出た。

 新潟Lは74分、児玉桂子を下げて、大石沙弥香を投入。大石を前線に上げて、山崎を右SHに降ろしていた。能仲監督は、延長後半から平井咲奈を入れて、ゴールを奪いにいく。すると、111分、高村のクロスを平井が体に当ててつなぎ、最後はマッカーティー。再び同点とし、新潟からやって来たサポーターを熱狂させた。

 Ⅰ神戸の石原孝尚監督は、最後まで選手交代のカードを切らなかった。

「控えの選手もすごく優秀で、いつもだったら替えていました。ただ決勝独特の雰囲気の中で、理屈じゃない部分です。選手のコンディションを考えれば、リーグ戦や準決勝だったら替えていました。ただ、決勝で何が起こるかわからないということを考え、理屈ではなく、選手たちに『このメンバーでやるんだ』というメッセージを伝えました」(石原監督・Ⅰ神戸)

 ケガ明けの澤穂希は、皇后杯に向けて調整されてきたが、準決勝で久々のフル出場。中1日の先発出場でコンディションが心配されたものの、足の使いどころを見極めた省エネサッカーで対応。要所はきちんと押さえるベテランの仕事が光った。

「自分も準決勝まで1ヶ月以上90分フルにやっていなかったので、ちょっと心配だったのですが、準決勝の試合後、しっかり交代浴をするなどスタッフにケアしてもらった。それで今日の120分も戦うことができた。ケガ明けでしたが、それなりにプレーできて、最後までグラウンドに立てたというのは嬉しかったです」(澤・I神戸)

 結局、PK戦では、Ⅰ神戸が4-3と新潟Lを退けた。疲労と緊張の中で、セーブされたゴーベル・ヤネズを含め5人全員が枠内に蹴ったI神戸。経験値を買った石原監督の辛抱が結果につながったというべきか。

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 敗れた新潟Lは、現状の力を出し切った。リーグ戦終盤から皇后杯にかけて、攻守のバランスのとり方をマスターした。決して、主導権を握るサッカーを諦めたわけではなく、それができない時のやり方を身につけたのだと能仲監督は言う。

「今現在でも自分たちの時間を長くするようにしたいと思っていますし、攻撃においても、じっくりと攻めるところと、相手がボールを持っているところでも、チャンスがあれば前から、相手のゴールに近い位置で奪いたいというところはあるのですが、今シーズン、戦ってきた中で、他のチームもレベルアップしてきているので、やりたいことをやれる時間がそれほど多く作れなかっただけで、今年も、来年も、シフトチェンジは考えていません」

 サポーターの後押しを含めて、いくつかのポジティブな要素があったにせよ、I神戸をあと一歩のところまで追い詰めた。それは自信になるだろう。

「皇后杯でチームは成長したし、まだまだ伸びしろがあります。今日の段階でここまで戦えたというのは、今後、INACに勝利を収めることもできると思うし、INACを追い越すところまで可能性を秘めたチームだという印象です」(能仲監督)

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 そして、4冠を達成したI神戸。4連覇のスタートを切ったあの時と同じように、最後のキッカーは川澄。落ち着いてこれを決めて4冠を呼び込んだ。

「5人目のキッカーというのは最初にこの全日本女子サッカー選手権で浦和Lに勝って優勝した時も、女子ワールドカップの決勝もそうでした。今日は回ってくるかなと思っていましたが、全然緊張はありませんでした。シーズンが始まる前から『4冠』を目標にしてきましたが、実際、こうして達成してみると『こんなに嬉しいものなんだな』という気持ちです」(川澄)

 ゴーベル・ヤネズ、ベッキーがアメリカに復帰。アメリカ移籍が囁かれる川澄を含め、オファーを受けている選手は少なくない。来年は、チーム編成が大きく変わる可能性がある。追う者と追われる者の差は、確実に狭まってきている。今シーズンは、最後の場面で経験値の差がモノを言った。だが、それが次の成功を約束してくれるわけではない。

「このメンバーでやれるのも最後。嬉し涙が流せてよかったと思います。試合に出ている選手と、出ていない選手で習得している部分も違うし、もっと若い選手が出てきて、レギュラー争いをしたほうがチームとしても強くなると思います。レギュラーでもやれる実力を持っているのに、たまにシュンとなったりしている。そうしたメンタルの強さも鍛えれば、もっとチームは強くなれるし、切磋琢磨していきたいです」(澤)

【INAC神戸レオネッサ>】
 GK:海堀あゆみ
 DF:近賀ゆかり、甲斐潤子、磯金みどり、渡辺彩香
 MF:澤穂希、中島依美、チ・ソヨン
 FW:川澄 奈穂美、ゴーベル・ヤネズ、髙瀬愛実

【アルビレックス新潟レディース】
 GK:一谷朋子
 DF:小原由梨愛、北原佳奈、中村楓、高村ちさと
 MF:児玉桂子(74分/大石沙弥香)、斎藤友里、上尾野辺めぐみ、佐伯彩(延長後半開始/平井咲奈)
 FW:山崎円美、ティファニー・マッカーティー


INAC実力の証明。伊賀は狙い通りの戦いもあと一歩届かず

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中倉一志=取材・文 金子悟・西森彰=写真
日時/2013年12月21日(土)14:04キックオフ
会場/NACK5スタジアム大宮
結果/INAC神戸レオネッサ 3-2(前半0-0 後半3-2) 伊賀FCくノ一
得点者/【伊賀】中出ひかり(58分)、【INAC】髙瀬愛実(68分)、ゴーベル・ヤネズ(72分)、【伊賀】小林真規子(86分)、【INAC】チ・ソヨン(88分)

狙い通りに進めていた。女王INAC対策もピタリとはまった。先制点も奪った。だからこそ、敗戦の悔しさが滲む。 「結果にこだわってきたシーズン。特に皇后杯はタイトルを取りたかったので残念」(浅野監督・伊賀くノ一FC)

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勝機は十分にあった。流れを引き寄せたのは守備の仕方に変更を加えたことだった。
「リーグ戦では前からプレッシャーに行って、相手につながせない戦い方をしたが、今日は全体でブロックを作り、入ってきたボールに対してプレッシャーにいくという守備で臨んだ。相手の技術の高さと、ゴール前のアイデアが怖かったが、粘り強く戦ってくれたと思う」(浅野監督)
もちろん、INACの素早いパス回しに崩されかけることもあったが、それでも慌てず、騒がず、持ち味であるハードワークに徹してINACにチャンスを与えない。前半に許したシュートは田中陽子の1本だけ。攻撃サッカーを代名詞にするINACを完全に封じ込めていた。

そして、「守」から「攻」へ鋭く切り替えてゴールチャンスを窺う。前線で攻撃の起点を作るのは中出ひかり。確実にボールを納めて、2列目からスペースへ飛び出してくる小林真規子、堤早希らにボールを捌いたかと思えば、スピードを生かしてINACの最終ラインへ勝負を挑んだ。

その流れは、後半に入ってINACが前への意識を高くしても変わらない。むしろ、伊賀もボールを右サイドに集めて前への姿勢を強くする。そして58分、伊賀は思い通りの展開から先制点を奪う。右サイドで展開したボールが中央の松長(佳)へにボールが渡ると、松長(佳)は躊躇なくドリブルで前へ。そして、絶妙のタイミングで中出へラストパスが渡る。
「(松長)佳恵さんが、あそこまで走ってくれて良いパスをくれたので、後は決めるだけだった」(中出)。 次の瞬間、右足ダイレクトで合わせたボールがゴールネットに吸い込まれた。

実は、前半途中の接触プレーで痛んでいた中出は満足にプレーできる状態ではなかった。しかし、自らプレー続行を望み、そしてゴールを奪った。
「もっと早い時間に代えなければいけない状況で、多分、力が入らなかったはず。それなのに、彼女のメンタルの強さでゴールを決めてくれた。本当に、よくあの時間帯まで頑張ってくれた」(浅野監督) まさに気持ちで奪ったゴールだった。

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だが、それでもINACはINACだった。
「失点しても、まだ時間は30分くらいあったので全然焦っていなかった。しっかり自分たちのサッカーをすれば大丈夫と思っていた」(高瀬愛美)。
その絶対的な自信は、タイトルを獲得し続けることで身につけてきたもの。「伊賀がコンパクトにしてくるのは分かっていること。あれだけ狭くされると難しいが、ただ、そこを突破できるのはINACだけ」(石原孝尚監督・INAC)という強烈な自負心でプレーを続ける。そして、疲労からか、伊賀のプレッシャーが少しずつ緩んでくると、その隙を突いてリズムを刻み始めた。

同点ゴールは68分。チ・ソヨンの浮き球のパスを受けて裏に抜けだした高瀬が左足を一閃。ドン!という音が聞こえてきそうな強烈なシュートが、スタンドのどよめきとともにゴールネットに突き刺さる。その4分後、ゴーベル・ヤネズが続く。やや下がった位置からペナルティエリア内に走りこんでチ・ソヨンからのラストパスを受けると、その勢いのまま左足でゴールネットを揺らした。あっという間の逆転劇だった。

その後、試合をコントロールしながらも、終了間際にGK海堀あゆみの不用意なプレーから同点ゴールを浴びるという、らしからぬシーンも生まれたが、その2分後には、澤穂希、髙瀬、ゴーベル・ヤネズとつないで鮮やかな伊賀の守備網を崩すと、最後はチ・ソヨンが冷静に決めて勝負を決めた。相手を圧倒できたわけではない。それでも、最終的に勝利を掴み取るところは、さすがは女王。試合後に残った印象は、INAC強しというものだった。

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さて、敗れた伊賀にとって悔やまれるのは、中出を最後まで使えなかったこと。「前半に打撲した時からスピードが落ちてしまって、彼女本来のスピードとキレが全くなくなってしまった。そういう部分では逆に左右したかなとは思う。彼女は途中で交代させるような選手じゃない。アクシデントがあったのは残念」と浅野監督も振り返る。

しかし、敗れたとは言え、持ち味は十分に発揮した試合だった。リーグ戦で見せた高い位置からのブレスと、この日に見せたブロックを作って待ちうける守備。いずれも、選手たちのハードワークに支えられてのものだが、浅野監督を迎えて、守備の強みはさらに磨かれたと見ていい。引き続きの課題は「切り替えの部分で、攻撃になった時に、どうクウォリティをあげていくか」(浅野監督)ということ。その先に「タイトル」の4文字が待っている。

そして苦しみながらも順当に決勝戦まで駒を進めてきたINACは、IWCCと合わせて、12月は既5試合を消化。決勝戦はハードスケジュールとの戦いにもなる。しかし、高瀬は話す。「自分たちにとってスケジュール的に不利なようにも見えるが、タフなスケジュールをこなしてきたことが、いい経験になっている。むしろ、中1日というスケジュールは、自分たちにとってすごく有利になると思っている」
そして12月22日。INACは4冠をかけてアルビレックス新潟レディースと相まみえる。

【INAC神戸レオネッサ】
GK:海堀あゆみ
DF:近賀ゆかり、甲斐潤子、磯金みどり、中島依美
MF:澤穂希、チ・ソヨン、田中陽子(43分/ゴーベル・ヤネズ)、渡辺彩香
FW:川澄奈穂美、髙瀬愛実

【伊賀FCくノ一】
GK:久野吹雪
DF:小野鈴香、道倉宏子、宮迫たまみ、佐藤愛
MF:那須麻衣子、松長朋恵(81分/阪口 彩希絵)、堤早希、小林真規子
FW:松長佳恵(71分/櫨まどか)、中出ひかり(59分/乃一綾)


浸透したスタイルの使い分け。新潟L、2年ぶりの決勝進出

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西森彰=取材・文 金子悟・中倉一志=写真
日時/2013年12月21日(土)11:04キックオフ
会場/NACK5スタジアム大宮
結果/岡山湯郷Belle 0-1(前半0-0、後半0-1) アルビレックス新潟レディース
得点者/【新潟】上尾野辺めぐみ(61分)

夏のなでしこリーグカップで逃した、日本一に再び挑む岡山湯郷Belle。2年ぶりの決勝を目指すアルビレックス新潟レディース。第35回全日本女子サッカー選手権皇后杯の準決勝第1試合は、この2チームの対戦となった。

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これまで、湯郷ベルは新潟Lをお得意様にしてきた。前から果敢にボールを奪いにいく新潟Lのプレスを外し、湯郷ベルがカウンターを見舞う。前がかりになる新潟Lは、針の穴を通すような宮間あやのパスに、幾度も沈められてきた。

しかし、能仲太司監督就任後、新潟Lは変わった。時間帯や試合の状況によって、積極的にボールを奪いにいくだけでなく、リトリートする選択肢も生まれた。シーズン序盤こそ、長年染み付いたプレースタイルが出てしまっていたが、徐々に攻守のバランスが体感できるようになった。

なでしこリーグ終盤、降格争いに巻き込まれてからは、むしろ、まずゴール前を固めてゲームをスタートさせる姿勢が目に付いた。決して先手を奪われない。この皇后杯でもスペランツァFC大阪高槻、日テレ・ベレーザを相次いで零封。結果がついてくると、選手の自信も深まっていった。

この試合でも、湯郷ベルのロングボール攻撃を想定し、新潟Lはペナルティエリア付近に人数をかけて、強固な守備ブロックを作ってきた。

「湯郷ベルは、力強さと粘り強さがあるチーム。難しい戦いになるとは思っていました。守備では前から行くところと、コンパクトに守るところを使い分けようとミーティングで伝えました」(能仲監督・新潟L)

「新潟Lの監督は能仲さんだから、相手の一番嫌なことをやってくるのはわかっていたけれど」という宮間をはじめ、湯郷ベルはやや面食らった。新潟L陣内でゲームが運ばれたが、ペナルティエリア付近に林立する新潟LのDFがパスやシュートのコースを狭める。横山久美らのシュートがポストを叩くなど、いくつかの得点チャンスは訪れたが、スコアは動かなかった。

「相手の新潟Lは前からのボールに強いというイメージがありました。そこで、最初は裏に蹴って相手の最終ラインを下げて、そこからFWの足下にグラウンダーをつけるという狙いでした。それでも相手のディフェンスに引っかかってしまうところが多かった。裏のところでキープができれば、もう少しは違ったと思います。もうちょっとスペースで受けるように外へ逃げてプレーできれば良かったかも知れません」(有町紗央里・湯郷ベル)

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コンパクトなディフェンスで、相手にスペースを与えず、自軍選手のスタミナを残す。表面上は劣勢でも、新潟Lとしては悪くない試合展開だった。この日も出色のデキだったのが、上尾野辺めぐみだ。これまでの攻撃的ポジションから、ボランチへ異動したが、高いレベルでパフォーマンスはキープされている。

「正直、前に行きたい気持ちはあるのですが(笑)」(上尾野辺)、まずは引き気味のポジショニングで、最終ラインの守備を助ける。そして、ゲームの流れを読みながら、好機を捉えるとそこに顔を出す。28分、佐伯彩のドリブルからパスを受けてのシュート。35分、ティファニー・マッカーティーへ合わせた右CK。前半、新潟Lのチャンスはどちらも上尾野辺が絡んだ形だった。

そして、61分、3度目のチャンスで新潟Lの決勝点が生まれる。左サイドで相手のクリアボールを拾った上尾野辺がシュート。利き足の左で打ったシュートは、コースを消しに来たDFに当たり、上尾野辺の右足にこぼれてきた。「相手のゴールが見えたので」と、普段はほとんど使わない右足で掬う。敵味方の選手がブラインドになったこと、そして意表を突く右足でのループシュートは、福元美穂が懸命に伸ばす手の先に落ちた。

リードを奪った新潟Lは、完全に逃げ切り態勢に入る。前半、残していた推進力を発揮し、ゴールへの道を切り開こうとする湯郷ベルに、決して自由を与えない。「前半も後半もボールは支配していたが、最後まで新潟Lの堅守を崩せなかった。相手にあった2チャンスのひとつを決められてしまい、追いかける展開の中でプレーの精度を欠いてしまった」と湯郷ベルの種田佳織監督。3枚の交代選手を有効に使った能仲監督の采配も当たり、新潟Lは最後まで1-0のスコアを守り通した。

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リーグ3位、リーグカップ2位、そしてこの皇后杯ではベスト4。湯郷ベルは、今季もタイトルに手が届かなかった。

「前に急ぐのが遅かったのかなと思います。今までのように、ラインを高めに設定して攻めていたら、先に点がとれていたのかなと。新潟Lのように守備ブロックを低く構えるチームとは対戦してこなかったので、そこだけは準備不足だったのかなと思います」(宮間)

第2試合に出場するチームに比べれば数時間のアドバンテージがあるとは言え、湯郷ベルは、決して選手層の厚いチームではない。それを考えれば「先手をとられないことに気をつけながら、前半を静かに戦い、後半勝負」のプランは間違っていない。

「やりたいことを意識して、ひとつずつできるようになって結果もついてきた。ただ、相手も私たちがどうやって戦ってくるか研究するようになった。そういう今までとは違うやりにくさもある中で、もっと自分たちのできることを考える。そんな繰り返しの1年だったように思います」(有町)

今後は、挑戦を受ける立場で、どんなサッカーを見せられるか。前線にはタレントが揃っており、選手交代を含めて、戦い方のバリエーションを身につけられるかにかかっている。

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1-0で逃げ切った新潟Lは、2年ぶり2度目の決勝進出を果たした。クリア一辺倒になった終盤の戦いには課題が残ったが、戦略的には十分満足のいく結果と言えるだろう。こちらも湯郷ベル同様、選手層が厚いとは言えないチーム。深刻な負傷者や、カードでの出場停止者を出すことなく、2日後のファイナルに臨むことができたのは大きい。

「キャプテンに任命した時に『これまでの経験を出すことで周りを引っ張っていってほしい』と伝えました。今シーズンは苦しい戦いがリーグ戦から続いていたので、キャプテンとしてその責任を辛く感じたりする部分も多かったと思う。そういった意味でこの大会に賭ける気持ちが強いと思います」(能仲監督)

キャプテン・上尾野辺が、指揮官の信頼に応える活躍を見せた。リーグ2位の日テレ戦に続き、リーグ3位の湯郷ベルを相手に、値千金の決勝点を挙げ、その他のプレーでもチームに勇気を与えた。

「なでしこリーグでは日テレ・ベレーザや湯郷ベルに勝てなくて、それ以外にも苦しい試合が続いていた。ようやく最後のほうで、だいぶできるようになりましたが、やり切れていないと思っている選手が多かったので、それが皇后杯につながっています」(上尾野辺)

リーグ戦上位チームを連破し、決勝に進んだ新潟Lは、決勝でも、女王・INAC神戸レオネッサを相手に、素晴らしいゲームを見せることになる。

【岡山湯郷Belle】
 GK:福元美穂
 DF:加戸由佳、布志木香帆、宮﨑有香、津波古友美子
 MF:横山久美(82分/中川千尋)、高橋悠、宮間あや、中野真奈美
 FW:松岡実希、有町紗央里(89分/山口麻美)

【アルビレックス新潟レディース】
 GK:一谷朋子
 DF:小原由梨愛、北原佳奈、中村楓、高村ちさと
 MF:児玉桂子(90+2分/山本亜里奈)、斎藤友里、上尾野辺めぐみ、佐伯彩(84分/平井咲奈)
 FW:山崎円美、ティファニー・マッカーティー(78分/大石沙弥香)


ラストクイーンは誰に

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西森彰=取材・文 金子悟=写真
 第35回皇后杯全日本女子サッカー選手権も、いよいよ大詰めに入ってきた。準々決勝は12月15日(日)、仙台、三木での2試合ずつを終えた。現時点で、皇后杯を手にする資格が残っているのは、当然ながら4チームに絞られている。

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 ディフェンディングチャンピオンのINAC神戸レオネッサは、3回戦から参戦。この愛媛FCレディース戦が12月11日(水)に行われたため、今大会参加チームで、最も遅い初戦となった。これは、皇后杯序盤戦と並行して行われたモブキャストカップ国際女子サッカークラブ選手権2013に参戦していたためだ。同大会では、準決勝で南米代表のCSDコロコロを3-0で破ると、決勝では大儀見優季擁する欧州代表のチェルシー・レディースFCを3-2で破り、初優勝した。

 2年連続でなでしこリーグを独走したこともあり、対戦相手はこれまで以上に対策を施してきた。昨シーズン終了後、大野忍がリヨンに、今シーズン途中には田中明日菜がフランクフルトに移籍。近賀ゆかりも昨年末のケガで前半戦は棒に振った。そうした影響もあって、昨年までのようなワンサイドゲームの連発ができたわけではない。チーム関係者も「今年のウチはシュート数で下回ることも少なくない」(石原監督)「今年は、悔しい想いをした試合が多いシーズンだった」(川澄奈穂美)と吐露している。

 内容的には圧倒していた昨シーズンも、なでしこリーグカップとモブキャストは苦杯を舐めた。追う者のマークが厳しくなった今季、ここまで3つのタイトルをひとつとして落とすことなく手に入れた。それだけでも賞賛に値する。この皇后杯も愛媛FCに10-0の圧勝でスタート。浦和レッズレディースを破って意気上がるFC吉備国際大学Charmeとの準々決勝は、日程上の不利を感じさせることなく、7-0の連勝。今シーズン前に掲げていた4冠制覇に向けて、残るは2試合。これまで以上のプレッシャーと戦いながら、最後の頂を目指す。

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 そのⅠ神戸の前に準決勝で立ちはだかるのが、伊賀FCくノ一である。大嶽直人前監督から、浅野哲也監督へバトンがうまくつながり、今季はなでしこリーグで4位と名門復活ののろしが上がった。その宮迫を含めて、チーム全体で構築する堅固なディフェンスで、試合数(18試合)よりも少ない失点(17でリーグ3位)に抑え、躍進のカギとなった。いまだ得点力の部分に難を残しているとは言え、浅野監督が、女子サッカー界に足を踏み入れたのは今季が初めて。それを考慮すれば、上々の成績である。

 多少、鼻息を荒くしてもいいところだとわれわれ外野は思うのだが、指揮官は冷静そのものだ。今季の上位チームでは日テレ・ベレーザを除くチームはいずれも日中、または夕方が練習時間。生活環境の差が如実に表れる結果になっているが「そういう環境の改善が女子チームを強くする上では一番大事」(浅野監督)。指揮官自身の采配うんぬんを横において、チームをバックアップするスポンサー、サポーターなど周囲の支えが上位進出につながったと感謝し、さらなる支援に期待する。

 なでしこリーグ上位チームでは唯一、リーグ選定のベストイレブンが出なかったが、これにも「たまちゃん(宮迫たまみ)がもう少しだったらしいんだけど……。まあ、ウチみたいな地方のクラブはひっそりと頑張ればいいから」と一笑にふす。ただ与えられるものには淡白でも、自ら掴みとる結果とその過程にはとことんまでこだわる。初顔合わせの可能性がある高校生、大学生チームの試合には自ら足を運び、ビデオを回す。「スカウティングはできるだけ自分でやりたい。特に対戦機会が多くないチームは」と語る指揮官の目には、Ⅰ神戸のウィークポイントもくっきりと浮かび上がっているのだろうか。

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 準決勝もうひとつのカードは、岡山湯郷Belleとアルビレックス新潟レディースの組み合わせ。どちらも皇后杯が全日本女子サッカー選手権とだけ呼ばれ、国立霞ヶ丘陸上競技場での元日開催だった時代に、決勝のピッチを踏んでいる。

「『皇后杯はお客さんが入らない』と言われているので、スタジアムに見に来てもらえるような、面白い試合をみせたい」と意気込む宮間あや以下、シーズン最後のトーナメントに向けて気合十分の湯郷ベルだったが、初戦でASエルフェン狭山FCの善戦に冷や汗をかかされた。残り10分を切って2点のビハインド。それでも福元美穂の好セーブで決定的な追加点を許さず、「相手の足も計算に入っていたし、ペース配分もうまくできた」(宮間)という攻撃陣が終盤に爆発。粘り強く延長戦に持ち込み、松岡実希の決勝ゴールに結びつけた。最終スコアは4-3。2点を追う展開でも、最後まで気持ちの余裕を持って戦えた理由は、今年1年間の積み上げだ。

押し気味に試合を進めながら、開幕から連敗。Ⅰ神戸に0-7の大敗など、なでしこリーグ序盤は苦しんだが、徐々に攻守の最適バランスを掴んだ。松岡と有町紗央里の2トップがアベックゴールを決めた岡山ダービーから、上昇気流に乗った。なでしこリーグカップでは堂々の決勝進出。リーグ後半戦はⅠ神戸のリーグ無敗記録をストップし、最終的にはリーグ3位にまで押し上げている。準々決勝では、今季限りでの退任を示唆する上村崇士監督率いるジェフユナイテッド市原・千葉レディースを2-0で退け、準決勝に駒を進めた。

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 新潟Lは、生え抜きの川村優理をはじめ昨季までの主力が相次いで退団し、リーグ戦では序盤から苦しんだ。シーズン半ばを過ぎても、降格争いに足が浸かった状況は久しぶりのこと。最終的には「残留」を優先事項としてリトリートした戦いを徹底。この戦術変更にティファニー・マッカーティーの加入もマッチした。薄氷を踏む形ではあったが、なでしこリーグへ踏みとどまった。プレッシャーから解き放たれたチームは、準々決勝で得点力不足に喘ぐ日テレ・ベレーザを零封し、ベスト4に名乗りをあげたのである。

 これまでの対戦では湯郷ベルが、新潟Lを“カモ”にしてきた。ただし、対戦成績に見られるほどの差はない。昨年までとは違う新潟Lのスタイルは、湯郷ベルにとっても不気味なのではないだろうか。同じように訪れた不調期を、湯郷ベルは「継続」で、新潟Lは「変化」で乗り切った。こうした視点からも興味深い2チームの対戦だ。

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 12月21日(土)の準決勝、12月23日(日)の決勝とも、会場は大宮のNACK5スタジアム。2013年のラストクイーン誕生を見届けてほしい。



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