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【美酒佳肴】我が懐かしの上野

130116_01.jpg 文・写真/中倉一志

 たまには息抜きに…。
 東京はいろんな顔を持っています。大きなオフィス街と繁華街が集まる中心部。東へ進めば新興住宅街。西へ向かえば、いわゆる下町が広がり、昔ながらの人情あふれる空間が残っています。同じ東京でも、場所によって、住む人の文化や風習が違う町。東京はひとくくりでは語れない町でもあります。そんな中で私が最も好きなのが下町。子どもの頃、3年ほど下町中の下町に住んでいたことや、かつて勤めていた某生命保険会社の上野支社に5年もいたこともあり、何だかホッとする場所だからです。

 ということで、東京遠征の際は下町情緒を楽しむのが常。そして、昨年末からの取材遠征でも、上野、浅草界隈を放浪していました(笑)。そして、東京で1人で過ごすクリスマスイブは上野。上野と言えば上野駅から御徒町駅へ続く線路沿いのエリア「アメ横」です。暖簾をくぐったのは、アメ横らしいガード下のお店「豚坊(とんぼう)」。初めての訪問です。まずは、ガード下の定番「煮込み(210円)」を肴に「ホッピー(370円)」で喉を潤します。さて、何を肴にしようかな。

 この店は刺身も新鮮だそうで、店員さんも、まずは刺身類を進めてきます。けれど、私の狙いは焼きとん(2本210円)。まずは「ナンコツ」と「ガツ」です。ナンコツは何と言っても歯応えが魅力。こちらのナンコツは骨の固い部分と、気管の部分の組み合わせ。違った歯応えを楽しめます。そして、ミノのように程良い噛み応えがありながら、サクッと歯が通るのがガツ。焼きとん好きなら外せない一品です。塩加減も良し。食べながらニヤニヤしているのが自分でも分かります(笑)。やっぱり、下町酒場の王道は焼きとんです。

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 替中身(160円)を注文しながら「タン」と「カシラ」を追加。関東でタンと言えば豚タンで、一番人気を誇るのが「カシラ」(豚のこめかみ)です。その味を噛みしめながらホッピーで流せば、幸せな気持ちが広がっていきます。同時に気持ちも大きくなってきたので、程々に切り上げて2件目に行くことに。そして、アメ横ファンなら誰でも知っている「肉の大山」を覗きます。焼き場の前は立ち飲みスペース。焼き場の奥はレストラン。当然チョイスは立ち飲みスペースです。

 注文は「つくね(100円)」と「かわ(100円)」。「つくね」は軟骨を叩いたものが練り込まれていて、そのアクセントが美味。「かわ」は、店によって、カリカリに焼いたものと、柔らかさを残したものに分かれますが、ここは後者。私の好みの「かわ」です。そして飲み物は「バイスサワー(300円)」。焼酎を紫蘇の炭酸ジュースで割ったもの。さわやかな風味が口の中に広がります。そして、肉の大山で外せないのが「やみつきメンチ(100円)」。値段の安さもさることながら、あふれ出る肉汁がたまりません。さすが、肉屋が営業する店。名前の通り、やみつきになること間違いありません。

 さて、仕上げは、肉の大山から歩いて数メートルのところにある「神田達磨」の「たい焼き(140円)」。女性を中心ににぎわう店で、夜でも、ひっきりなしにお客さんがやってきます。私は、飲んだ後に甘い物を食べることは滅多にないのですが、何だかクリスマス気分も手伝って衝動買い。薄い皮に包まれた熱々の餡子と、パリパリの羽を楽しみました。久しぶりに堪能した上野の夜。やっぱり、自分にはおしゃれな店ではなく、こういう場所が一番だと再認識した夜でもありました。

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【美酒佳肴】毎日でも通いたい

焼きとり かい
山梨県甲府市丸の内2-1-7

甲府駅から徒歩2分。南口を出て駅前通りを右へ。最初の路地を左の曲がると表れる路地裏の飲み屋街の中にある。B級と「吉田類の酒場放浪記」をこよなく愛する呑んべ向けのお店。店主の暖かい人柄と、お酒好きが感じられる店内の空気が心地よい。

文・写真/中倉一志

 アウェイ取材の目的のひとつは、その町の普段着の空気を直接吸うこと。観光客向けの店や、名物をそれなりの値段で出す店ではなく、地元の人たちが、普段着のままで通う店へ行くのは、そうした理由です(経費的に高級店は厳しいという個人的な理由もありますが…汗)。ある程度の下調べはするものの、基本的には、その場の雰囲気で飛び込むのが原則。当たりもあれば外れもありますが、中には、何度も通いたいと思う店と出会うことがあります。そのひとつが甲府駅前にある「焼きとり かい」です。

 この店と初めて出会ったのは昨年のアウェイゲーム。路地裏の飲み屋街をふらふらと歩いている時に見つけました。見るからにB級なお店でしたが、暖簾をくぐって大正解。店内は「コの字型」のカウンターだけですが、何とも言えない暖かな雰囲気と、大将のお酒好きが伝わってきます。大将が、どことなくなでしこジャパンの佐々木監督に似ているのも好高感度が上がった理由のひとつでした(声はそっくり)。「この店に通いたい」。そして、今年も行ってきました。

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 店名には「焼きとり」とありますが、壁に張られたメニューは無国籍。焼き鳥はもちろん、刺身もあれば、イタリアンもあります。お酒も日本酒から、ビール、ホッピー、焼酎、ウイスキーと何でもござれです。まずは、黙って座ると出される2種類のお通しを肴に生ビールを飲み干し、そしてホッピーと最も相性が良いとされているキンミヤ焼酎(甲類)とホッピーのセットを注文。やや濃い目に作って喉に流せば、キンミヤの柔らかな味がホッピーと絶妙なハーモニーを醸し出します。

 そして、いろいろとあるメニューの中から「馬の煮込み」をチョイス。ほどなく、大ぶりにカットされ、柔らかく煮込まれた馬モツが運ばれてきます。牛モツほどの濃厚さはなく、比較的あっさりとした味ですが、程よい噛み応えのある煮込みは美味。その塊を味わいながらホッピーで喉を潤せば、至福の時がやってきます。そしていつの間にか、大将と飲み屋話。話題がヴァンフォーレ甲府になったところで、「そう言えば、一度来たことがあるよね」と大将。1年前の、たった1回の訪問を覚えてくれていたようです。

 程よく酔っ払ったところで締めの肴は赤ウインナー。昭和世代には忘れられない味です。粗挽きウインナーのようなプチプチとした食感もなく、肉々した味もない、ありふれた味の魚肉ソーセージですが、子ども時代を昭和で過ごした世代にとっては、これこそがウインナー。その味が懐かしい思い出とともに口に広がっていきます。生ビール、濃い目のホッピー3杯と肴で2,000円台というリーズナブルな値段も魅力。店が醸し出す雰囲気も相まって、毎日でも通いたい店です。「来年も必ず来ます(もちろん、J1の取材で)」。そう約束して店を後にしました。

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【美酒佳肴】昭和が香る松山の酒場

居酒屋「なだ」
愛媛県松山市湊町5-3-1

松山市駅から歩いて30秒。ありふれた店だが、ひとつひとつの料理に親父さんの腕の確かさが感じられる。地元の酒好きのおじさんたちの方言を聞きながら飲む酒は、心も体も暖かくしてくれる。


文・写真/中倉一志

 アビスパを追いかけて日本中を旅するようになってから9年目。観光客目当てではなく、地元の人たちが集まる店を覗いて歩いているうちに、お気に入りの土地や、お気に入りの店ができるものです。その中のひとつが松山。昭和の色を濃く残す町は、「3丁目の夕日」世代の私にとっては、どこか懐かしく、そして心が落ち着く町です。今回は2年ぶりの訪問になりましたが、足を運ぶのを、とても楽しみにしていました。もっとも、試合を取材に行く気は、さらさらありませんでしたが…(汗)

 さて、試合を終えて松山市駅へ。目当ては松山に行ったら必ず立ち寄る居酒屋です。その名は「なだ」。何か名物があるわけでもなく、特別、地元を感じさせるものが出るわけでもありません。お酒好きが集まって、普通の肴で、思い思いに杯を傾ける店。いわゆる「○○○の酒場放浪記」に出てくるような、地域のおじさんたちに愛される店です。こういう店は1人で行くのに持ってこい。暖簾をくぐって、常連さんの邪魔をしないようにカウンターの一番端へ腰をおろします。

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 肴は、この店で必ず頼む「ほーたれ天」。ほーたれとカタクチイワシのこと。何の変哲もない肴ですが、サクッと揚がった衣と、口の中に広がるイワシの香りの絶妙なコンビネーションが、親父さんの腕の確かさを感じさせてくれます。そして、追加は春らしくタケノコの煮付け。タケノコのシャキシャキした食感と、タケノコ本来の味を大切にする薄味の味付けに思わずニヤリ。そして、芋焼酎を流し込みます。至福のひと時。ほんの数時間前に、とんでもなく嫌な思いをしたことなど、すっかり忘れさせてくれました。

 そして締めは、行くたびに気になっていた「中華そば」。関東での生活が長かった私にとって、中華そばと言えば、澄んだ醤油味のスープが目に浮かぶのですが、こちらは、やや茶色く濁った豚骨醤油のスープ。飲んでみるとイリコの味を感じましたが、それは四国ならではなのかも知れません。どちらかと言うと、徳島ラーメンを、もう少しあっさりさせたようなラーメン。美味しくいただいて、お店を後にしました。

 さて、もうひとつ松山のお店の情報を。それは、銀天街という大きな商店街の路地に入ったところにある「ことり」と「アサヒ」というお店。両店ともに、メニューはアルミ鍋に入った「鍋焼きうどん」と「いなりずし」しかありません。しかも、特別な材料を使っているわけでもなければ、特別な工夫もされていません。いわゆる、お母さんが台所で作ってくれた普通の「鍋焼きうどん」。けれど、これが何ともいいんです。両店ともに、開店と同時にひっきりなしにお客さんが足を運んできます。こういうお店が長い間続いているのも、松山の良さなのかもしれません。

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