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2017プレナスなでしこリーグ展望

リーグ開幕記者会見
リーグ開幕記者会見

西森彰=文・写真 金子悟=写真
 

開幕を今週末に控えるなでしこリーグ。まず25日(土)に2部が、翌26日(日)に1部が覇権を賭けた戦いのスタートを切る。


リーグ3連覇を狙う日テレ・ベレーザは、「選手はほとんど変わっていないが、昨シーズンまでの戦い方をベースにしていきたい」と森栄次監督はいう。チーム全体で見れば平均年齢約22歳の若いチーム。アルガルベカップに招集された昨季の得点王・田中美南が、年齢面でも、役割でも、ちょうど中心に位置している。

日テレ・岩清水
日テレ・岩清水

昨季MVPの阪口夢穂とともに、今季もチームをけん引するのが岩清水梓だ。「ひとつも楽な試合はない。目の前の試合をひとつひとつ勝って、その先の優勝を目指したい」(岩清水)。1部で唯一の30代キャプテンとなったが、常に背中を追ってきた加藤與恵のリーグベストイレブン連続選出記録(11回)に並び、今季は先輩超えに挑む。「(ベストイレブンは)チームの好成績あってのこと」とチーム成績が個人の評価は表裏一体と強調した。

一般的に、若さは脆さを含むケースが多いが、日テレの登録選手はほとんどがいずれかの年代で代表のユニフォームに袖を通し、大舞台を踏んでいる。2年連続でリーグを制し、勝者のメンタリティを身につけているのだから、まだまだ伸びしろは大きい。有吉佐織の長期離脱は心配だが、それを差し引いても主役の座は譲れない。

INAC神戸・髙瀬
INAC神戸・髙瀬

皇后杯優勝チームのINAC神戸レオネッサが、対抗一番手ということになるだろうか。キャプテンの髙瀬愛実が「毎年口にしているのですが目標はリーグチャンピオン奪還」と日テレに宣戦布告する。リーグ通算出場試合数145に対し、得点はその過半数にあたる81得点を挙げている。昨季は、ややゴールが遠かったが、リーグカップ、皇后杯を含めて、髙瀬がゴールを挙げた試合は全勝。この大型ストライカーの復活は必須条件だ。

大野忍、鮫島彩、田中明日菜ら、ドイツ組のレジェンドに加えて、指揮官が育成してきた中堅、若手にメドが立ってきた。澤穂希の退団で空番になっていた背番号「8」を、入団3年目の杉田妃和が継承している。松田岳夫監督は「まだまだ彼女たちには『もっと上手くなりたい』という欲が足りない」と苦言を呈する。若手に主力の自覚が芽生えれば、日テレのように劇的な化学反応が起きても不思議はない。

ここ3年は、正念場で迎えた日テレ戦を落として、リーグタイトルを失ってきた。今季も、その直接対決の行方がリーグの行方を占うものになるだろう。福元美穂加入後、皇后杯優勝まで公式戦11連勝。上り調子で締めくくった昨季の流れを引き継げるか。

浦和・猶本
浦和・猶本

昨年のタイトルホルダー2チームを、他が追いかける構図だが、吉田靖前監督から石原孝尚監督へ指揮権が移った浦和レッズレディースが面白そうだ。石原監督は、2013シーズンに、リーグ2連覇中のINAC神戸レオネッサを引き継ぎ、そのまま“四冠”を達成した。自身は「選手の成長を最優先にしたシーズンに」と控えめなコメントだが、目の前の試合にはこだわるタイプの指揮官。そうでなければ、年間タイトルを全て獲る離れ業はできない。

退団した後藤三知に代わり、新しくキャプテンマークを巻くのは柴田華絵。九州トレセン以来の関係である猶本光と、プレスカンファレンス前に行われたトークショーにも出席した。「チーム一丸となって全力でリーグ優勝に向かう」と柴田。プレシーズンマッチの成績も好調に推移し「優勝した2014シーズンの時に雰囲気が似ている」(猶本光)という。もちろん、プレシーズンと公式戦は全くの別物だが、好スタートを切れれば、一発あってもおかしくない。

AC長野パルセイロレディースは、昇格初年度にまさかの優勝争いを繰り広げた。最大の武器は、オレンジに染められる南長野のスタンドだ。本田美登里監督からは「観客動員数で1位になったチームを、リーグとして表彰してもらいたい。そうすれば、ファン、サポーターも一層、サポートのやりがいが出てくるはず」との声も出た。

ポゼッション争いに慣れた他チームが面食らったのは、横山久美の攻撃力を最大限に活かした、タテに速いサッカーだ。ボランチの國澤志乃と両センターバック、GKで守る時間も長く、1試合平均約2点でよく抑えたと言えよう。今季は、さすがに他チームのマークも厳しくなってくるはず。「昨年は応援してくれるみなさんをハラハラドキドキさせましたが、今年はハラハラを少し減らしたい」(本田監督)。

オーストラリア女子代表の仙台・ケイリントン・フォード。2011年6月撮影。写真の女子ワールドカップ2011ドイツ ブラジル戦で16歳で代表デビュー。
マイナビに加入したケイリントン・フォード(オーストラリア女子代表)。2011年6月撮影。写真の女子ワールドカップ ドイツ 2011 ブラジル戦で16歳で代表デビュー。

地元で日テレにリーグ優勝を決められたマイナビベガルタ仙台レディースは、千葉泰伸監督が退任し、新たに越後和男監督が就任した。今季の戦術について問われた越後監督は「守秘義務もあるので」と核心をぼやかしたが「ロングボールが多かったので、少し下のボールをつなぐ準備をしてきた」とのこと。昨年よりも地上戦に力を入れている模様だ。

新キャプテンは田原のぞみ。川村優理が新潟Lに、高良亮子がスウェーデンに移籍した一方で、1.FC.ザーリュブリュッケンから入江未希が復帰した。最前線にはオーストラリアのケイリントン・フォード、ゴールマウスにはアメリカのブリトニー・キャメロンとふたりの外国人選手がいる。また日本人選手にも、高倉麻子監督就任後、なでしこジャパンに定着しつつある佐々木繭をはじめ、代表クラスは少なくない。世代交代を含めて、新監督がどのようにチームを作っていくか楽しみだ。

5年振りに新潟Lに復帰した川村。2012年12月撮影
5年振りに新潟Lに復帰した川村。2012年12月撮影

クラブの特性を「リーグ戦3位以内、皇后杯優勝」という目標であらわしたのが、アルビレックス新潟レディースの辛島啓珠監督だ。皇后杯では4回、決勝に進出しながら、リーグ戦では、毎年、序盤で苦戦を強いられ、その借金返済に追われる。これは練習場が雪に覆われ、ボールを使った練習が他チームより遅れる、地政学上の不利が大きい。18試合では、なかなか序盤のビハインドを跳ね返せないのだ。

今季、キャプテンを務める中村楓はアルガルベカップ帰り。「その不利も力に変えたい。広いグラウンドで練習できなかった代わりに、筋トレなどはしっかりできました」。ベテランの斎藤友里、ゲームメークを担当した山田頌子らが引退し、中盤の構成は変わった。今季も上尾野辺めぐみに頼るところは大きいが、新潟に帰ってきた川村優理、成長著しい八坂芽依ら、目に見えるプラス要素もある。前半戦を五分以上でこなしていければ(それが至難の業なのだが)、最後まで優勝戦線を賑わせてくれるだろう。

伊賀FC・杉田
伊賀FC・杉田

伊賀FCくノ一は、昨季途中から野田朱美監督が就任。得点力不足に悩んでいたチームを蘇らせて6位に滑り込んだ。今季のスタッフ陣には、岡山湯郷Belleなどで指揮を執った種田香織コーチが加わり、同時に湯郷ベルから大久保舞、作間琴莉、橋本祥子ら、高校女子サッカー選手権を賑わした若手も移ってきた。

昨季は、なでしこジャパン定着を狙う杉田亜未が、5ゴールでチーム内得点王になっている。経験のある櫨まどか、宮迫たまみ、大橋実生ら、新旧の選手が揃い、ディフェンス面では計算が立つ。今季の課題も「いかにして点を獲るか」。打ち合いにも耐えられる力がつけば、上位チームにも侮れない存在になるだろう。

ジェフユナイテッド市原千葉レディースは、昨季、リーグ戦では終盤まで残留争いに巻き込まれた。一方で、リーグカップではファイナルまで上がっており、代表GK・山根恵里奈も、「そこまで行けるのも、リーグ戦で苦しんでいるのも、自分たちの実力」と捉えている。競った試合をきちんと拾うことを目標に、今季は「年間10勝」がチームのテーマとなった。

そのためには、これまでの「よく走り、よく戦う」だけでは足りない。昨年を上回る攻撃力が不可欠で、菅澤優衣香が抜けた状況で、どう工夫してくるかが注目だ。こちらも主将がディフェンスリーダーの櫻本尚子から、大学を卒業した社会人1年生・上野紗稀に引き継がれている。

ノジマ・田中
ノジマ・田中

プレスカンファレンス閉会後、報道陣に「今年もよろしく!」と笑顔で声をかけていたのが、ノジマステラ神奈川相模原の菅野将晃監督だ。東京電力女子サッカー部マリーゼを率いていた名将が、休部を受けて新たに立ち上げたチームは、なでしこリーグに加盟後、初年度(2013年)から2部4位の好スタート。翌14年は、昇格戦線をリードしながら、終盤にひっくり返されて最終的には3位。

チームが変身を遂げたのは、一昨年の後半だ。ゲーム内容では上回りながら、勝負への執念でAC長野(優勝し、自動昇格)に大差をつけられた。「勝ち切っている相手と、勝てていない自分たちの力を真摯に受け止めなければいけない」。指揮官の決意に選手も応え、アウェーゴール差に阻まれた昇降格プレーオフでは「結果は出ませんでしたが、見る人に何かを感じてもらえるゲームはできたと思う」と熱い涙を流しながら、選手たちを称える指揮官の姿があった。そしてこれを糧に、昨季、14勝4分け無敗で念願の自動昇格を果たした。

プレスカンファレンス前のトークショーに浦和のふたりと共に出演した、高木ひかりと田中陽子は「監督は5位を目標に挙げていて、力量的にもそのあたりだとは思いますが、選手間の目標はあくまで優勝!」。サッカーのエッセンスは1部でも上位クラスにあり、2部で身につけた泥臭さが、さらに上のクラスでも発揮できれば、昨季の長野以上もありうる。

昇格組のもう1チームが、ちふれASエルフェン埼玉だ。一昨季、最下位で2部降格の憂き目にあったが、12勝1敗2分けでノジマに続く2位。昇格プレーオフでコノミヤスペランツァ大阪高槻を2連勝で降し、1年で1部に返り咲いた。就任1年目でノルマをクリアした元井淳監督は「2度とこのようなことがないように」と、1部残留を必須条件に掲げる。

キャプテンの中野里乃は、高校時代からサッカーへの意欲が旺盛な選手。ケガを乗り越え、昨季は、1部復帰への原動力となった。リーグでも屈指のスピードと運動量を誇る薊理絵が、攻撃にシフトできる時間帯を増やせれば、対戦相手もひるむはず。最良のチームバランスを見極めるためにも、初戦の日テレ戦が大切になってくる。


優勝、3位、5位、残留と、最終目標はそれぞれ異なるが、どのチームも目の前の試合に向けた闘志は変わらない。2年後の女子ワールドカップ・フランス大会、そして3年後の東京オリンピックを盛り上げるためにも、ファンやサポーターが見ていて楽しいゲームを、なでしこリーグのピッチで見せてもらいたい。

浦和、お待たせ、初白星。連戦最終日に伊賀FCを降す。

取材・文/西森彰 写真/金子悟

なでしこリーグ第8節初日が、駒場スタジアムで行われ、伊賀FCくノ一を降した浦和レッズレディースが、今季の公式戦で初勝利を挙げた。この結果、勝った浦和は勝ち点を4としたが、依然として最下位。敗れた伊賀FCも勝ち点8の7位で足踏みとなった。


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ホーム駒場で、浦和はようやく白星を掴んだ

■連戦最終日は、疲労との戦い

この日の浦和は、前節のベガルタ仙台レディース戦とほぼ変わらないメンバー構成。そのベガルタ戦で負傷退場した猶本光のあとを受けた筏井りさがそのまま先発した。前々節から前節にかけてスターティングメンバーが変わったのはGKだけだ。「結果が出ないので、チームに刺激を与えなければいけない」と口にし、実際、新しい選手にチャンスを与えてきた指揮官だが、今回は試合間隔が短すぎた。大幅に選手を入れ替えても、連携をあわせるだけの練習時間がない。

ただ、駒場スタジアムに乗り込んできた伊賀FCも、いっぱいいっぱいの状況は同じ。日テレ・ベレーザと1-2、ベガルタに1-0、そしてAC長野パルセイロレディースに0-0。上位陣との3連戦をイーブンの成績で終え、試合内容も良化の一途を辿っていたが、体力面でのお釣りはほとんど残っていなかった。

「(上位相手の連戦で)コンディションはキツイかなというのはありました。『問題は運動量かな』と。暑さも確かに影響しましたが、相手もそのせいでスタートはゆっくり来た印象がありました。運動量で相手を上回れれば、結果はついてくるなとは思っていました。ここ2戦はホーム。バス移動も含めて、この試合に、多少影響があったかもしれません」(那須麻衣子・伊賀FC)。

第7節を終えて、浦和、伊賀FCともにゴール数は僅かに3。2試合で1点とれないほどの、得点力不足に喘いでいる。どこから切っても、少ないチャンスの中での「1点勝負」だった。



■得点力不足を打開したセットプレー

フィジカル面で問題を抱えながらも、両チームイレブンは「勝ち点3が欲しい」という気持ちを発散させながら、ピッチをよく走った。猶本不在の中、筏井りさ、栗島朱里のダブルボランチは「攻めは筏井、守りは栗島」(吉田監督)が基本的な役割分担だったが、「セカンドボールを拾い、プレスバックもかける。前には行けるほうが行く」(筏井)と互いの作業を補完しながら、好守両面でチームを支えた。

「これまで、チームとしてなかなか攻撃に力をかけることができていなかったので、ボールを奪ったら、ゴール前に抜けて攻撃の枚数を増やせと言われていました。私が前に行くことでサイドの選手が高い位置をとれたり、攻撃参加ができたりということもあるので、タテの揺さぶりというのを続けたかった」(筏井)

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ミッドフィールドで労を惜しまぬプレーが光った筏井りさ

これが、浦和のサイド攻撃を効果的なものとした。「今日は失うものがなかった」という北川ひかると、乗松瑠華の両SBが、高い位置でプレーできるようになる。中でも、北川は、試合開始5分の左クロスで触れば1点というシーンを演出。その後も、再三、効果的な攻め上がりを見せる。守っては、40分、相手のセットプレーから招いたピンチにひとり対応し、事なきを得た。

そして70分、試合を決める1点が生まれる。自ら蹴った左CKが長船加奈から戻され、北川がこの日、何度目かになる決定的クロスをゴール前に送る。GKの鼻先でコースを変えたのがキャプテンの髙畑志帆。軌道を変えたボールはファーサイドのポストに当たり、伊賀FCのゴールに転がり込んだ。「自分自身、久しぶりの得点ですし、こういう形でチームに貢献できたのは嬉しい」と髙畑。

ベガルタ戦後、この伊賀FC戦に向けて、吉田監督はセットプレーに多くの練習時間を割いていた。ここ数試合、相手のセットプレーで失点していた選手たちも、その重要性を再認識し、高い意識を持って取り組んだ。即効性の高い得点力アップの方法。これに取り組んだことが、見事、結果につながった。


■なりふりかまわない守備固めで初白星へ

伊賀FCの金鐘達監督は、失点直後、サラ・ジャクソンを投入して、ローレン・ボハボーイとアメリカ人をふたり前線に並べた。同時にそれまで最前線でチャンスメークしていた杉田亜未をボランチに回し、那須とふたりでボールを拾って、波状攻撃を生み出す。

これに対して浦和の吉田監督は、故障の乗松を諦めて、上背のある臼井理恵を最終ライン中央に投入し、システムを5バックに変更。15分を残して早々に守り切ることを決断する。さらに、残り時間が僅かのところで、キープ力のある後藤三知を入れる。メンツをかなぐり捨てて「勝ち点3獲得」を徹底した。

もちろん、吉田監督の頭には、伊賀FCの得点力不足もあっただろうが、浦和は大幅に負けが込んでいる上に、ここまで無失点試合もゼロ。こうした状況で安全策を選ぶと、かえって大惨事を呼び込むものだ。

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先制ゴールを挙げ、完封にも貢献した髙畑志帆

「自分としても『5バックにする時間帯が早かったかな』という気持ちはありましたが、やるべきことがハッキリしました。最終ラインの5人とGKで、それをしっかり再確認できたし、監督の意図をくみ取ってプレーできたのかなと思います」と髙畑。GKの平尾も「後ろの5人は大きいし、競り負けるとは考えられなかった。抜けてくるボールをしっかり処理しようと」頭を切り替えた。

最終ラインがしっかりと守りながら、途中出場の塩越柚歩が2回のチャンスを作るなど、狙い通りのサッカーで、タイムアップにこぎ着けた浦和。前半はチャントを封印し、好プレーに拍手を送り続けたサポーターと、今季初勝利の喜びを分かち合った。



■遅すぎるスタートだが、レースはまだ中盤

敗れた伊賀FCは、浦和に3倍するシュート9本を放ちながら、ゴールに結びつけることができなかった。

「点はとられましたがシュートは9本。そこで攻撃陣が2点取るくらいのチームになっていかないといけない。相手をゼロに抑えても、得点がとれずに引き分けという試合もありましたし、攻撃陣の得点力不足がいちばん悔しいところ。守備陣があれだけ頑張ってくれているので、悔しさはすごくあります」(杉田)

前節までの失点数5は、日テレと並んでリーグ最少。それでいて、勝ち点が伸び悩んでいる理由は、誰の目にも明らかだ。「今後は、選手間でいくつか攻撃パターンや約束事を作っていくべきなのかもしれません。その時間はあるはずなので」と那須。きっかけひとつで、さらに上を目指せるはずだ。

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ゴールデンウィークも終盤、ようやく手に入れた歓喜

なかなかトンネルを抜け出せなかった浦和が、苦しい連戦の最終日にとびっきりのご褒美を手に入れた。殊勲の髙畑は「初勝利がこんなに遅くなり、申し訳ない。でも、ひとつ勝ててホッとしました。のですが、これまでの戦いには課題がたくさんあります。もう一度、しっかり反省するべきところはしたいと思います」。

髙畑の決勝点をアシストした北川も、強い責任感の持ち主。結果が出なかったこれまでのことも含めて尋ねると、思いをこらえきれずに、目から涙があふれた。

「負け続けていることで、チームのみんなも気持ちが落ちていく。『次があるんだから、そこで頑張らなくっちゃ』とは思うんですが、そうやって6敗していたし……。私は、自分ではメンタルが強いほうだと思っているのですが、本当に『このままじゃ、おかしくなっちゃうんじゃないか』というくらいになっていました。今日勝てたことでスッキリしましたし、チームとしても次につながると思います。必ず、次の試合も勝ちたい」

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北川ひかるの視線は次へ向けられた

前半戦のサバイバルマッチは、コノミヤが浦和を降して、今季初勝利を手に入れる。

取材・文/西森彰

■今季未勝利の2チームが対戦

開幕から1分け2敗の勝ち点1と、思わぬスタートを切った浦和レッズレディース。第4節の対戦相手は、3連敗中のコノミヤ・スペランツァ大阪高槻だ。どちらも、今季昇格したばかりのAC長野パルセイロレディースに敗れるなど、不調の極み。その原因は目指すサッカーを具現化できていないところにある。

浦和は、展開力のあるボランチから両サイドにボールを散らしていこうという狙い。だが、左右に振ろうとすれば距離が開きすぎ、かといってSHが中に絞れば、ボールを失いはしなくても、相手の寄せが間に合ってしまう。前節で負傷したボランチの猶本光がメンバー外になった。猶本の代わりに起用されたのが長野風花。「(バランサーの)栗島(朱里)も考えたが、点をとらなければ勝てないから、攻撃的に行こうと」(吉田靖監督・浦和)右SHの柴田華絵が、猶本の抜けた中央に回った。

前日の試合で、勝ち点1だったジェフユナイテッド千葉レディースが今季初勝利を挙げて、勝ち点を4に伸ばしていた。そのため、この試合に敗れたほうが暫定最下位となる。「ここまで勝利がありませんでしたし、昨日、ジェフが勝っていたので、ここで離されるときつい。『絶対に勝ちに行こう』とみんなで話し合っていました」とコノミヤの成宮唯。

この日の丸山桂里奈はボランチとしてプレーした
この日の丸山桂里奈はボランチとしてプレーした。

本並健治監督は、長くなでしこジャパンのストライカーとして活躍してきた丸山桂里奈を、この日、ボランチで起用した。背水の陣はこちらも同じだ。


■ワンチャンスを活かしたコノミヤが、追い風に乗る

とにかく勝ち点3を目指すチーム同士らしく、序盤からチャンスが生まれる。キックオフから1分も経たないうちに、浦和は、北川ひかるのクロスに後藤三知がヘディングシュート。コノミヤもすかさず巴月優希からボールを託された成宮がシュートを放つ。一瞬肝を冷やした浦和だが、7分、柴田のパスから吉良知夏がシュート。3分後にも加藤千佳のクロスに吉良が頭を合わせる。

「最初のチャンス、柴田の横パスからのシュートは練習でもやっていた形。ボールの置き所がうまくいかなくて決まりませんでしたが、序盤でシュートを打てたことで自分でも流れを掴めた。その後にすぐ、加藤のクロスから決定的なチャンスも作れた。あれを決めなきゃいけない。それに尽きる」(吉良)

コイントスで風上を選び、序盤から押し気味に試合を進める浦和。だが、勝利に近づく先制点を奪えないのはここ2試合と同じ。浦和は高い位置から2トップへのクロスを狙うが、3-4-3で布陣するコノミヤのウイングバックにうまく対応された。「サイドに展開した時に、相手の守備にかかって奪われてしまう場面が何度かあった」と後藤。駒場スタジアムに、嫌なムードが垂れ込めてくる。

連敗中のコノミヤは、3-4-3での戦い方に、磨きをかけてきた。相手のサイドアタックを消す守備だけではない。「システムは守備的に見られがちなんですが、対戦相手にかなり攻められることは想定内。そこでボールを奪ってから、前の3人でどう攻めるか。お互いの距離感の調整や、決め事の確認を、この1週間、繰り返しやってきました」と成宮。ポジションを上下左右に変える3トップに、浦和はマンマーク気味な対応を強いられた。

強烈なヘディングシュートで流れを引き寄せた佐藤楓。堅守で無失点にも貢献
強烈なヘディングシュートで流れを引き寄せた佐藤楓。堅守で無失点にも貢献。

そんな中で得た20分の左コーナーキック。キャプテン・虎尾直美の蹴ったボールは、風に揺すられて絶好のスペースに落ちていく。浦和のDF陣を割るように飛び込んだ佐藤楓が、値千金の先制ヘディングシュートを決めた。「前半は向かい風でしんどかったんですが『とにかく続けろ』と監督、コーチから言われていた。佐藤が前半に1点とったのが大きかった」と丸山。コノミヤの士気は上がった。

「インスイングのボールが風に乗って、嫌な形で落ちた。ああいうところで守り切れないのが今シーズンかなと思います。失点するまではいつもいいんですが点がとれなくて、失点しまうというのが今の悪い流れ。試合全体でも、相手より先にボールに触り、そして個々の所で勝っていかないとチームとしてもよくないと感じました」(高畑志帆・浦和)

前半は、コノミヤが1点のリードで折り返した。


■成宮が獅子奮迅の活躍。2得点で試合を決める

「相手に追加点を与えてしまう前に、1点取って追いつければ勝てる可能性は高まっていた。ハーフタイムにそういう意識を高くして臨んだ」(後藤)浦和だが、今度は、前半にも増して強くなった風に苦しんだ。

「風上の時は裏に抜けるチャンスもありましたが、ピッチが試合開始前の雨でスリッピーになっていて、なかなかボールに追いつけなかった。風下になって、前半みたいなプレーをしていたら、そういうチャンスもできるという話をしていたが、それ以上にボールが前に進まなかった。ピッチの中でやっている印象では、前半みたいに蹴っても風で戻るということがあり、つないで進もうとした」(吉良)

対戦相手がリードを意識してガードを固めれば、浦和も落ち着いて攻めることができただろうが、この日のコノミヤは攻守に積極的だった。「このチームは1点のリードじゃ厳しい。2点取っても逆転されることがあったし、いかに3点目を奪って、相手を精神的に追い込めるか」(成宮)を命題に、イレブンは走り続けた。

経験の浅い浦和の若手が、コノミヤのプレッシャーに負けてしまった。ボールを受けると一刻も早く自分の足下から離そうと、精度を欠いたパスを出しては、それを奪われる。低い位置で何とかボールを奪い返し、コートの中央まで押し返しても、そこからまたコノミヤの逆襲を受ける繰り返し。完全に、悪循環に嵌ってしまった。

そして62分、コノミヤに追加点が生まれる。成宮が、まずは丸山、次いでニュージーランド女子代表のサラ・グレゴリアスと立て続けにワンツー。ゴール前に切り込み、右足でのシュートを決める。勢いに乗った成宮は、71分には左サイドの巴月に預けて、再びゴール前に侵入。リターンを受けると、再び右足で決定的な3点目を挙げた。

大勢を決する3点目を奪った成宮唯(7)をチームメートが称える
大勢を決する3点目を奪った成宮唯(7)をチームメートが称える。

「この1週間話し合っていったことが、試合でうまく嵌ってよかった。得点の場面では、うまくボールがつながってゴールまで良い形でいけた。2点目は、前半から監督にシュートの意識について言われていたので、あそこで打ちました。3点目も狙い通りでした」(成宮)

FW起用に応えた成宮だが、浦和の攻勢時にはペナルティエリア内まで戻って、守備陣を助ける活躍。マン・オブ・ザ・マッチを選ぶなら、この日は文句なしにコノミヤの7番だった。


■勝利こそが自信回復の特効薬だが……

コノミヤに0-3で敗れた浦和には、スタンドのサポーターからも厳しい声が飛んだ。開幕から4試合未勝利で、とうとう最下位に転落。僅かに見えた光明は途中出場の清家貴子、山守杏奈の強引とも思われる突破力だった。

だが、チーム全体に漂う自信の喪失は、それ以上に深刻だ。歯車が狂うと途端に「互いの距離感が遠くなっていく」というセリフを、幾たびも、選手の口から聞かされた。おそらく「これ以上、ミスをしたくない」という意識が、知らず知らずのうちに戦いの場から身を遠ざけさせているのだろう。

「もちろん『先制点をとる』という意識で練習からやっています。それがとれないのが今のチームの現状。そこで悲観的になるのではなく、もう一度、チーム全体で『先制点をとる』というところに向かって行き、守備陣は『それまで失点しない』というところを含めてやっていきたいと思います」(高畑)

現在、選手が置かれているメンタルを考えると、積極的にアクションを起こすサッカーよりも、昨季、苦境を乗り切ったリアクションサッカーで勝ち点を積むことが必要にも思われるが……。

セットプレー時には高畑志帆も攻撃参加した浦和だが、この日もゴールは遠かった
セットプレー時には高畑志帆も攻撃参加した浦和だが、この日もゴールは遠かった。

一方、今季初の白星を手に入れたコノミヤの選手からは、笑顔がこぼれた。

「素直にうれしいです。なかなか勝てない試合が3試合続いていましたが、試合内容は一戦ごとに、どんどん良くなっていました。昨年と比べて手応えも感じていましたし、まずは『失点しない』ということだけに集中していましたし、ある意味で開き直ることもできました」(成宮)

この日2得点の後輩について、丸山は「若いけれど頼もしさがある。よくチーム全体を見ていてくれるし、いろいろ教えていけたらいい」と語る。自身は、この日、ボランチでプレーしたが「相手を見てシステムも変更できたらいいと思う」と言うあたり、「やっぱり、前目でやりたい」という意識が見え隠れする。それでも、掛け値なしの笑顔をふりまくあたり「チームの勝利が最優先」ということなのだろう。

勝利という良薬を手に入れたコノミヤ。未だに特効薬を手に入れられない浦和。ミックスゾーンで見せた対照的な表情は、次の試合を終えてどう変わっているだろうか。

日テレ、I神戸との秋田決戦を制して、首位に立つ。

取材・文/西森彰

■なでしこ首位決戦の地は東北・秋田

開幕から3戦全勝のINAC神戸レオネッサと、2戦1分けでこれを追う日テレ・ベレーザ。新旧女王の首位決戦は4月16日(土)、秋田市八橋運動公園球技場=あきぎんスタジアムで行われた。

日テレイレブンは、試合終了まで秋田のピッチを走り切った。
日テレイレブンは、試合終了まで秋田のピッチを走り切った。

秋田県サッカー協会は、このゲームを迎えるにあたって、青森、山形など隣県のサッカー協会の協力を要請して、開催告知を進めた。また、スタジアム横のグラウンドでは、少年サッカー大会を開催した。こうした集客活動が実を結んだ結果、あきぎんスタジアムに足を運んだ観客の数は3,133名に達した。

「私自身は秋田に来るのが初めてで非常に楽しみにしていました。正直なところ、秋田でサッカーがどれくらい浸透しているかがわからなかったので、なでしこリーグに興味を示してもらえるのか心配だったのですが、これだけ大勢の方に来ていただけました。特にお子さんの姿が多かったのが印象的で、これからの秋田のサッカーにとっても大事なことではないかと思いました」(川澄奈穂美・I神戸)

秋田開催を楽しみにしていた川澄奈穂美が、クロスのタイミングを計る。
秋田開催を楽しみにしていた川澄奈穂美が、クロスのタイミングを計る。

「今日、試合を見に来てくださった方々には感謝しています。みなさんが来てくださることで、私たち選手は頑張れます。また、たくさん来ていただいた方々の前でつまらない試合、だらしない試合をしてはいけないと思っています」(大野忍・I神戸)

「バックスタンドをはじめ、小さなサッカー少年、少女がたくさん来てくれましたし、多くのお客さんの前で試合ができるのは、プレーしている私たちにとっても気持ちがいいものです。こうやって女子サッカーを見に来てくれる人たちが、続いてくれればいいと思います」(岩清水梓・日テレ)

スタンドを埋める観客から背中を押されるように、両チームは、見ごたえあるゲームを展開した。


■チームに溶け込んだ、2年目の杉田妃和

昨季のレギュラーシリーズ後半戦では、堅い守備ブロックを敷いた日テレが、I神戸の攻撃を耐え凌ぎ、相手の足が止まったところで攻勢に出て、鮮やかに勝利を飾った。森栄次監督のゲームプランが見事に嵌った感があったが、このカードは、対戦相手の出方を読むのが大変らしい。

「今日はINACが前から来るのか、引くのかわからなかったが、試合が始まったら、前に出てきた」(森監督)。まずは、これに対応しようと阪口夢穂、中里優のダブルボランチが低い位置に構える。それもあってか、序盤、ペースを掴んだのはI神戸。開始早々の2分、髙瀬愛実のシュートが山下杏也加を脅かし、4分にも鮫島彩のミドルシュートが放たれる。

「(チーム全体として」ゲームの入りはすごくよかったので『あそこで1点こちらにくれば……』というのはありましたが、奪ったボールをうまく相手に奪い返されていたシーンも多かった。あそこを打開できていれば、また違った展開になった」(松田岳夫監督・I神戸)。

指示を出す松田岳夫監督。両軍指揮官の采配も見どころのひとつ。
指示を出す松田岳夫監督。両軍指揮官の采配も見どころのひとつ。


このI神戸の組み立てに、中盤で絡んでいたのが、なでしこリーグ2年目を迎えた杉田妃和だ。澤穂希の引退、伊藤美紀の負傷もあって、今季は開幕戦から先発出場を続けている。オフ・ザ・ボールの質に指揮官は物足りなさを感じているようだが、それも期待の裏返し。試合経験を積みながら、ゲームの流れを乱すことなく、ボールに絡めるようになってきている。

「松田監督にも『受けたいという意志を出せ』と言われていましたし、それは大事。やっぱり、出してもらうのではなく、自分から出させるくらいのプレーを出したい」と杉田。この日は、綺羅星のようにピッチに散りばめられた代表選手たちに、自分から身振りと言葉で、激しくボールを要求していた。

アウトサイドで右に捌く杉田妃和。2年目で主力のひとりに。
アウトサイドで右に捌く杉田妃和。2年目で主力のひとりに。


攻撃的なボランチとしては、アタッキングサードでの仕事も課題。チームが攻勢をゴールに結び付けられなかった点について、杉田も「前に出ていった時に、自分の良さを出せていない。そこが毎回の課題になってしまう」と反省しきり。年代別代表でたびたび見せる決定機の演出は、この日のアディショナルタイムでも見せた。この特徴を、なでしこリーグを戦う中でコンスタントに出せていければ、さらなる成長が期待できる。



■田中美南、ひとり二役の奮戦で突破口開く

日テレも、I神戸に一方的にペースを握られていたわけではない。5分を過ぎたあたりから、混戦から長谷川唯のシュート、田中美南のPK獲得とも思われたドリブル突破など、チャンスが生まれ始めた。12分にも、籾木結花のクロスであわやのシーンを演出。

その直後に、大野と川澄のパス交換から最後は髙瀬にフリーでシュートを浴び、ヒヤリとしたが、その後は危険なシーンが減っていく。これまでの試合に比べて、自陣内でのプレー時間が長くなるのは織り込み済み。東北出身者の岩清水梓と、ラ・マンガ遠征を無失点に終えて自信をつけた村松智子を中心にして、I神戸の攻撃を抑え込んだ。

ボランチの中里優がプレスバックして、岩清水梓らと、髙瀬愛実を包囲。
ボランチの中里優がプレスバックして、岩清水梓らと、髙瀬愛実を包囲。

ベレーザは、好守の切り替えも、今季一番といっていいデキだった。「ウチの選手は、みな若い子たちだし、運動量もある。前線の高い位置からプレッシャーをかけて、それでボールがとれれば一番いいというスタンスでやっています」と森監督。CB、GKへのプレッシャーを強めれば、それだけ、ビルドアップの位置が低くなる。攻撃面で高い能力を秘める鮫島彩、近賀ゆかりの攻撃参加を防げる。

逆に前線からの守備がルーズになれば、後顧の憂いなく攻めあがる両SBに、深い位置からえぐられてしまう。こうなると試合全体が厳しくなる。I神戸の三宅史織、田中明日菜を相手に、数的不利な状況に置かれる日テレの田中美南が、どこまで戦えるか。ここが最大のポイントだった。

大一番のカギを握ることになった田中美は、期待に応えた。「もともとベレーザは技術的にうまいチームだと思われますが、(チームとして)前線の守備から入ろうというスタンスでやっています」(田中美)。両CBだけでなく、GK・武仲麗依へのバックパスへも、全力疾走で追いかける。

これがI神戸の守備陣に負担をかけて、ラインが落ちた。杉田、チョ・ヒョンソクの両ボランチと、最終ラインの距離が間延びする。するとライン裏を狙っていた田中は、この間延びしたスペースを、シャドーの籾木と活用しながら、カウンターを見舞い始めた。

田中美南は、I神戸の最終ラインを翻弄し、先制点も奪った。
田中美南は、I神戸の最終ラインを翻弄し、先制点も奪った。

「トップ下の位置で籾木、田中美奈に入るかどうかがビルドアップのカギ。あとは裏への飛び出しを狙うように言いました。狙い通り、何本か通ったようなシーンもありました」(森監督・日テレ)。自軍の攻撃を組み立てながら、守備面でも汗をかき続けた田中美に、36分、報酬がもたらされる。バックパスの処理を誤った武仲からボールを奪ってシュート。大きな先制点を奪った。

「ウチのCBは2枚で、相手のFWは1枚。そこで起点を作られたというのは改善しなければいけない。本当に今日はあそこでやられたなというイメージはありますね。ひとりで裏も狙える、足下でも受けられる。そういう良さを出した田中選手のプレーは、純粋に認めなければいけないし、ウチが見習わなければいけない部分」(松田監督・I神戸)



■森監督の我慢に応えた、日テレイレブン

籾木の支援は受けながら、田中美はボールを引き出す動きを見せ、チームを引っ張った。前線から最終ラインまで、日テレは、I神戸よりも一歩ずつ早い反応で上回り、優勢を保つ。「高い位置で限定してコースを狭めて、縦に蹴らせる。ただし、このやり方は体力的に厳しい。最後まで続くかなとは思っていた」。

森監督の懸念通り、後半に入ると、少しずつ、日テレの動きが落ち始め、余裕を取り戻したI神戸が分厚い攻撃を始めた。「自分たちが攻めるようになった後半は、相手が引いて自分たちのタイミングで出ていけたし、ああいうふうに積極的に出ていくのが自分たちの流れを作ることにもなるかなと思いました」と杉田。最終ラインの攻撃参加で間延びしていた陣形がコンパクトになり、波状攻撃から大野の同点ゴールが生まれた。

「勝負所は最後の20分。そこまで持っていけるか」森監督は悩んだという。ただ、両チームとも、ピッチにいるイレブンの闘争心は沸点に達している。「ああいった場面では交代したところで、後から入る選手も試合の流れに乗るのが厳しい部分があるんです。代えようかとも思いましたが、もう一度踏ん張らせてみようと」(森監督)。

熱戦の行方を決めたのは、阪口夢穂。
熱戦の行方を決めたのは、阪口夢穂。

やれるかやれないか。その最終決断をしようとピッチ内の選手に「声をかけたら、エンジンがもう一度かかったような気がした」。首位チームは驚異的な復元力を見せて、追いつくまでに足を使っていたI神戸をもう一度、競り落とす。勝ち越しゴールを奪ったのは、今季、何度もチームを救っている阪口。

あとは、ディフェンス陣が締めるだけ。「ディフェンスはハードワークをいつもどおり。相手のクロスはわかっていたので、それをどうやって防ぐのが課題でした。落とせない試合でしたし、苦しい試合でしたが勝ち点3を獲れてよかったと思います」と岩清水。



■首位決戦にふさわしい、見応えあるゲームだった

最終スコアは2対1。日テレがI神戸を破って、首位に立った。試合内容もスコアに準じており、この結果は妥当なところだろう。それにしても、なでしこリーグをけん引する2チームにふさわしい、好ゲームだった。

同点ゴールを奪った大野忍。試合後は、敗戦に言葉少な。
同点ゴールを奪った大野忍。試合後は、敗戦に言葉少な。

一度は試合を振り出しに戻した大野は「何もないです。自分たちのミスで負けただけ。切り替えてやるだけだと思います」と口数が少なかった。ただ、客観的に振り返れば「試合に負けてしまったので、チームとしてはその結果が残念ですが、なでしこリーグとしては、白熱した戦いを見せられたのではないかなと」いう川澄の総括が、より真実に近いだろう。

「動き出しの部分で相手に劣っていたと思います。ただ、打開できないプレッシャーじゃないし、流れの良い時間帯は、打開できていました。これは、メンタルの問題。相手が来るから何とかしようという意識が強すぎて、ボールを持っていない選手の意識を変えないとなかなか打開できない。スペースと人に対しての意識、周囲との連携を高めなければいけません」

これが、敗軍の将となった松田監督の弁。百戦錬磨のI神戸イレブンが視野狭窄に陥るほどのプレッシャーをかけ続けた、日テレの選手たちの出足が勝ち点3を手繰り寄せた。

我慢の采配で勝利を手繰り寄せた森栄次監督。
我慢の采配で勝利を手繰り寄せた森栄次監督。

「向こうには代表選手もいるし、強さ、上手さがある。リーグ戦のほとんどの試合は、相手の守備を崩すにはどうすればいいかというのを考えながらやっているが、INACが相手の時は、守備を考えなければいけないし、そこは強調して、今週の練習をやってきた。これは、向こうもそうだと思うし、お互いにリスペクトしながらやっています」(森監督)

互いを最強のライバルと認めあう両チームは、今後もよきライバルとして、なでしこリーグを盛り上げていってくれることだろう。

高いシュート意識で、日テレが岡山湯郷に大勝。

取材・文/西森彰

■対戦前の状況はイーブンだったが……

日テレ・ベレーザが岡山湯郷Belleを多摩陸上競技場に迎えた一戦。ここまで2試合を戦い、共に勝ち点4。日テレは浦和レッズレディースと引き分け、ジェフユナイテッド千葉レディースを3-1で降した。岡山湯郷はアルビレックス新潟レディースと引き分け、ベガルタ仙台レディースに2-1で競り勝った。

日テレは昨季、なでしこリーグベストイレブンに選ばれた原菜摘子が引退した。「原と阪口夢穂からの組み立てはウチのストロングポイント」(森栄次監督)が失われ、日テレは新たな形を模索している。

原のポジションに置かれたのは、同じ小兵の中里優。身長差のハンデを克服して、年代別代表でも活躍した逸材だ。森監督は「中里に原と同じことは求めない。リターンを受けるところや、ボランチの位置からゴール前にスルスルと顔を出して行って、シュートも両足で蹴れる。阪口とのアイコンタクトが出てくるようになれば、さらによくなるし、一年通してやればそこそこいいコンビネーションができる」と期待する。

この日2得点の中里優。指揮官は「これで、味をしめてくれれば」
この日2得点の中里優。指揮官は「これで、味をしめてくれれば」。

コンビを組む阪口も、中里のシュート力など彼女の長所を強調。「若い選手に気をつかってプレーされるのは嫌ですし、彼女のミスはカバーしようという気持ちでいますが、特に無理をして合わせているようなところや、やりにくさはありません」と太鼓判を押していた。

岡山湯郷もケガ人が多い。ベテラン勢の多いチームで、なでしこリーグ2年目の選手が3人も先発出場している。勝ち点も、チーム事情も似たような状況でこの試合を迎えた。


■止まらないゴールラッシュ

試合の序盤は、好調なチーム同士の対戦らしいゲームになった。ゲームを支配したのは日テレだったが、岡山湯郷も粘り強い守備で、一番警戒していたゴール正面のシュートコースは消した。「全部を防ぐことはムリだから、ブロックの外からのシュートは福元美穂に任せる。ただ1点、阪口のミドルシュートだけは警戒しようと」(宮間あや)的を絞ったベレーザ封じを試みる。

これまでベレーザが格下相手の試合で敗れる時は、あるパターンがあった。プライドにかけて崩し切ろうとするあまり、相手陣内でパスを2、3本多く使い過ぎて、ボールを引っ掛けられてそこからのカウンターで失点。追いつこうと出ていくところに、またカウンターという図式だ。それが、今季からミドルシュートの意識が高まってきた。

突破を図る長谷川唯。この日は貴重な先制点を挙げた
突破を図る長谷川唯。この日は貴重な先制点を挙げた。

「シュートの技術もそうですが、その意識が高くなっています。今までは、安全にゴール近くまで持っていこうとしていましたが、今は多少、遠目からでも入ろうと入るまいとシュートを打つっていう姿勢、意識が高まってきたんじゃないかなと思います。これまでならパスという場面でもシュートを打ったりしています」(阪口)

この積極性が、結果的に守備のリスクも減らした。攻撃がシュートで終わるので、それが枠を外れても、ゴールキックからプレーは再開する。ゆっくりと自分のポジションに戻って、相手の攻撃を待ち受けることができる。入れば儲けもの。外れてもイーブン近い条件からの再スタートだ。この試合でも、代表GK・福元の守るゴールへ、風上を利したシュートが多かった。

「前半の前半は、後ろにボールを蹴られて、間延びしてしまった。それでも、前半の途中になれば向こうもバテるんじゃないかなと思っていた。実際、そうなってから、徐々にプレスバックが利くようになった」と日テレの森監督。岡山湯郷に攻撃の起点を作らせず、シュート、ゴールキック、シュートのリズムを繰り返しながら、前半半ばには、日テレが完全なハーフコートゲームに持ち込んだ。

そして36分、この日20歳の誕生日を迎えた籾木結花が、浮き球をペナルティエリア右奥へ落とす。ここへ走り込んだ田中美南のシュートは福元にブロックされたが、このこぼれ球を拾った長谷川唯が、DFを交わしながらゴール右隅へ叩き込んだ。さらに43分にも、3列目からアタッキングポジションにスルスルと上がった中里が、長谷川のパスを受けて2点目を決める。

日テレゴールショーのトリを務めたのは阪口夢穂
日テレゴールショーのトリを務めたのは阪口夢穂

こうなると、日テレの勢いは、ハーフタイムを挟んでも変わらない。後半は、田中美、中里が得点を加えて、「試合を重ねてコンビネーションも高まってきていますし、お客さんが見ていて楽しいサッカーをしたいと思っています」という阪口が、ゴールショーのトリを務めた。最終スコアは、日テレ5-0岡山湯郷。



■美しさに加わった、力強さ

この試合のシュート数は日テレが27本、岡山湯郷が3本。試合内容もそのとおりだった。敗れた岡山湯郷・宮間は「日テレとの試合では『さすがに今のはどうやっても止められないだろう』という失点があるのですが、今日のところは、そういう組織で崩された失点はなかった。局面ごとの個の問題なので修正ができる」と振り返った。これは、日テレが美しさにこだわり過ぎる悪癖を捨てて、力強さを身につけた証左ともとれるだろう。

昨季の準得点王、田中美南もこの日スコアを積んだ
昨季の準得点王、田中美南もこの日スコアを積んだ。

試合後にシュート数の集計を聞いた日テレの森監督は「もっと入ったね、5点で止まる試合じゃなかったね」と笑顔を見せた。前述したシュートの積極性は、数字にも出ており、ここ3試合は7本、17本、27本。毎週の練習終了後に「選手たちが率先してシュート練習を行っているし、そのあたりの意識は高い」(森監督)。その成果がシュート数の増加で、これがチームに勢いをもたらしている。

「『守るよりもうちは攻める、1点取られても2点取りに行く、2点取られても3点取りに行くというスタイルを貫こうよ』と言っています。思ったよりはできていると思います。好守の切り替えについては、今日と先週のゲームを見る限りは。まだ足りないのではないかなと思います」(森監督)

昨季の女王は連勝の勢いを駆って、首位を走るINAC神戸レオネッサとの首位決戦に臨む。

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