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十文字を破ったバニーズ、なでしこ2部との昇降格プレーオフへ

西森彰=取材・文

プレナスチャレンジリーグ・1~4位の順位決定戦は、9月30日(土)、最後に残った1試合が行われた。京都サンガのホームゲーム終了後、西京極総合運動公園陸上競技場のピッチに、なでしこリーグ2部9位チームとの入れ替え戦への出場権を賭けるのは、バニーズ京都SCとFC十文字VENTUSの2チーム。WEST、EASTの1位チームだ。

本来、このゲームは、前々週の9月16日に行われる予定だったが、台風接近による悪天候で、試合開催が順延になっていた。同日、予定通りに行われた、もう1試合で、首位の静岡産業大学磐田ボニータが、大和シルフィードを破って3連勝。なでしこリーグ2部への自動昇格を決めていた。チャレンジリーグWESTの序盤は世代交代もあって低調な戦いで、一時は昇格どころか最下位争いにまで巻き込まれていた静産磐田。リーグの折り返し地点を過ぎて最下位を経験したチームが昇格したのは、史上初めての快挙だ。



バニーズ、十文字ともに、この試合に勝つだけでは足りない。翌週に行われる、吉備国際大学シャルムと岡山湯郷Belleの岡山ダービーを制したチームとの入れ替え戦に勝つ必要がある。だが、まず目の前のこのゲームを勝たなければ、そこに立つ権利も得られない。

キックオフから、イニシアチブを握ったのはバニーズ。4-2-3-1の陣形から、トップの西川樹、両ウイングの吉田早紀、佐藤莉奈がラインの裏を狙い、十文字のゴールを脅かす。「ウチは前の3枚次第。そこで勝っていれば、どんどん勝負してもらい、勝てないようであれば後ろから作っていきます」と澤田由佳。23分には、狙っていたスルーパスから西川のシュートを引き出す。

「相手のセンターバックとこちらの3枚を比べた時に、『スピードでは分があるんじゃないか』と思っていました」と千本監督。ショートパスをつないでいくだけでなく、割り切って裏にも蹴る。出足のいい寄せもあって、十文字に十分な体勢でのビルドアップを許さない。43分にゴール前の守備ブロックを、楔のパスに林咲希が絡んで、さらに吉田へ。シュートは枠を外れたが、バニーズらしい攻撃だった。

さらに、前半終了直前、西川がペナルティエリア右外でファールを受けて、FKをもらう。キッカーは酒井望。千本監督の目には、力が入り過ぎているのがありありと見えたという。押し気味に進めているゲームで無得点。もちろん、ゴールが欲しい局面だったが、千本監督は「たぶん、フカすだろうな」と感じながらも、口をつぐんだ。

蹴る直前にベンチから「リラックスしろ!」と言っても、集中している選手のメンタルを乱すことになり、選手も失敗の原因をそちらに求めてしまう。それよりは、頭が冷静なところで指摘するほうがいい。

指揮官が感じたとおりに、酒井のキックはゴールを大きく外した。ハーフタイムに戻ってきた酒井に、千本監督は伝えた。「こんな重要な試合だから、いつもよりアドレナリンが出ている。いつもよりもキックが強くなっているぞ」。これが後半にモノを言う。

51分、バニーズは再び、右コーナーキックのチャンスを得る。キッカーは酒井。今度のキックは、十文字のGK・高橋純佳が出られない、ファーサイドの絶妙のポイントへ落ちる。セットプレーで上がってきていたDFの草野詩帆が詰めて、待望の先制点が生まれた。65分にバーを直撃する決定機も、そして試合を決める澤田の追加点も、酒井のコーナーキックからだ。「そういう意味では、いい仕事をしましたね(笑)」と自画自賛した千本監督。選手の心理まで考えた、采配が当たった。



十文字の柴山桂監督にしてみれば、前半を耐えて無失点で乗り切ったのだから、思い描いたプランから、そう遠くない展開だったはず。後半開始時点から右サイドに蔵田あかりを投入し、勝負をかけたが実らなかった。たいていの初顔合わせのチームにとって、蔵田のスピードはやっかいなものだが、バニーズのイレブンはそこまで慌てなかった。

「相手のベンチに高校生選手がいる。後半からピッチに出てくるだろう。そして、たぶん、この位置でこういう選手起用になるだろう。そうしたところまで、選手には伝えていました。蔵田選手については、おそらくサイドで出てくるということで、その特徴をウチのサイドバックに伝えていました」(千本監督)

この1~4位決定戦進出が濃厚になった段階から、バニーズの戦いは始まっていた。十文字のリーグ終盤戦には、越智健一郎ゼネラルマネージャーが「チームでいちばん下っ端なので(笑)」と自ら足を運び、その戦いぶりをビデオ撮影した。これをもとにして、千本監督が解析したデータを選手に伝えた。

「手数をかけてつなぐ」チームのイメージからはやや遠い、ライン裏に走る西川らをターゲットにしたロングフィードも「西川と相手CBのスピード差を考えて」のもの。さらに、守備では「トップ下の位置まで落ちてきた小林(一歩)選手が前を向いて、そこから斜めのパスで蔵田選手を走らせる。これがいちばん、嫌な形」ということで、センターバックの前に置かれた澤田も、いつも以上に、守備へ意識を置いてプレーした。

もちろん、試合前にいくら準備していても、実際にできるかどうかは別問題だ。「実戦の中で、試合前に指示されたとおり、プレーするのは、決して簡単じゃないんです。モニターに映る映像と、ピッチ内では視野も変わってきますし、感覚も違いますから。それをやりきった選手をほめてほしいです」と指揮官は選手を称えた。



2年前までは、パスはつなげるけれども、それを封じられたときに次の選択肢がなかった。それが、対戦相手の特徴を見極めて、自分たちの有利な局面で戦えるチームになった。「上のカテゴリーから来た、特徴のある選手たちが増えてきました」(澤田)。プレー面だけでなく、戦術理解度ひとつとっても、成長の度合いが見て取れる。

この日のスタンドには、堺でデーゲームを戦った吉備国大、翌日に試合を控える湯郷ベルの関係者も、姿を見せていた。10月7日(土)の岡山ダービーで敗れたチームが、バニーズとの昇降格プレーオフを戦う。スカウティングをしながら彼らの目に、この日のバニーズはどう映っただろうか。

「なでしこリーグ2部には、自分たちのようにつなぐスタイルのチームは少ないはず。相手が腹を立てるくらいにボールを回したい」(澤田)

そのコメントは奇しくも、数分前に千本監督が口にしたものとほぼ同じ。チームとしてプレーオフへ臨む姿勢は固まっている。最後の戦いでも、バニーズの持ち味を発揮できれば、なでしこリーグ返り咲きの可能性は大きくなるはずだ。

リトルなでしこ、3位決定戦を制して、ウルグアイへの道を切り拓く。

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西森彰=取材・文・写真


U-16女子アジア選手権の最終日は、チョンブリスタジアムでのダブルヘッダー開催。アジアチャンピオンを決める決勝戦と、アジア発ウルグアイ行きの最終切符がかかる3位決定戦である。

韓国との準決勝でPK負けを喫した日本は、決勝戦の3時間前に行われる3位決定戦に出場する。優勢に進めていたゲームでリードを追いつかれ、延長戦なし、即ABBA方式によるPK戦というレギュレーションも不利に働いた敗戦だった。そのショックが、小さいはずがない。しかし、準決勝から中2日で行われるスケジュールが、気持ちを立て直す時間も十分に与えてくれない。

さらに、バックスタンドの左側を赤く塗りつぶし、横断幕も張り出した中国サポーターの集団から、心理的な圧力がかかる。太鼓に合わせた手拍子と「加油! 加油!」「勝利! 勝利!」の大合唱は、見ていてもなかなかの迫力だった。それでも、今回のチームの一員でもある、宮本ともみコーチを初め、青いユニフォームに袖を通した先輩たちは、どんな状況下でも自分たちの力を遺憾なく発揮してきた。

そうした強さは、今回のリトルなでしこにも求められる。幸い、選手たちの精神面の成長は著しかった。アウェームードが漂うピッチで、木下桃香と後藤若葉が互いの背中に気合を入れ合う。その光景を見た周囲の選手からも、笑顔がこぼれていた。

「(韓国戦のPK負けから)気持ちを切り替えるのにはすごく時間がかかったのですが、チーム全員で声を掛け合って、この2日間を乗り切りました。韓国戦の次の日からは、チームとしても切り替えて練習することができました」(木下桃香)。

リトルなでしこは、鮮やかに蘇生していた。



世界大会のチケットがかかった大一番。楠瀬監督は、守備陣に北朝鮮戦の後半と同じメンバーを起用してきた。キャンプでのトレーニングマッチも含めたCBの起用を見ていくと、指揮官の優先順位はキャプテンの松田紫野が最上位。そのパートナーとしてストッパータイプの長江伊吹、またはビルドアップに長じた渋谷巴菜のどちらかで、松田を中盤に上げた時は長江と渋谷のコンビというケースが多かった。

「センターバックでは後藤の他に、長江、渋谷らもいるのですが、人に強いという部分とコンディションがいいということで、起用しました」(楠瀬監督)

中国には、北朝鮮以上とも思われる筋肉質な、アスリート体系の選手が多い。中でも、FWのTANG HANは、上背があるだけでなく、走力にも優れた、中国最大の得点源。これを封じるには、対峙するDFに、心身両面での充実が求められる。

長江、渋谷は、韓国戦、北朝鮮戦で自分が絡んだプレーで失点をしている。韓国戦が終わった日は、食事ものどを通らなかった選手もいたほどだから、この3位決定戦ではよりプレッシャーがかかってしまうだろう。北朝鮮の強力2トップを相手に渡り合って自信をつけ、韓国戦をパスしていた後藤が、このゲームについてはベストの選択だった。

最終日まで残った他の3チームは、完全に主力を固めて、大会に臨んでいた。日本の相手になる中国は、フィールドプレーヤーの10人が5試合続けての先発だ。固定メンバーで戦っているアドバンテージとして、試合の中でのスムーズな陣形変更などはある。ただし、その先発する10人が全て。試合前の練習を見ていても、サブメンバーには年代別とは言え、代表クラスにしてはかなり危なっかしいレベルが多かった。

心身のコンディションを見極めて選手を起用できるのは、他のチームと比べて、日本の選手層が厚かったこと。また、グループリーグから、選手をローテーションしていたからだ。これは楠瀬監督に言わせると、単純に疲労の蓄積を避けるだけでなく、選手のポテンシャルを見極める狙いもあった。

「出場時間が少なかった選手もいたし、それはかわいそうなのですが、真剣勝負ですから、(パフォーマンスが)ボーダーラインを超えないと試合に出られない。温存しているとか、次の試合を計算しているということではなく、ある一定のラインを超えている選手に経験させるためにやっています」(楠瀬監督)



中国のキックオフで試合が始まる。右SBの善積わらいが高い位置で攻撃に加わるなど、最初の10分は、日本のペースで推移した。いくつかのフォーメーションを持つ中国は、9番のSHEN MENGYUをアンカーに置いた4-1-4-1を選択。体力面で不安があったのだろう。序盤はブロックを作った消極的なスタートだった。それが、日本にミスが続いた10分過ぎから、徐々に牙をむき始める。

4-2-3-1へ陣形を変えて最終ラインの前にダブルボランチで網を張った中国は、日本のパスを引っ掛けて、トップ下に入ったコントロールタワー、8番の。広い視野でパスコースを見つけ出し、加速すると自分で持ち上がってシュートを放つ。さらに、瀧澤千聖、善積と攻撃的選手が揃った日本の右サイドに、中国のZHAN LIN YANが侵入していく。

日本は、北朝鮮戦同様に厳しい時間帯を、大場朱羽が中心になって防戦。スタメンに抜擢されていた後藤も、TANG HANに自由を許さない。そして、伊藤彩羅、富岡千宙の左サイドとボランチで辛抱強く、組み立て直そうとしていく。北朝鮮戦に続いて、ビルドアップの重要な経由地となった伊藤は言う。

「DPRコリアとの試合は、自分のところで詰まってしまって、良い店舗を作ることができなかった。今日の中国戦は、きついパスがきても、自分が回避できたので、チームを助けられたかと思います。自分は、人が密集しているところが好きで、相手が来ているくらいのほうが好き。相手が私のサイドの守備に重心をかけてきているのはわかっていたので、それを剥がせればチームを楽にできると思っていました」

伊藤は、ボランチの木下桃香、中尾萌々と連携をとったかと思うと、パスコースを切ろうとする相手の裏をかいて自分で持ち上がる。さらに、減速してマッチアップしている相手の足を止めると、その横を攻めあがる富岡に預ける。プレスをかけようとする中国の選手は翻弄され、ただでさえ残り少なくなっているスタミナを消耗した。

「味方が近くにいればそこを使って、詰まっているところを自分のところで回避できたら、と。ボランチも落ちてきてくれているし、そのあたりをうまく使って、さらに自分でも前を向こうと意識していました。サイドバックが詰まった時にどれだけ助けてあげられるかが重要だし、逆サイドにボールがある時にはそこの絞りも怠ってはいけない。だから走力が必要になるんですが、ボールも集まるし、楽しいポジションだと思います」



左サイドに相手が引きつけられると、右サイドも活性化する。35分、素晴らしい出足で相手のパスをカットした善積から、瀧澤へ。大きく広がり始めたスペースをドリブルで切り裂いた瀧澤はそのままシュート。さらに3分後にも中尾萌々、田中智子、善積とつないで、大澤春花がシュート。ゴールには至らないが、主導権を奪い返す。

前半最大の決定機はハーフタイム直前に訪れた。左CKの場面で中国の守備体系が整っていないと見た伊藤が、キックのために駆け寄ってきた富岡へショートコーナーの格好でパス。リターンを受けるとファーサイドにクロスを送る。ボールをコントロールしようとする大澤春花を中国のDFが倒してPKを獲得したのだ。

PKを得た大澤が、そのままペナルティスポットへ進み出る。しかし、何とこのキックはゴールの右外へ逸れてしまう。大きなショックを受けたのではないかと思われるハーフタイム。楠瀬監督は、選手にこう声をかけた。

「PKには縁がないんだな。切り替えて、ちゃんとやろう」

15分間で気持ちの切り替えを終えたのだろう。PK失敗のダメージなど微塵も感じさせず、後半もリトルなでしこが優勢を保った。逆に燃料切れを起こした中国の選手は、気の毒なほどに動けなくなっていた。教科書通りのパス交換、そしてドリブルで仕掛けていく。「立ち木を交わすように」という表現がピッタリだ。決勝点が生まれたのは55分。田中と大澤のふたりで作ったゴール前のチャンスを、中尾萌々がきちんと決めた。

その直後、失点でスイッチの入った中国に左サイドから攻撃を許し、中央に入れられたボールのクリアが、TANG HANの前にこぼれる。シュート。しかし、ここもまたGKの大場が止める。大きなセーブだった。

キャプテンの松田は「今日は、みんなが強い気持ちを持って戦ってくれて『自分もしっかりやらないと』と思いました。先制点は嬉しかったのですが、まだ残り時間があったので『切り替えてやらないと』と思いました。焦りはあったんですが『みんなで落ち着いてやろう』と」気合を入れ直す。中国の抵抗も終焉に近づいていた。

前半も、途中で足の痛みを訴えていた中国のCB、HUANG XIAOXUが、再びピッチに倒れ込んでしまう。しばらく状況を見守ったGAO HONG監督も、さすがに諦めて、ZHOU MENGQINGを送り込んだ。彼女は最初のプレーで、ほとんどプレッシャーのない状態から、GKへのバックパスを選択してしまう。大きすぎる先発と控えの力量差。ここで事実上、勝負は決した。



「厳しい戦いだったので、もうちょっと最後の精度を決めたり、チャンスをものにできたら、もう少し楽にできたのでしょうが、中国の固いディフェンスとカウンターに苦しめられました。それでも何とかやってくれた選手たちをほめたいと思います」(楠瀬監督)

アディショナルタイムに何本かセットプレーを与えて肝を冷やしはしたものの、スコア以上の完勝。リトルなでしこは、ウルグアイへ向かうアジアの3枠に滑り込んだ。最大目標のアジア制覇は果たせなかったが、この結果を楠瀬監督は「順当」と評価している。

「まだ、日本には優勝する力がなかった。韓国戦でPK戦にもつれこんだのも、今日の中国戦で2、3点目をとれなかったのも、日本の力だと思います」(楠瀬監督)

グループリーグのバングラデシュ戦もそうだったし、この中国戦の後半も、実に多くのチャンスを作りながら、その都度、これを外した。決定力不足についての認識点は、選手も同じだ。

「今大会、W杯出場を決めることはできましたが、個人として結果を残すことができなかったので、これから1年間、自チームに戻って日々精進していきたい。W杯ではもっと自分がチームを勝たせられる選手、点を決められる選手になりたいと思います」(伊藤)

決勝点を挙げた中尾も「得点は素直にうれしいですが、その前の韓国戦などで決めるべきところで決めておかないといけないと思いました」。喜びも半ばといったコメントを残している。

では、今大会で得た収穫は何か。

「準決勝を終えてからの、この2日間、本当に苦しい2日間だったと思うのですが、その時間ですね。落ち込みはすごく大きかったのですが、そこからしっかりと立ち直って、最後の試合を失点ゼロで終わった。チームのやるべき仕事をしっかりと話していましたし、最後の2日間の成長は大きかったと思います」

世界で戦えるだけのハートは備わった。後はチームの様々な部分を今以上に磨き上げ、選手個々がベースアップを図り、来年のウルグアイでなでしこの花を咲かせてほしい。

最大のライバルを撃破したリトルなでしこ、全チーム中唯一の3連勝を飾る。

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西森彰=取材・文・写真

苦しい状況からの復元力が足りなかったチームが、精神的に大きく成長していることは、試合前開始の30分前から見て取れた。

自軍ベンチ付近で円陣を組んだ日本チームから、大きな掛け声が上がった。それは逆サイドにいた北朝鮮の選手までがびっくりして顔を見合わせ、笑いの渦を起こすほどの大声だった。宮本ともみコーチが指示するウォーミングアップメニューが始まってからも、日本の選手からは明るい声が絶えない。

東西に分かれた1次合宿に始まり、中国遠征を消化したあとの御前崎合宿に至っても、チームはシャイな集団だった。練習終了時の挨拶も、周囲に促された選手が、聞き取れるかどうかの小さな声で行う。チームを率いる楠瀬直木監督は、彼女たちのサッカー選手としての素質、将来性よりも、おとなしすぎる気性を気にかけていた。

「『チームで声を出そう』というのは、監督からも言われ続けていますし、自分たちでも『もっと声をださなければいけない』と話し合っていました」(木下桃香)

若いチームは変われば、変わる。いや、大化けするということか。



U-16日本女子代表=リトルなでしこの、グループB1位抜けを賭けた戦いは、立ち上がりから相手のプレッシャーに苦しんだ。フィジカルに優れた選手が多い北朝鮮は、キックの質もパワフルそのもの。6分、日本の横パスをカットして左に展開、KIM YUN OKがオープニングシュートを放つと、その後も、強烈なキック力を武器に日本を揺さぶる。

「相手は強いので、計算をせずにやってみよう。私たち日本の現在地がどうなのか。ひょっとしたら3点差をつけられるかも知れないけれど、とにかくやってみようという感じでした。もちろん、勝利を狙ってはいましたが、私が思っていたよりも、相手が強かった。外から見ているより、実際にやってみたほうがずっと強かった」(楠瀬直木監督)

劣勢の中、何とかボールを保持していられるのは、富岡千宙、伊藤彩羅、ボランチに入った松田紫野の3枚が絡む左サイドだけだ。このエリアで2、3本パスをつないで落ち着きを取り戻し、耐えるのがやっと。相手の速い寄せに対抗しようと木下桃香が強いパスを供給しても、守備にエネルギーを奪われている選手が多く、ボールロストにつながってしまう。

「前半は、相手の勢いに押されていたので、なかなか後ろでボールを回せなくて、どうしても前に、前にと行ってしまった。チーム全体でここは耐えようと話し合っていました」(木下)

北朝鮮のシュートを浴び続けた日本は、18分、こぼれ球への出足で負けてKIM RYU SONGのクロスを許し、最後はKIM KYONに決められて、ついに失点する。それでもピッチ内の選手は「ルーズボールを相手に拾われてクロスを上げられ、シュートにつなげられてしまっていた。でも、『ここを乗り越えたら自分たちのペースができる。必ず点は取れる』と」(松田)プレーを続けた。我慢の時間帯で、負担を強いられたのはCBの後藤若葉、渋谷巴菜、そして誰よりもGKの大場朱羽だった。

「自分の力だけではなく、前にいる選手たちが連携しながら、体を張ってプレーしてくれていたので、コースが限定されていました。完全にフリーで打たれるようなシーンはほとんどありませんでした」(大場)

大場は、度重なるピンチで好セーブを連発し、追加点を許さない。守護神がしっかりと自分の役割を果たしたことが、逆転劇への布石となった。



ハーフタイムのロッカールームで、楠瀬監督は選手に、前向きな言葉をかけた。「もっと自信を持ってボールを回していこう。後半は自分たちのサッカーをしよう」。さらに選手同士の距離感など、具体的な指示を加えて、チームの体勢を立て直した。

相手FWの圧力によって高さを保てなかった最終ラインを、木下がアンカーの位置まで下りて助ける。後方からのビルドアップができるようになり、背後を気にしてラインの押上げが遅れていた右SBの善積わらいも積極的にオーバーラップ。これに呼応して山本柚月も仕掛ける。その他の選手も、細かく動いてポジションを取り直し、相手と相手の間でボールを受ける。前半とは段違いにパスが回り始めた。

「前半は、DPRコリアの勢いに押されてしまうような形になってしまい、自分のサイドでほとんどチャンスを作ることができませんでした。ハーフタイムに監督からの指示もあって、後半はスペースを使うことができたのでよかったと思います」(山本)

ブロックを作って自陣を固め出した北朝鮮。そのガードの隙間を縫うように、日本の選手がアタッキングエリアへと侵入していく。

「ハーフタイムに楠瀬監督から『自分たちのサッカーをしよう』という話がありました。後半は相手の勢いが弱まってきて、前半、できなかった縦パスの狙いが生まれていました」(木下)

59分、北朝鮮が次戦以降を考えたか、エースのKIM RYU SONGを下げる。その3分後、日本が疲れの見え始めた瀧澤千聖を田中智子に交代、キャプテンの松田をボランチから最終ラインに下げて、木下の横に中尾萌々を投入する。この2回の交代で、攻める日本と守る北朝鮮の流れはさらに鮮明になった。



そして76分、コーナーキックからの混戦で、ことごとく日本の選手が先に反応。こぼれ球をシュートに結びつけていく。3連続シュートのトリを飾ったのは木下。チーム最年少のシュートが北朝鮮のゴールネットを揺らして追いつく。大会前に指揮官が「育成年代の選手にこういうことはあまり言わないのですが、将来的には、なでしこジャパンで阪口夢穂の後継者として活躍してほしい選手」と指名されていた17番だ。

「年上とか年下とかは関係ないと思いますし、自分の良さを出していきたい。この年代の代表活動で点をとれたり、チームに貢献出来たりするのは嬉しいことですし、だからこそもっと上のカテゴリーに行っても、チームの中心であり続けたいと思います」(木下)

「相手に楽をさせるな、ここがチャンスだ」という指揮官の檄に応え、日本の選手は同点にもひと息入れることなく、北朝鮮を消耗戦に引きずり込んでいく。「自分が苦しい時は、相手も苦しい」というのが勝負の鉄則。楠瀬監督がローテーションで選手起用する日本に対して、3試合の先発がほぼ同じ顔ぶれの北朝鮮は、より疲労の色が濃い。赤いユニフォームの寄せはワンテンポずつ遅れて、いつカードが出てもおかしくない苦し紛れのアフターチャージが増えてきた。

試合も終盤の残り5分というタイミングで、楠瀬監督は大澤春花に代えて加藤ももを3枚目のカードとして投入する。その直後だった。蘇生した日本の右サイドから北朝鮮ゴール前にクロスが入る。ふたりのアタッカーがこれに飛び込み、その動きに幻惑された北朝鮮GKの手をすり抜け、ボールがゴールへ吸い込まれる。試合後に「シュートではなくパスでした」とはにかんだ山本のキックは、値千金の決勝点となった。



試合終了のホイッスルと共に「うっし!」と力強い声を上げ、右手でガッツポーズを3回繰り返した楠瀬監督。

「中国も韓国もいいチームだし、次にあたるのがどちらでもいいと思っていました。グループで2位だったぶんだけ、私たちのほうが意地のようなものがあったのかも知れません。正直、今の彼女たちにとっては、満点(のデキ)だと思います。これだけ強い北朝鮮を相手にして、耐えて、我々のスタイルで勝てたのですから。北朝鮮に勝ったのは大きな自信になります。これを続けていくことが重要だと思います」(楠瀬監督)

前回のチームから数えて、公式戦4度目の対戦で初めて北朝鮮から白星を挙げた指揮官も、選手たちに負けず劣らず、意地があったのだろう。勝利をひとまず喜んだ楠瀬監督だが、ウルグアイ行きのチケットを勝ち取る上で、この勝利が何かを約束してくれるわけではないことも、重々承知している。

「後半は相手の足が止まっていました。実際のところはわかりませんが、向こうが準決勝以降のことを考えた部分があったのかも知れません。今日はグループ1位と2位を決める以外に何かがかかったゲームではありませんし。(北朝鮮は)本当はもうひとつ、ふたつ上の力を持っているでしょうから、これで浮かれることなく、次の試合に臨んで、決勝でまた本気の相手に勝てるよう、頑張りたいと思います」(楠瀬監督)

それは、選手も同じ。「まだ決定力が課題。練習からゴールへの執着心をもって取り組んでいきたい」と山本が言えば、木下も「今日の試合の疲れをしっかりとって、次の準決勝に備える。もっとコミュニケーションをとっていきたいと思います」と視線は準決勝に向いている。



その準決勝は、今日、9月20日(水)。グループAの中国、韓国の試合間隔が中3日あるのに対して、グループBの日本、北朝鮮は中2日と1日分のハンデがある。北朝鮮は、自軍同様に固定メンバーで戦い続ける中国と夕方16時(日本時間18時)からのゲーム。日本は、ラオス戦で一息入れた韓国と19時半(日本時間21時半)からのナイトマッチ。どちらが当たりくじだったのかは、神のみぞ知るところだ。

「前回はワールドカップには行けましたけれど、決勝で負けてしまっていたので、今回は最後まで勝ち切って本大会に行きたい」(大場)

現時点で言えるのは「全勝優勝の可能性があるのは日本だけ」という事実である。


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