INSIDE WEB

 

ジェフL、なでしこリーグカップを制し初タイトル

優勝し、サポーターとともに喜ぶジェフLの選手たち
優勝し、サポーターとともに喜ぶジェフLの選手たち

西森彰=文 金子悟=写真

2017なでしこリーグカップ1部は、A、Bグループを首位通過した日テレ・ベレーザ、INAC神戸レオネッサが敗退。ジェフユナイテッド市原千葉レディースがI神戸を、浦和レッズレディースが日テレを降し、決勝へ進んだ。

I神戸時代に「同一シーズン四冠」を手にした石原孝尚監督を初め、選手の多くもなでしこリーグ優勝経験がある。このリーグカップに入ってから5勝4分け(準決勝のPK勝ちを含む)と無敗。猶本光、北川ひかるら離脱していた代表組が合流し、戴冠へ向けて体勢は整っていた。

対するジェフLは、リーグカップ9試合で5勝1分け3敗。「代表選手が抜けたベレーザ(グループリーグ2節)と当たったり、組み合わせなどラッキーな部分がありました」(三上尚子監督・ジェフL)。女子トップチームは無冠(なでしこ2部での優勝経験はあり)で、昨季もリーグカップファイナルに進みながら、日テレの前に0-4の大敗を喫している。そこから菅澤優衣香ら代表クラスの選手を含めて、主力が数人抜けていた。

ジェフLの関係者でさえ、試合後に「正直、勝てないだろうと思っていた」という声をこぼしたほど。3千人を超える西が丘の観客も、大方が「浦和有利」と踏んでいただろう。そんな中で、ジェフLのキャプテン・上野紗希は確かな手ごたえを感じていた。

「リーグ戦の途中から状態が上がってきて、カップ戦に入る頃には勢いが出ていました。去年、0-4で負けたことの悔しさもあって、決勝進出が決まった時にも『今年こそ』とチームは盛り上がっていましたし、今年の勢いは本物だと思っていました」(上野)


前半、競り合うジェフL・瀬戸口(左)と浦和・猶本
前半、競り合うジェフL・瀬戸口(左)と浦和・猶本

キックオフから、浦和が安藤梢、菅澤優衣香のふたりを有効に使いながら、ジェフLのゴールへ迫っていった。特に安藤は浦和復帰後、最もコンディションが良く見えた。「カップ戦を戦って、周囲も自分のプレーを理解してくれて、フィットしてきたと思います」(安藤)。

ジェフLの選手は赤いプレッシャーへ、忍耐を強いられた。「正直、前半はどうなるかと思いました」と瀬戸口梢。ボランチを組んだ鴨川実歩とは「筏井選手が先輩、猶本選手が後輩、『筑波大対決で負けられない』と話していた」そうだが、最終ラインとともに「中をしっかりと締める」という約束事を守りながら、守備ブロックを作り、劣勢の時間帯を耐えた。一見、浦和が攻勢をとっているように見えたが、シュートコースは狭められ、ゴールを脅かす有効打が少ない。

「キックオフから『圧倒してやろう!』と入りましたが、相手のほうが良かった。この決勝の舞台でイージーなミスが多すぎて、立ち上がりから相手にリズムを作られてしまいました」(安藤)。

双方、守備の出足は良かったので、スタンドから見ている分には、パスが引っかけられるのは仕方がないと思う。だが、タイトルを前にした緊張からか、マイボールをつなぐ段階で、浦和のパスが流れるシーンは、安藤が口にしたとおり、確かに目立っていた。


前半、ボールをキープするジェフL・深澤
前半、ボールをキープするジェフL・深澤

逆に、ジェフLは、いつになく、DFラインからのボールが前線に通った。

「クリアしたボールを結局、相手に拾われて攻められる。その繰り返しが自分たちを苦しめているというのは自覚していた。だから『少しでも自分たちがボールを持つ時間を増やそう』と」(櫻本尚子・ジェフL)最終ラインの選手たちは、苦し紛れのキックを減らし、つなげるところはつないでいこうとチャレンジした。

ベテランの深澤里沙ら、攻撃陣もこの思いに答えた。「いつも守備の時間が長いので、そこで失点しないという共通意識はできている。人数はかけられませんが、そこで攻め切る形もできていた。また、いつもはバタバタして蹴っちゃうシーンが多いんですが、今日は落ち着いてつなぐところはつないでいたと思います」(深澤)。好守に走り回る背番号10。その背中に、後ろの選手も奮い立ったという。

「前線で深澤選手が走ってくれたので、自分もサボれないと思って走った。攻撃陣はボランチや後ろのサポートが少ない中で、よくやってくれたと思います」(瀬戸口)。菅澤らが抜けたことを言い訳にさせないとばかりに、今季、加入した成宮唯も、中盤で駆け回り、ボールを引き出す。少ない人数で、切れ味鋭いカウンターが繰り出される。

浦和は、水も漏らさぬ姿勢で、きちんとこれに対応した。「リスクを減らし、失点さえしなければ、最後は自力のあるこちらが勝つ」。そんな声が聞こえてきそうなゲーム回しだったが、攻撃の迫力はいくらか減じた。

「少し慎重になっていた部分と、カップ戦の決勝なので失点しないようにコントロールをして、『行け、行け』になれない部分がある。最後の部分にもう少し人数をかけていれば得点はできたと思うが、ジェフのカウンターも鋭いので、後ろの選手はそのあたりをしっかり守ってという部分もあったと思うし、仕方がない」(石原監督)

後半に入ると、気温28度、湿度67%という気候が、両軍の選手を蝕み始める。90分トータル、あるいは延長戦のプラス20分も見据える浦和に対し、どこかで勝負に出る必要があるジェフL。選手交代でも早く決着をつけたいジェフLが先手をとり、浦和は石原監督が時間と戦況を確かめながら、新しい駒を投入していく。決着はもつれてはいたが、それでも浦和に六、七分の利があるかに見えた。


後半アディショナルタイム、決勝ゴールを決めて喜ぶジェフL・瀬戸口(中央)
後半アディショナルタイム、決勝ゴールを決めて喜ぶジェフL・瀬戸口(中央)

しかし、延長戦ムードが色濃く立ち込めたアディショナルタイムに、ドラマが待っていた。

浦和の前線へのパスをインターセプトした櫻本から、センターサークルの瀬戸口へパスが渡る。先に1点決めた側がタイトルを手にする状況を、千載一遇の好機と捉えて、ジェフLの選手たちが前に出た。ゆっくりとドリブルを開始した瀬戸口とともに、何と5人もの選手がボールの受け手として走り出したのだ。これぞ「走るジェフ」の真骨頂。

それまでしっかりと網を張っていた浦和の守備陣が、それぞれのマークに散らされ、僅かにほころびを見せた。ペナルティエリア手前まで持ち込んだ瀬戸口の眼前に、シュートコースが生まれる。

「あそこまで走るのもきつかったけれど、横には上野選手が走っていたはずだし、シュートのこぼれ球に詰める準備をしてくれる選手もいた。『みんなで運んだボールだし、このボールで試合を決めたら気持ちがいいだろうな』と」瀬戸口は迷わず、左足を振り抜いた。

気持ちのこもったボールは、右ポストの内側を叩き、ゴールネットを揺らした。試合の残り時間は1分。さすがに、そこから試合をひっくり返すだけの力は、浦和に残っていなかった。


後半、ドリブルで攻める浦和・安藤
後半、ドリブルで攻める浦和・安藤

敗れた浦和の石原監督は「優勝したかった。ロスタイムにああいう形で負けたのがすごく残念。成長を見せ、最後まで走り、戦ってくれた選手には感謝しています。今年、取り組んできたことにチャレンジしてくれた。交代出場した選手も含めて、圧力をかけてくれたと思うが、結果に結びつかず残念です」と敗戦の弁を述べた。

「一年の最後に一番いいゲームをしよう」を合言葉に戦う浦和。今は、前線からがむしゃらに仕掛けていく時期を経て、試合全体をコントロールしようとする過渡期だ。この日はカップ戦で無敗を続けた、リスクヘッジを優先させる、クレバーな戦いだった。

当事者の感覚はやや違う。「個人的なコンディション、調子は良かったと思いますが、チームを勝たせなければいけない」と、自身のパフォーマンスにも厳しいジャッジをした安藤は、厳しい言葉を絞り出した。

「ピッチ上で、全力でプレーして、表現しなければいけない。こういう決勝の舞台でチャンスと思った時に、(リスクを冒して)前へ出られるかどうか。もう一歩、二歩、球際で頑張れるかどうかというのは、本当に大事だと思います。この試合を『惜しかった』とか『逃した』で終わらせたら、成長しない。『全然、足りなかったんだな』と思わなければ、先につながらない」


浦和を破り抱き合って喜ぶジェフL・櫻本(右)
浦和を破り抱き合って喜ぶジェフL・櫻本(右)

女子トップチームで初のタイトルを手にした三上監督は「90分耐えて最後に訪れたラストチャンスを、みんなで決めて勝つという試合。よく粘って勝った。あまり実感はわかないんですが、選手も自分も優勝経験がない。本当にうれしいけれど『優勝は、慣れないな』という感じです」と感想を漏らした。

今季、指揮官がチームに掲げた目標は「リーグ戦10勝」。これは「昨季のリーグ成績、5勝5分け8敗の5分けを全て勝ち切る」という意志の表れだ。実際に、リーグ戦、リーグカップで合計20試合を戦い、10勝9敗。引き分けは一つだけだ。最後の局面で、全員がメリット、デメリットを天秤にかけて、前に出られたのも、これまでの戦いで染みついていたスタイルが影響しているはずだ。

前キャプテンの櫻本は、このチームの強みとして「自分たちの弱さを自覚していた点」として挙げた。今季が始まる前に、菅澤が浦和に移籍した。「これまで彼女に頼り続けていた点を考えて、自分たちでどうにかしなければいけないという気持ちになり、しっかりと足下を見ながら取り組めました」。シーズン途中では守護神・山根恵里奈も退団したが、もう、チームはブレなかった。

「優勝してここで燃え尽きるのではなくて、リーグで粘り強くやっていかないといけないなと。勝った喜びもあるんですが、リーグ戦にどう切り替えようというのが頭の中を占めています。しっかりとプラスの方向に持っていかなくては」と三上監督。選手も「来週、すぐに試合があるし、全然、優勝したって感じじゃありません」(櫻本)。

監督も、選手も、視線は次を向いている。最初で最後のタイトルとしないために。

I神戸を破った浦和が、Bグループ突破決定、マイナビはちふれに痛恨の一敗

0B7A5286(1).jpg
前線から相手を負う菅澤優衣香。FWから始まる守備は、今季の浦和の武器だ。

西森彰=文、写真


なでしこリーグカップのBグループは、第6節を終えて、INAC神戸レオネッサが勝ち点13で首位をキープ。これを2位浦和レッズレディース、3位のマイナビベガルタ仙台レディースが追っていた。

I神戸と浦和の勝ち点差は2、浦和とマイナビの勝ち点差は7で、一見すると断然の2強ムードに見えるが、マイナビの消化試合数は1試合少ない。この7節は浦和が苦手としているI神戸との対戦、マイナビは伊賀フットボールクラブくノ一と並んで最下位にいるちふれASエルフェン埼玉との対戦。浦和が敗れ、マイナビが勝てば、その逆転の可能性は大きくなる。リーグカップ10節の中でもカギになる2日間になった。

0B7A5091.jpg
浦和に復帰した安藤梢。途中交代で退いたが精力的な動きで勝利に貢献した。

まず、土曜日、2位の浦和が首位のI神戸を駒場陸上競技場で迎え撃った。立ち上がりから連動した守備を見せる浦和に対し、I神戸も時間とともに反撃を開始。今季新加入のチェ・イエスルから杉田妃和とつないで前線へ。最後のブロックは中島依美、大野忍、増矢理花ときれいに崩し切って先制点を奪った。だが、皮肉にもこの1点を境に、スローダウンしてしまう。

前半終了間際の44分、ロングボールの処理をDFが誤り、菅澤優衣香の同点弾を浴びる。決して好調とは言えない状態でも最低限の組織が保たれていたI神戸だが、この失点で崩れた。「そもそも、試合の入り方から良くなかった」とキャプテンの高瀬愛実は言う。さらに「決めるべきところで決めきれず、ミスから失点した。私のポジションは攻守両面に関わっているし、そのどちらでも責任を感じています」と続けた。

0B7A5539.jpg
先制点を挙げた増矢理花だったが、ここからチームはスローダウンしてしまう。

ハーフタイムに杉田と伊藤美紀を下げて、京川舞と福田ゆいを送り込んだ松田岳夫監督。さらに後半途中で道上彩花、仲田歩夢と起用したが、ピッチに入った各選手の気持ちとは裏腹に、チームバランスは悪化の一途を辿った。カップ戦ということもあり、これまで積み上げてきたキャリアよりも、出場意欲を買ったというところもあるだろう。だが、逆にベンチに座す、田中明日菜の存在感を浮きだたせる結果になった。

0B7A5476.jpg
責任を感じる髙瀬愛実だが、個人の問題ではない。

両者の差が明確に出たのは、浦和の決勝点だ。塩越柚歩の仕掛けで再三、左サイドを突いていた浦和は、この場面でも左サイドでI神戸を自陣深くまで押し込んだ。必死に防戦するI神戸は、中島依美にボールを預けたが、そこに北川ひかるが一気に襲い掛かり、前の選手と二人がかりで数的優位を作り、前へのパスコースを封鎖する。

0B7A4983 (2)
先発復帰した北川ひかる。好守にブランクを感じさせない活躍を見せた。

「あそこは『絶対に前に蹴らせちゃいけない』と思って寄せました。ひとつ仕事ができたと思います」と北川。結局、中島のバックパスを受けた守屋都弥に、ボランチの猶本光が素早く寄せてボールを奪取。浦和の連動した守備が、白木星の決勝点を生みだした。

今季、積極的な戦いぶりが目につく浦和。フォアチェックに駆けずり回る中盤から前の選手の負担は小さくないはずだが、その戦いぶりに迷いは見られない。結果が出ないリーグ序盤戦から、この盛夏を迎えても、選手がこのサッカーを貫き続けられてきた理由はどこにあるのか。

石原孝尚監督は「チーム全体で『対戦相手を圧倒して勝とう』という気持ちがある」と言う。「確かに、守備に走る場面はありますが、高い位置でボールを奪い取れば、ゴールまでの距離が近い位置で攻撃を開始できます。FWとしても、守備に走る距離が短くて済むんです」と白木星。「良い攻撃をするための良い守備」という戦術への信頼があるから、日中の気温が35度にも届くほどの猛暑日に、前線からボールを追い込むことができるのだろう。

0B7A5655 (2)
決勝点を奪った白木星も、今季の戦いに手ごたえを感じている。

もうひとつは、若い選手の使い方だ。昨季はチームオーダーで、SB起用などもされていた塩越柚歩は、ユース時代は主にトップ下で活躍してきた攻撃面に特徴がある選手。今季、石原監督はトップ下やSBなど、ディフェンス面での負担が少ないポジションで起用している。また「監督からは、できない部分についてはほとんど言われません。『真ん中でもターンができる』とか、長所を口にしてくれます」という具合だ。

「チーム戦術の中で自分のプレーを出す」と「自分のプレーを出しながら、チーム戦術をこなす」というのは、実際は順番の問題だけなのだが、その伝え方ひとつで、パフォーマンスはこうも違ってくるということか。



0B7A5945.jpg
浦和、I神戸追撃に勝ち点3が必要だったマイナビだったが……。

前日の「浦和勝利」を受けて、マイナビに残された道は勝ち点3奪取のみ。控え選手7名中5名がFW登録の選手というオーダーからも、越後和男監督の意気込みは知れた。そして、その気合が乗り移ったマイナビイレブンは、ちふれを押し込んでいく。

「『マイナビは背の高い選手が多いし、セットプレーを与えないようにしよう』と話していましたが、コーナーキックを何本も与えてしまいました」(薊理絵・ちふれ)

それでもマイナビの圧力を受けながら、ちふれの選手もシュートコースには必ず体を入れてきた。ユース出身の佐藤楓花、竹ノ谷好美、西澤日菜乃らも奮戦。45分間を終えてゴールキックの数はちふれが9本、マイナビが2本。試合内容では大差がついていたが、シュート数は互いに1本ずつだった。

0B7A5966.jpg
先発に若いユース育ちの選手が食い込んできたちふれ。後半戦が楽しみだ。

1点が欲しいマイナビの越後監督は、ハーフタイムに浜田遥を小野瞳、59分にはカトリーナ・ゴリーを井上綾香と、FWを取り換える。さらに72分には、右SBの坂井優紀を西川明花に代えるとともに、左SB万屋美穂のポジションも高くとらせて、実質的に2バックと言える布陣で押し込みにかかる。

これに対してちふれは、ようやく疲れの見えてきた佐藤、竹ノ谷を57分でお役御免。経験豊富な鈴木薫子と松久保明梨を送り込んだ。鈴木は、ミッドフィールドで変幻自在に動いて、後ろの選手がパスを出しやすい位置に走り込む。この鈴木の動きが、前傾姿勢をとるマイナビから、一度ならずカウンターを呼び込む。

0B7A6389.jpg
中盤で躍動したちふれの鈴木薫子。彼女の投入が試合の流れを一変させた。

そして、アディショナルタイムに入った90+2分。鈴木のキープから、長い距離を駆け上がった薊にパスが通る。数分前に決定的なチャンスを逸していた薊だが、懸命に追いすがった万屋の1歩先で強烈なシュートを放った。これが劇的な決勝ゴールとなり、ホームの観客から拍手が贈られる。夕刻開催とは言え、30度を超える気温、50度を超える湿度の中で戦っていたマイナビに、そこから何かを起こす術はなかった。

浦和の勝利で、グループリーグ敗退が決まっていたちふれだったが、リーグ戦から惜敗が多く、この悪循環を止めようと、士気は高かった。決勝点を奪った薊は「リーグ戦でも試合の終盤に決勝点をとられるゲームが多かった。今日は逆に、こちらが点をとって勝てた。この先につながる勝利になったと思います」。

若い選手で前半を耐え、勝負所で頼れるベテランを投入。元井淳監督の采配も光った。「この試合を前にした今週の練習でも、どの選手が出てもやってくれると期待できるだけのプレーを見せてくれていました。結果的には、後から出た経験のある選手が仕事をしてくれましたが、先発した若い選手のパフォーマンスも低いものではありませんでした」(元井監督・ちふれ)。

0B7A6407 (2)
ちふれは薊理恵のゴールで、劇的な勝利を手にした。

今節の結果、Bグループは浦和がI神戸を交わして首位に立ち、また、2試合を残す3位ちふれとの勝ち点差を8に、3試合を残す4位マイナビとの勝ち点差を10に広げて、グループリーグ突破を確定した。I神戸は勝ち点13で足踏みしたが、マイナビが敗れたために、残り3試合で勝ち点を1でも獲得すれば、その段階で浦和に続く。4位に転落したマイナビは3連勝とI神戸の3連敗が絶対条件という苦しい立場に追いやられた。


日テレ、開幕からの連勝は4でストップ

前半、ボールを競り合う長野・坂本(左)と日テレ・田中(左から2人目)
前半、ボールを競り合う長野・坂本(左)と日テレ・田中(左から2人目)

西森彰=文 金子悟=写真


■開始早々のワンパンチが、首位日テレにダメージを与える。

前半5分、先制点を決めて喜ぶ、長野・齊藤(中央)
前半5分、先制点を決めて喜ぶ、長野・齊藤(中央)

開幕から4連勝と今年もなでしこリーグを引っ張る日テレ・ベレーザ。第5節は、多摩陸上競技場にAC長野パルセイロ・レディースを迎えた。AC長野はここまで2勝2敗と五分の星。日テレの連勝が続くかと予想されたが、その雰囲気は、前半5分のゴールで霧散した。

高い位置からボールを奪いに行ったAC長野の守備が、日テレのボール回しを引っ掛け、ゴール前のエース・横山久美に届ける。対応しようと日テレのDFが集まったところに、齊藤あかねが前線に駆け上がった。

「横山がボールを持ったら、必ず、誰かが横を並走する」というチームの約束事を果たそうとする齊藤に、横山がパスを送る。自分のタイミングで打ったシュートはヒットしたわけではなく、勢いも今一つ。しかし、気持ちの乗り移ったボールは、日テレのGK・山下杏也加の手を弾き、ゴールに転がり込んだ。

前線からの連動的な守備で対戦相手を圧殺し、失点ゼロで抑えるというのが、昨年以来、積み上げてきた日テレの勝ちパターン。「内容は今一つだったが、ゼロで抑えてくれたから、後半は何とかなると思った」というのが森栄次監督の口癖だ。その勝利の方程式が、いきなり崩された。開幕戦でも再昇格したばかりのちふれASエルフェン埼玉に先制を許し、思わぬ苦戦を強いられていた日テレ。この失点で選手もナーバスになった。

これまでボールを奪いにくる相手をパス交換で振り回し、フリーの選手を作り出していた日テレだったが、この日は勝手が違った。AC長野の守備は自陣をミッドフィルダーとディフェンダーの4枚×2列でブロックを作り、日テレのアタッカーにスペースを与えない。壁を突破しかけてもキャプテンの坂本理保らがもうひとつの壁になり、シュートを打つことすらままならない。手詰まりになってくると、今度はディフェンシブハーフの國澤志乃らがボールを奪いにくる。

前半、パスを送る、日テレ・籾木(中央)
前半、パスを送る、日テレ・籾木(中央)とマークする、長野・國澤(右)

「早い時間帯に失点してビハインド。点をとりにいかなければいけない展開になってしまいました。苦しくしてしまった原因は、失点だと思います。相手が積極的にボールを獲りにくるわけでもなく、全体でズルズルと下がっていく。それでもゴール前には人がいる。回せるけれど、シュートが打てない。ゴール前のコンビネーションやクロスなど、攻撃パターンを増やさないと」(籾木結花・日テレ)

後半、ボールを競り合う、長野・國澤(左)と日テレ・田中(左から2人目)
後半、ボールを競り合う、長野・國澤(左)と日テレ・田中(左から2人目)

AC長野も國澤がボールを奪った後に効果的な攻撃を繰り出せない。去年のタテに速いサッカーでしみついた癖が出て、選手全員が一斉に前へ駆けだしてしまうのだ。これでは、横にはたいて一度、落ち着かせるといった選択肢がなく、日テレの守備陣もタテ一本に絞りやすい。泊志穂が裏を狙って、ボールを収めるなら横山久美という役割分担だったが、横山にもいつものキレが見られず、岩清水梓に封じられる場面が多かった。

「こういう展開になると予想はしていた。ブロックを作って守ろうという今年のサッカーにはいい練習になった。チーム全体でいい守備ができたし、國澤(志乃)がボールを奪うシーンも多かった。しかし、そこでもう一度ロストしてしまった。それは、もちろん國澤だけの問題ではないのだけれど、これから彼女が代表に残るため、そしてこのチームのためにも、苦しいところで彼女がボールを持てることが重要になっていく」(本田美登里監督・AC長野)

ハーフタイムを迎えて、日テレ0-1AC長野。このまま終わるゲームにはとても思えなかった。


■ともに勝機を逸して、痛み分け。

後半、ドリブルで攻める、日テレ・植木
後半、ドリブルで攻める、日テレ・植木

前半のシュート数はどちらも2本ずつ。ボール保持率からしたら、日テレのシュート数は少なすぎる。チーム全体でボールを動かしていくのが、本来の攻撃スタイル。だが、森栄次監督は、この局面を打開するためには荒療治が必要と判断した。

ハーフタイムに、ベテランの上辻佑実を下げて、10代の植木理子を投入する。「ボールはある程度持っていたけれど、シュートが少なかった。『これはどこか変えなくちゃ、このまま行っちゃうな』と思って、少し早いタイミングでしたが植木を入れました」と森監督。

スピードと高さがある植木は、指揮官が「ひとつのパーツ、ひとつの戦術」と語る、日テレの異分子。最終ライン裏へ飛び出し、ゴールを狙ってくるストライカーの投入で、日テレのシュートが増えてきた。後半のシュート数は全部で8。その半数が植木だ。

守備一辺倒になってしまったAC長野も、積極的なプレーが減りはしたが、日テレに自由なプレーを許さない。五嶋京香や小泉玲奈といった若手が女王を恐れず立ち向かい、そして望月ありさ、木下栞は古巣に一泡吹かせようと粘り強く守った。

「日テレ時代にやっていたセットプレーの練習を思い出したりしながら、プレーしていました。『阪口(夢穂)さんは、ヘディングシュートではコースを狙ってくる。だからギリギリまで飛ばないで我慢する』といったふうに」(望月・AC長野)

それでも日テレは72分、清水梨紗のクロスに植木が高いジャンプからヘディングシュート。この日、再三好セーブを見せてきた望月の牙城を破った。絶対的な個の能力に賭けた森監督の采配があたった。

「1点取って『よしよし』では終わらせてくれないところが、やっぱりベレーザ。前半の選手だけなら特徴にも慣れて守り切れるかなと思っていたら、後半、植木理子が入ってきた。身体能力のある選手。その高い能力に対応できず、入れられてしまった」(本田監督・日テレ)

その後、タイムアップ寸前に息を吹き返したAC長野が前に出て、日テレとノーガードの打ち合いになりかけたが、1-1のスコアは動くことなく、試合終了。同点に追いつかれる前に、AC長野にもPK獲得かというシーンはあったが、日テレの決定機はその数倍あった。どちらにとっても勝ち損ねたゲームであり、負けずに済んだゲームだった。


■産みの苦しみを味わうAC長野。包囲網の影を感じる日テレ。

この日は不発に終わった、長野・横山
この日は不発に終わった、長野・横山

「昨年はサポーターをハラハラドキドキさせましたが、今年はハラハラを少し減らしたい」と語っていたAC長野の本田監督。その戦術改革にはある程度メドが立った。一方でチーム戦術を守るあまり、攻撃時の迫力が落ちている。部外者の目には、それが強豪に伍して戦いながら、昨年度下位のチームにも結果を出せない原因に見える。「押していたジェフ千葉戦でも少ないチャンスでやられていたから、それだけではないと思います」と國澤。今のサッカーへの信頼、手応えだろうか。

同じ疑問を本田監督にぶつけると「そのとおり。ただ、今は、こっちをやろうとするともう一方ができなくなる。対戦相手や試合展開によって、完璧に使い分けができるようになればいいんですけれど」。本当の力を手に入れるための転換期。目の前の結果を追って、急いては事を仕損じるといったところか。


試合終了から時を置かず、多摩陸上競技場に雨粒が降ってきた。「この雨がもう少し早く降ってくれれば」と冗談交じりで口にしたのが日テレの森監督だ。普段、日中に働き、あるいは学校に通う日テレの選手は、夜に集合して練習する。すると、日中の乾燥したボールが転がらない芝でプレーすると、テンポが狂ってしまうのだ。どこも似たような条件だが、コンビネーションに長けているチームほど、そのストロングポイントを出しにくい。

「試合時間の中だけで慣れるというのはやはり難しいですし、ゲームと同じ環境で練習できたらいいのですが、無理を言っても始まりませんから」(籾木)

そうした問題は別にして、女王を取り巻く他チームの抵抗も激しさを増している。前節の浦和レッズレディースは、オールコートに近いプレスをかけてきた。この日のAC長野は、縦深陣地を構築してきた。

「ウチが勝ち続ける中で、他のチームもしっかりと戦術を研究し、対策をとってきている。簡単なゲームはありません」と森監督。「今日に関しては勝てなかったというより、負けなかったことを収穫と捉えるべきだと思います」と籾木。リーグ3連覇への道のりは、周囲が考えるほど、たやすくはない。

12345678910111213141516171819202122232425262728293031 08